第31話 続きはこのあと
「せい君、せい君……」
「ん?」
「あ、起きた。朝だよせい君」
いつの間にか寝ていたようで、気が付けば朝だった。
いつものように神岡が起こしてくれる朝。
ただ、昨日のキスを思い出して朝から胸がそわそわする。
「……」
「どうしたの? せい君、顔赤いよ?」
「な、なんでもない。寝すぎたせいだ」
「そ? ね、ちゅうしよ?」
「な、なんでそうなる?」
「えー、だって昨日いっぱいしたもん。今日もしよ?」
「……断る」
昨日は約束だったから。
それに半ば強引な形で詰められて仕方なく……いや、そんな道理が通るのか?
くそ真面目の血が、少し騒ぐ。
いくら相手に要求されたからといって、キスしておいてハイさよならなんて、やってることがヤリチンそのものなんじゃないかと。
責任を負うべきなんじゃないかと、俺の胸が騒ぐ。
「どうしたの? せい君、キスしたいの我慢してる?」
「し、してない、けど……」
「じゃあどうしたの? もしかして、キスしたのにまだ言い逃れできるとか、思ってる?」
「うっ……」
「もう無理だよ? キスしておいてハイさよならとか、それこそせい君、ヤリチンだよ?」
「ぐっ……」
「責任とってくれるよね? 私、初めてだったんだけど。このまま彼女にもしないとか、ありえないよね?」
「ぐぬっ……」
「もしそのつもりなら、今日学校で先生に言うから。無理やりせい君の方からキスされて捨てられたって。あと、ご両親にも」
「わ、わかったわかった! 俺が悪かったから許してくれ」
キスしたのは事実だ。
無理やりではないが、しかも俺から、というのも合ってる。
それにそんな話をうちの両親にされたらそれこそ終わりだ。
特に父は責任感の塊みたいな人だ。
そのまま責任を取って結婚しろとか、絶対言うに違いない。
いったんここは穏便に。
謝って済むならいくらでも頭を下げよう。
「せい君はそんな人じゃないもんね。じゃあ、今日から正式に彼女でいい?」
「……キスした以上、それは否定しない」
「あと、別れるとか言わない? すぐ別れるなんて、ポイ捨てヤリチンやろうじゃないよね?」
「あ、当たり前だ……俺は、ちゃんとする」
「よかった。じゃあ朝ごはん作って待ってるから着替えたら降りてきてね」
「……ああ」
こうして、俺は無理やりな形で神岡を彼女に認定させられた。
まあ、これは別にいい。
俺が認めなくてもやってることは同棲だし、周りからは彼女認定されてるわけで、今更付き合ったと言っても、だからなに? って感じだろうし。
ただ、問題はその先だ。
付き合ったんだからああしろこうしろと、要求が増してくるだろうことに不安しかない。
「せい君、朝ごはん食べたら一緒に学校行こうね」
「あ、ああ」
キッチンで待っている神岡は、そんな俺の心境を知ってか知らずか、いつにも増してにっこにこだ。
そして、朝食を食べ終えるとやはり求めてくる。
「んっ」
「……何の真似だ?」
「あれ、朝ごはんありがとうのちゅうだよ? それとも昨日のはやっぱり」
「わ、わかったするから。た、ただちょっと待て、口が汚れてるから」
「いいの。んーっ」
「んんっ!?」
まだ朝食の食べかすがついた俺の口を味わうように神岡はキスをしてきた。
そして神岡側からされる積極的なキスは俺の警戒心と思考を溶かしていく。
ダメだ、気持ちいい。
なんだこれ、幸福感で満たされる。
なんでこいつの口は朝食を食べた直後なのにこんなに甘い香りがするんだ。
「……」
されるがまま、だった。
舐めるように俺の唇を求める神岡はしばらく俺を堪能する。
そして俺も。
彼女にされるがままの状況を、堪能してしまっていた。
「……ふう。せい君、いっぱいしちゃったね」
「あ、ああ。ええと、かみお」
「紫苑ですよ?」
「し、紫苑……あの、そろそろ学校行かないと遅刻、する」
「んー、このまま続きしたかったけど。遅刻はさすがに生徒会長としてまずいもんね」
「も、もちろんだ。俺は生徒会長だからな」
「ふふっ、かっこいい。ね、せい君」
「な、なんだ?」
俺から離れた神岡はゆっくり俺の耳元に顔を近づけて。
小さくつぶやく。
「帰ったら続き、しようね?」
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