第6話 ウィンストンの彼女

今日の相手はいい子だった。

それはもうめちゃくちゃよかった。

まずシンプルに顔が好みだし他にも…

まあ、とにかくいい子だった。


ふぅ、

ウィンストンってこんな味なんだ、なんか好きじゃないな。

彼女は煙草の煙が苦手らしく、ベッドの上でスマホを触っている。

あら、坂田ちゃんが何やら手招きをしている。

その様子がかわいいので、俺はまだ三分の一も吸っていない煙草を灰皿に投げた。

「すいませーん!椎名さーん!えっち中に撮った動画彼氏に送っていいですか

 ー?」

坂田ちゃんがスマホの画面を見せながらそう言った。かわいいなあ…

ん?

「え?坂田ちゃん彼氏いんの?え?いいのセックスとかしちゃって、てゆうか

 動画送る?どういう事?」

確かに坂田ちゃんはセックス中に動画を撮っていた。でも彼氏がいるとは聞いていないし、動画を送るというのもよくわからない。

「すいません、言ってませんでしたね。私彼氏いるんです!

 それで、うちの彼氏、私がバチバチに犯されてるの見ると興奮するんですー」

坂田ちゃんはさも平然かのように言っている、まじか。

 「う、うわぁ、凄い性癖だねその彼氏、まあ、送るのは構わないけど」

「ありがとうございまーす」

坂田ちゃんはずいぶんとウキウキの状態だったが、どうしてそんな性癖に目覚めてしまったんだろうか、少なくとも俺はちょっとやだ。

「坂田ちゃんの彼、すげえ性癖してんだね」

とりあえず俺もベッドに横たわって話を聞いてみる。

その性癖の生い立ちが気になる。

「そうなんですよ〜、うちの彼氏、元カノが寝取られちゃったみたいで、そん時

 に元カノと知らない男がえっちしている動画が送られてきたんですって。

 まじ最低な女ですよねー。それで病んでるときにアタックかけたら付き合えた

 みたいな感じなんですよね」

まあ、そこまでなら大学生とかにはありそうな話だ。

「それである日突然、彼氏が私と元カレとのハメ撮り送ってほしいっていいだし

 て、まあ、目覚めちゃったんですよ、きっと。

 それから私は椎名さんみたいな人達といっぱいえっちして、その動画を彼氏に

 送ってるんですよねー」

坂田ちゃんは明るく振る舞っているが、その表情には影が落ちていた。

そりゃあそうだろうな、なかなか酷い彼氏だ。

「ねえ、坂田ちゃん、俺が言えた話じゃないけど、辛かったらやめた方がいいよ?

 そんなことさせる彼氏別れた方が…」

 「ああ、違うんですよ。私はえっちが辛いと思ってませんよ。

  それであの人の欲求が満たされているなら私も嬉しいですよ。

  私が嫌なのはあの人は私を元カノと見立ててることなんですよね、

  結局あの人が求めているのは元カノのハメ撮り。

  私のお姉ちゃんのハメ撮りなんですよ」

坂田ちゃんの声が震えている。

思っていたより重たくドロドロとした話だった。

焼き肉食べた後ぐらい胃もたれしそうだ。

「私は最初からあの人が好きだったのに、お姉ちゃんが奪っていった、

 しかもくだらない男と浮気して最低なことをしたんです。

 そのせいであの人は歪んじゃいました。

 私だって普通にあの人とセックスしたいですよ!

 お姉ちゃんのせいで全部全部全部ぐちゃぐちゃなんです!」

坂田ちゃんは全部を言い切って泣き出した。

坂田ちゃんはその彼氏を愛してるんだな。

俺は馬鹿だからそれくらいしかわからなかった。

うーん、こういう時ってどうしたらいいんだろう。

前にもこんなことあった気がする。

「なあ、坂田ちゃん、嫌なことあったら何かにすがろ。

 それが一番楽だよ」

きっとこれは最悪な手段なんだろうが、俺は坂田ちゃんに煙草を教えた。


別れ際、俺は坂田ちゃんにウィンストンを沢山買ってあげた。

「ありがとうございます、大事に吸いますね」

坂田ちゃんはレジ袋を抱えて笑った。

目元は少し腫れているがかわいい。

「でもよかったの?ウィンストンで、他にもいろいろ吸ってから決めてもよ

 かったんじゃない?」

 「えへへ、それがですね、私の彼氏の苗字、石勝って言うんですよ」

んん?せきしょう?せきしょう…せき勝…石勝?

「あーなるほど、ウィンストーンってこと?」

坂田ちゃんはクスクスっと笑って手を振りながら去っていった。

はぁ、行ってしまった。いい子だったな。

あの子に幸あれ、あんなにかわいいんだから幸せになれ。

そういえば、石勝って珍しい苗字。

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