第38話 妖狐と雷獣はやっぱりニコイチでした

 梅園六花ちゃんはメイドさんとしていないのかしら。ミクちゃんの接客を受けているはずの私は、途中からついついそんな事を思い始めていた。

 それは何かを探るように視線を走らせるハラダ君を見たからなのかもしれない。ううん、私自身でも六花ちゃんがメイドさんをやっていたら面白いのにと思っていたからだ。

 面白いかどうかはさておき、六花ちゃんのメイド姿も中々に魅力的だろうな、と私は確信していた。六花ちゃんは意外と可愛らしい面立ちだし、何よりあの輝くような銀髪と明るく澄んだ翠の瞳は人の目を惹くに十分すぎるではないか。いや……本来の雷園寺君だったとしても、執事とかウェイター姿は様になると思う。ここのお店には執事とかウェイターとかはいなさそうだけれど。

 ともあれ私がすぐに六花ちゃんの不在を怪しんだのは、京子ちゃんと六花ちゃんが(と言うか島崎君と雷園寺君が)大体ニコイチで活動していると思い込んでいたからなのかもしれない。


 さてメイド喫茶でも知り合いの妖怪たち(と言ってもその一人は目の前にいたんだけど)に想いを馳せている間に、楽しい時間も終わってしまった。六十分コースが終わったのだ。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様にお嬢様」


 店を出る私たちを送り出すメイドさんたちの挨拶の声には、もちろんミクちゃんの声も加わっていた。

 私たちは店に入った時と同じように、本村君を先頭にしてぞろぞろと店を後にした。本村君は私たち二人の事を気遣っており、ハラダ君は夢心地と言った表情で歩を進めていた。きっと、ミクちゃんの姿が印象に残って仕方ないのだろう。

 そんな感じだったから、本村君とハラダ君は、私たちの横を通り抜ける一団に気付かなかったみたいだった。私はばっちり気付いたんだけどね。


 その一団は私たちと同じく三人組だった。男子二人と女子一人と言う所まで同じで、それが何故か私には面白く思えてしまった。

 しかも――その一団には私の見知った顔ぶれもあったのだ。男子の一人は雷園寺君で、女子の方は鳥園寺さんだったのだ。もう一人の男の子は誰なのかは解らない。でも何となく島崎君に似ていた。彼には弟や年少の従弟はいないらしいんだけど……きっと彼らの知り合いか何かなのだろう。


「お帰りなさいませ……」


 私たちが通り抜けたすぐ後に、メイドさんたちの挨拶の声がこちらにも聞こえてくる。私はそこで、六花ちゃんが何故あの時メイド喫茶にいなかったのかを悟った。

 雷園寺君はきっと、梅園六花としてメイドさんになる事ではなく、客側としてやって来る事を選んだんだろうな。そんな推論が私の頭の中にごく自然に浮かび上がっていた。もっとも、何故島崎君が那須野ミクとしてメイドさんをやっているのか、その辺りは謎に包まれているんだけど。

 雷園寺君とか鳥園寺さんがそのメイド喫茶に向かっているのは……まぁ十中八九那須野ミク目当てだろうとは思うんだけど。

 その辺りも適当にタイミングを見繕って、島崎君たちに聞いておこうかしら。未だ興奮冷めやらぬハラダ君を見やりながら、私は静かにそう思っていた。

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