第7話 始まりの町
教えてもらった宿屋に行くと、
「いらっしゃいませー」
と元気いっぱいに迎えてくれる女の子に、宿泊したい旨伝える。
「すみません。泊まりたいんですが」
「相部屋か個室どっちがいい?」
「個室でお願いします」
「素泊まりなら一泊銀貨5枚、食事つきなら銀貨8枚だよ」
「素泊まりで三泊お願いします」
「まいどあり! 母さん、素泊まり一名様だよ」
女の子が厨房の方に声か掛けると、奥から恰幅の良い女性が現れた。
「これが鍵だ。失くさないでおくれよ。後、うちは前払い制でね。もし延長するなら前の晩には言っておくれ」
「分かりました」
私は料金を払って鍵を受け取り、二階の割り当てられた部屋に入った。
内鍵を閉めて、やっと一息吐けた。
ステータスの確認をして、偽装工作をしなければ。
その後に冒険ギルドに行って冒険者登録をしよう。
---------STATUS---------
名前:ヒロコ(
種族:人族[異世界人]
レベル:32
職業:
年齢:18歳[25歳]
体力:102/125→130
魔力:195/200→220
筋力:85→87
防御:63→68
知能:108→110
速度:60→62
運 :600→650
■装備:ヨレヨレのYシャツ・カーゴパンツ・黒スニーカー・綿の鞄
■スキル:縁結び・
■ギフト:全言語能力最適化・アイテムボックス・鑑定・経験値倍化・成長促進
■称号:なし
■加護:なし[須佐之男命・櫛稲田姫命]
[■ボーナスポイント:370pt]
-------------------------------
[]は、隠蔽もしくは非表示にしたものだ。
運が著しく上昇している。
この先トラブルを呼び込まないと良いんだけど。
幾ら童顔だとはいえ、25歳のおばちゃんが18歳とサバを読むのは心が痛む。
というか、サバ読みすぎだろう。
バレたら色々と怖い。
100円均一で売っている基礎化粧品でも潤沢に使えば、肌年齢は若返るということを実証されたと思うことにしよう!
お金の価値が分からないと、適正価格も分からない。
損得勘定も出来ない。
ギルドに登録するついでに、町で情報収集する必要がある。
「よし、まずはギルドへ登録だ!」
私は、看板娘の女の子に冒険者ギルドに行ってくると伝え鍵を預けた。
マッピング機能が欲しい。
そう切実に思った私は、現在進行形で迷子になりました。
露店を冷やかしていたら道が分からなくなり絶賛迷子中。
やっぱり品物によっては、地球産の物の方が良いように思える。
串肉屋をジーッと眺める子供がいたので、声を掛けてみた。
「ねえ、そこの君。串肉1本買ってあげるから、ちょっと教えて欲しいんだけど」
物凄く不審そうな目で見られた。
小さな子にそんな目で見られるとグサッと心に突き刺さるね!
「おじさん、串肉2本頂戴」
「銅貨2枚だ」
銅貨2枚渡して、一本をその子に渡すとパァッと顔を明るくして肉にかぶりついた。
もきゅもきゅと小さな口で頬張っている姿が可愛い。
小汚い恰好からしてストリートチルドレンなのかな?
「私は、ヒロコって言うの。ド田舎から出てきたんだけど、物々交換で生活出来ていたからお金がいまいち分からないんだよねぇ。お金について君は知ってる?」
「お金を知らない人初めて見た。アーラマンユ教会が発行している国際共通貨幣は知ってる?」
「う~ん、知らないなぁ。うちの村には、教会は無かったからね」
「じゃあ、祝福の儀や成人の儀もしなかったの?」
「一応、独自でお祝いすることはあったけど。そのアーラマンユ教会で儀式をすることは無かったかな」
そう伝えると、物凄く可哀そうな目で見られた。
「お姉ちゃん苦労してるんだね」
「そのアーラマンユ教会で祝福の儀や成人の儀をしないとどうなるの?」
「祝福の儀で、スキルや加護が貰えるの。成人の儀は、職業が決まるんだよ。平民でも、時々レアな職業を授けられる人もいるの!」
私の場合、管轄が地球で何かにつけて神社に参拝していた。
祝福の儀も成人の儀も知らぬ間に済ませていたということだろうか。
「国際共通貨幣は、青銅貨・銅貨・銀貨が良く使われるの。青銅貨10枚が銅貨1枚、銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨10枚が金貨1枚になる。白金貨もあるけど、大商会やお貴族様達が使うから平民には縁が無いんだよ」
「そうなんだ」
お金の単価を纏めると、以下の通りになる。
10円=青銅貨1
100円=銅貨1枚(青銅貨10枚)
1000円=銀貨1枚(銅貨10枚)
10000円=金貨1枚(銀貨10枚)
今の所持金は銅貨68枚、銀貨13枚、金貨30枚。
日本円にして319,800円也。
サイエスが十進法で良かった。
計算がし易くて助かる。
「後、冒険者ギルドの場所ってどこにあるか知ってる?」
そう聞くとすかさず手を出されたので、無言でそっと銅貨3枚を渡した。
「あそこの青い屋根の建物が冒険者ギルドだよ」
にっこりと良い笑顔を浮かべて答えてくれた。
目と鼻の先にあるとは、灯台下暗しってやつですね。
遠足のおやつ程度のお金で場所という情報を買えたのだから良しとしよう。
目的の冒険者ギルドは、大きかった。
市の図書館くらいの大きさで建物も立派なつくりになっている。
見る限りでは三階建のようだ。
中に入ると以外と人が少ない。
それもそうか。
丁度、昼食より少し前の時間だ。
実入りの良い仕事は早いうちに無くなるだろう。
ラノベを参考にすれば、冒険者の活動も朝早くが多い。
実際に本当だとは思わなかったけど。
併設している食堂らしき場所には、チラホラ席が埋まっている程度で誰も私に興味を示さないのは有難い。
カウンターの受付嬢に声を掛けた。
「すみません。冒険者登録をしたいのですが」
「依頼の間違いではなく、登録ですか?」
聞き返された。
解せぬ。
「はい、登録を希望します」
「15歳からでないと登録は出来ないのですが……」
「成人しています。今年で18歳です☆」
嘘です。
実年齢は25歳です。
不信な目で見られているが、気にしたら負けだ。
「それでは、登録を行いますのでこちらに記入をお願いします」
質の悪い紙を渡された。
名前・出身地・特技などを埋めていく。
出身地はヤシュナ村って事にしておいた。
勘違いさせたのは、門番さんだし。
後で幾らでも言い訳が出来る。
書き終えた紙を渡すと受付嬢は奥に消えて、銀色のカードを持ってきた。
大きさは銀行のキャッシュカードくらいだ。
何も書かれていない。
見た目はただの銀板だ。
「ここに血を垂らして下さい」
スッと差し出された針にちゃんと消毒されているんだろうかと思いながら、指に押し当てぷっくりと浮かんだ血を垂らした。
針を返すと受付嬢はニッコリと営業スマイルを浮かべて言った。
「これで貴女も始まりの町冒険ギルドの一員です」
「……この町の名前って、始まりの町なんですか?」
「はい、そうです」
ドラゴンでクエストなゲームじゃあるまいし、ちゃんとした名前を付けなさいよ。
本当どうでも良いところはゲームに酷似している。
虚脱感が半端ないが、まだ終わっていない。
ギルドのルールや昇格降格などの情報を確認することがある。
「冒険者ギルドのルールとギルドカードについて教えて下さい」
猫かぶり営業スマイルが剥がれ落ち、え? まだするの? とばかりな受付嬢に、今度はこちらが営業スマイルを返してやった。
「これから活動していくのにルールなど知らないと不便ですので」
「ギルドカードを見て下さい。ヒロコさんは、見習いになるのでギルドランクはFとなります。受注可能なお仕事は、一つ上のEかFとなります。依頼達成で依頼報酬と共にギルドポイントが付与されます。ギルドポイントが一定に達すればランクを上げることができます。ただし、無条件でランクを上げられるのはEランクまでになります。Cランクから模擬戦闘試験も含まれます。ギルドカードには、ヒロコさんの個人情報が詰まってます。見せたくない情報は隠すことが出来ます。名前・レベル・職業・ギルドランクは最低限表示して下さいね」
受付嬢に言われて、私は必要最低限の表示のみに変更した。
「ギルド内の諍いはご法度です。悪質な場合は、ギルド追放もあり得ます。後は、依頼失敗の際は罰金が発生しますので注意して下さいね。素材などは、あちらの窓口で買い取りを行ってます」
デカデカと買い取りブースと書かれている。
「依頼達成報告は買い取りブースでして貰うという事でしょうか?」
「基本的にはそうなりますが、混雑している場合は受付でも行ってます」
「新人に対しての指導などは行ってますか?」
「そうった事は行っておりません。どこかのパーティーに入って学んで頂くことが多いですね」
ソロには厳しい縛りプレイだわ。
色々と秘密がバレるのも面倒なので、当面は始まりの町でレベル上げしてから他の町へ移動が妥当だろう。
「色々ありがとう御座いました」
「頑張って下さいね」
命大事と心に刻み、折角来たので草原で狩ったモンスターのドロップ品でも売ることにしよう。
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