第4話‐私の推しのデートプランを組む話

「マチナカ食べ歩きフェア?」

「そう! これに行けばいいんだよ!」


 店内に掲示されていたのは、マチナカ食べ歩きフェアという、駅前商店街に活気を取り戻そうというプロジェクトの一環だった。


「ほら、漫画でもよくあるじゃん、カップルで食べ物シェアしてあーんするとか」

「男二人で、それやるのハズくない?」


 すこし照れまじりに返事する近藤くん。しかし、私の熱量はそんなことで収まらなかった。推しと、推しの親友による同性カップル。腐女子の私からしたら、それは今一番推せるカップリング……いわゆる、リアルの推しカプなわけで。


 私が食べ歩きフェアを提案する様は、まさしく会社でプレゼンを行う社員のようだった。


「ほら、たくさん食べ物買ってさ、ほかの料理で両手がふさがっているとするじゃん? そして、あーんを求めたらいいんじゃないかな? 多分、商店街の椅子らしい椅子は当日埋まるだろうから」

「それ、ほかの人から見ても自然かな?」

「大丈夫じゃない? あとほかの人も食べ物に夢中だからそんなに気になんないと思うよ!」

「確かに‼」


 ニパッという効果音がお似合いなほどに眩しい笑顔を見せる近藤くん。本当に、佐川くんのことが好きなんだな……と傍から見ていて微笑ましくなってくる。


「ちょ、俺、侑大に提案してみるね。本当にありがとう!」

「私で役に立てたのならそれはよかった!」

「じゃ、約束通り俺が奢りますよ」

「え、本当にいいの?」


 時間も時間だ。そろそろ帰ろうか、と席を立つと伝票をスッと取っていった近藤くん。別に奢ってくれなくてもよかったのに、と思っていたけれど、お言葉に甘えることにした。


「じゃあ、楽しみだね。デート。コイバナあったらまた聞かせて!」

「OK! じゃあ、俺デート頑張ってくる! またね、気を付けて帰って!」


 カフェを出て、駅前で別れる。手を大きく振ってくれた近藤くんに、そっと手を振り返して駅の中へ入っていった。

 ピコン、となった携帯。開いてみると、新着メッセージが届きました、といった内容。送信主は近藤くんだった。

 通知バーをタップすれば、「感謝!」と頭を下げる動物のスタンプが送られていた。本当に、相談乗ってもらえたのが嬉しかったんだろうなぁ、なんて思いながら改札をくぐる。


 今日という日は、驚きの連続だった。近藤くんに本屋で会って、近藤くんが腐男子で、かつ、彼氏がいることを知って、そして相談に乗って……。

 驚きの連続だったけれど、なんだかんだで楽しかったなぁ、という感想しか出てこない。推しである近藤くんの連絡先、手に入れちゃったし、これからも相談相手としての関係は続くだろう。


 私は、近藤くんを推している。それは、恋愛感情じゃなくて、例えるならばこのアイドルが好き!とか、この俳優さん好きなんだよね!とか。それに似た、感覚。


 近藤くん、来週のデート、成功するといいなぁ。

 そう願いながら帰宅する、私の足取りは軽やかだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る