第2話-私の推しに恋愛相談をすることになった話

「……ちょっと待って。じゃあ、近藤くんには彼氏がいるんだね?」

「うん。ちょっと前からつきあってるんだけど、俺、人と交際するの初めてだからわかんなくて」

「そうは言ったって、私も恋愛経験ないよ?」


 私は恋愛小説や恋愛漫画を見たり、人のコイバナを聞くのは大好きだ。しかし、今まで自分の恋愛というものと縁遠い人生を送ってきたのだ。相談何て、乗れるわけがない。


「吐き出せる場所があるとないとじゃ、違うんだよ!」


 確かに、自分が同性愛者です、なんて男友達にカミングアウトしたとして、そのまま友人関係が続行できる確率は半々だ。同性愛というものがまだ浸透しきっていないこの日本で、まだ嫌悪感を表す人だっているはず。それは、個人の考えだから、仕方のないことでもあるけれど。


「まぁ、私は同性愛に理解あるし、むしろもっとやれ! と思う派閥の人間だし、都合はいいのか……」

「腐女子も腐男子も基本的に隠れるじゃん? だから、マジで相談する人見つからなくて……」


 それはちょっとわかる気がする。私だって、インターネットの友人を除いて、腐女子友達は誰もいない。潜んでいるだけかもしれないが、語り合える友人はいないのだ。


「……いいよ。参考にはなるかどうかはわからないけど、恋愛相談乗るよ」

「本当⁉ ありがとう……。じゃあ、連絡先交換しよ!」


 そうして私は、ひょんなことから推しの連絡先を手に入れてしまったのである。トーク画面に追加された、近藤政人の文字。まさか、こんなことになるなんて、朝登校してきた私は思ってもいなかったのだ。


「ねぇ、彼氏の話、聞いてもいい?」

「いいけど、えっと……」

「どうしたの?」


 先ほどまでの明るい様子はどこへ行ったのだろうか。急に近藤くんは言いよどんだ。それほど、彼氏の話をしたくなかったのだろうか、と焦ると近藤くんは口を開いた。


「俺の彼氏、うちの学校にいるんだけど、名前言った方がいい? それとも知りたくない?」


 あぁ、そういうことか。近藤くんのその一言で、私は納得する。もしかしたら、私が恋愛相談に乗るのはいいけれど、実際誰と誰が付き合っているというところまでは知りたくないのかもしれない、と思ったのだろう。


「んー、好きな方でいいよ? 私はどっちでも大丈夫」

「じゃあ、話しやすいと思うから名前だすね」


 私はその言葉に頷いた。そして、彼はスマホをスワイプして一つの写真を私に見せる。


「俺の彼氏、佐川侑大っていうんだけど。宮野もわかるでしょ?」


 今日一番の笑顔を向けてくる、近藤くん。わぁ、その笑顔めちゃくちゃ好きだ、オタク殺す気か……なんて思っているけど、見せられた写真と先ほどの言葉を反芻する。


「佐川くん……!? え、私の知ってる佐川くんだよね!?」

「うん、あってる。うちの学年には佐川は一人しかいないでしょ」


佐川くんは、クラスで一二を争うイケメンで、先輩も同級生からも後輩からもモテる男子だった。


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