第20話

「お弁当、ですか?」

「はい、お弁当です」


 体育祭も終わった次の週の放課後。


 いつもの場所で勉強をし終わってから、この話を早速切り出してみた。


「どうして、私にお弁当を作ろうと思ったんですか?」

「それは、霧姫さんがいつも菓子パンを食べているからですね。所謂お節介ってやつです」

「そうですか。ですが、それだとあなたに負担ばかりかけてしまうように思えるのですが」

「大丈夫です。僕がしたいって考えているんですから」

「作ってもらえるのはありがたいですが、お金関連の事はしっかりしたいので食費の分は私が出しますね」

「それは.........」

「私が出します。それを飲めないのでしたらこの話は無かったことにしましょう」

「.........わかりました」


 霧姫さんはそういうところしっかりしているからな。


 でも、まさか受け入れてもらえるなんて思っていなかったから、素直に嬉しい。


「霧姫さんはお弁当のおかずだとどれが好きなんですか?」

「そうですね。.........卵焼きとかでしょうか?」

「甘い物ですか?少ししょっぱい感じが好きですか?」

「甘いものの方が好きですね」

「そうですか。じゃあ、そうしますね」


 霧姫さんって甘い卵焼きが好きなんだ。そこは絵美里とはすこし違うな。絵美里は大体しょっぱいものが好きだから。


「.........赤塚君」

「どうしたんですか?」

「なんで、あなたはそこまで私にしてくれるの?」


 とこちらを窺うように突然そう言ってきた霧姫さん。

 

 そこまでするのって.........べつにそこまでの事してないような気がするんだけれど。


「ただの、貸し借りの関係じゃない。それなのに、どうしてそこまで?」

「そうですね、強いていえばもっとよく霧姫さんの事を知りたいからですかね」

「っ!?そ、それはどうして?」

「確かに、僕たちの関係は貸し借りの関係で始まった物ですが、それでも霧姫さんとせっかく縁が出来たんですから、霧姫さんのことをもっと深く知りたいなって思うのは普通の事じゃないですか?」

「.........そうかしら?私は誰にでも冷たい人だって言われているくらいよ。あなたくらいじゃないかしら。冷たくされても私の事を知りたいって思う人は」

「僕は、霧姫さんの事を冷たいだなんて思ってませんよ。まだ付き合いは浅いですけれどそれくらいは僕にも分かります」

「それはどうして?」

「だって、霧姫さんだって嬉しいことがあれば笑っていたし、恥ずかしいなって思ったら照れていたし、プレゼントあげれば喜んでくれた。僕にはどう見ても普通の女の子にしか見えませんでした。他の人を冷たくあしらっているのはまるで作っているかのような気さえします」

「そ、それは.........」


 そこで言い淀み、俯く霧姫さん。もしかして何か癪に障るようなことを言ってしまっただろうか。


「赤塚君。今度の休日、空いているかしら」

「.........え?あ、空いていますけれど」

「私と一緒に行って欲しいところがあるの」


 真剣な顔でそういう霧姫さん。これはもしかして.........デートというものだろうか?


「わ、分かりました」

「そう、なら良かったわ」


 霧姫さんは僕の答えを聞くと安心してくれたようでほっと息をつく。


「それじゃあ、もうすぐ図書室が閉まって帰りましょう」

「そうですね」


 *******


『他人の事を冷たくあしらっているのはまるで作っているかのような気さえします』


 彼は私の事を良く見てくれていると、感じた言葉だ。それに彼は私の事を普通の女の子だとも言ってくれた。


 この胸の高鳴りは.........やはり、恋なのだろう。


 まともに赤塚君の顔を見ることなんてできそうになく、今日はいつにもまして彼の眼を見ることが出来ない。


 彼とは付き合いたい。


 だが、私は彼と付き合えるほどの人間ではないし、それにあの子を置いて幸せになるなんて私は出来ないように感じる。


 だから、せめて彼に私の過去のことを話したい。


 どう思われるかも分からない。もしかしたら嫌われるかもしれない。というか嫌われるだろうともそう思う。


 胸が苦しい。辛い。


 だけれど、死んでしまった彼女はこれ以上の痛みや苦しみを味わっていたのだから、私に文句何て言えるはずもない。


 今週の休日、そこで私と彼の関係は終わるだろう。


 






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