第15話 自分も理解していない怒り。

 昨日は霧姫さんとちょっとした喧嘩別れをしたような感じになって仕舞った。


 それを悔やみつつ、登校し席へと着く。


「おはよう、赤塚」

「おはよう、羽鳥」

「今日の総合の時間と体育の時間が合わさって二時間体育祭の練習できるらしいぞ」

「まじか、いいのか悪いのか」


 さっそく今日から体育祭の練習が始まる。


 その練習の中には昨日立候補したリレーがあって、そのメンバーの中には霧姫さんがいるわけで。


 はぁ.....未だに何故怒っているのか分からないけれど、きっと何か良くないことを言ってしまったのだろう。


 霧姫さんは合理的で理知的な性格だと思うからきっと、なにか理由があるはずだと思う。


 体育の時にはきっと言えないけれど、放課後には謝ろうと思う。


 そこから絵美里が合流していつものメンバーで雑談をして、ショートホームルーム、授業と続いて二限三限の連続体育の時間になる。


 校庭に集まりお決まりの準備運動をしてからそれぞれの持ち場へと着く。


 二時間目は、それぞれリレー以外の競技もあるのでそっちの練習をした。そちらの方は問題もなく、練習をすることが出来た。


 だが、次の三時間目の方が問題である。


 校庭に僕と、絵美里、クラスの男子一人そして、最後に霧姫さん。


 昨日まではそんなことなかったけれど、今日の僕と霧姫さんの空気はそこそこ冷え切っていた。


「晴夏と私がいるから、今回のリレーは私達のクラスの勝ちだね」

「そうかな?」

「そうだよ。晴夏は陸上部の人たちにだって負けないくらい早いんだから」


 絵美里は元々の運動神経がいいから勉強はあまりできなくても、体育の成績はかなり良い方だ。


 だけれど、本人はその才能を部活では発揮せず帰宅部に所属して才能を眠らせている。


「精一杯、頑張ろうね」

「そうだね」


 といつものように軽いスキンシップで僕の手を取る。


 すると、何故か空気が凍るようなピキッという音が経ちそうな程、冷たくなる。


「さっさと、練習を始めましょう」

「そ、そうですね」


 霧姫さんが絶対零度の瞳で僕の瞳を射抜いてそういうので僕は激しく首を振って肯定する。


 これ以上ダラダラしているとより冷たい視線が来ると思い、早速練習を始める。


 一番足が速かったのは僕だったので、僕がアンカーに抜擢された。一番手は、絵美里で、二番手がクラスの男の子。そして三番手が霧姫さんとなった。


 絵美里の脚力なら、序盤で大きくとまではいわないけれど有利は作れると思う。


 クラスの男子のあの子もそこそこ早く、霧姫さんはもちろん女子の中ではトップくらいには早い。


 僕たちのクラス、本当に一位取れるかもしれない。


「私達、凄く速いよ。本当に一位取れるかも」

「そうだね。僕もそう思う」


 それから僕たちはバトンパスの練習をしたり、通しで走ったりしてその日の練習は終わった。


 霧姫さんは僕とのバトンパスの練習の時には普通に、というか穏やかに接してくれていたのに僕が絵里理と話したり、軽いボディタッチをすると絶対零度の瞳で僕の事を見ていた。


 チーム練習に支障が出るからそういうことをするなっていう警告だろうけれど。


 授業もすべて終わり、放課後になり、いつもの場所へと急ぐ。


「すいません、遅くなりました」

「いえ、いつも通りの時間ですから大丈夫ですよ」


 彼女はパタンと本を閉じて、此方を見る。


「では、今日も始めましょうか」

「あ、その前に一つ言いたいことがあって」

「..........なんでしょうか?」


 理由は分からないが、怯えたような視線をしていると感じるのはどうしてだろうか


「その..........昨日の事も含めて謝りたくて」

「何をですか?」

「霧姫さんの事を不快にさせちゃったみたいだから、理由は分からないけれど謝りたくて。僕は、霧姫さんいい関係を続けていきたいから」

「............そうですか」


 顔を背けた彼女は今、どんな顔をしているんだろう。理由もわからず、謝っている僕を笑っているのだろうか?蔑んでいるのだろうか?


「霧姫さん、ごめんなさい」

「そうですか。それでは、私からも............申し訳ありませんでした」

「............え?」

「これでお互い様ですね」


 あれ?これって一方的に僕が何か悪いことを言ったわけではなかったのか?


「それじゃあ、始めましょうか」



*****


 私は、無性にむしゃくしゃして腹が立っていた。理由なんてわからないけれど。


 だが一つ確かなことは、以前と同じように赤塚君と絵美里さんが触れ合ったり喋ったりしているその光景を見るだけで、心の奥底からぐつぐつと煮えたぎるようなマグマが心の中で荒れ狂っている。


 昨日も、少しだけそうだった。


 帰りの何気ない会話だった。


 彼は何も悪いことなんてしていないけれど、私は軽く怒鳴ってしまい、空気が悪い中解散してしまった。


 昨日、そして今日の体育に続き私自身が良くないことをしている。これではただ、赤塚君に意味もなく怒っている人ではないか。


「すいません、遅くなりました」

「いえ、いつも通りの時間ですから大丈夫ですよ」

「では、今日も始めましょうか」

「あ、その前に一つ言いたいことがあって」

「..........なんでしょうか?」


 少しだけ嫌な予感がしたのだ。あれだけ自分自身も解っていない怒りを彼にぶつけたのだ。


 私と彼の関係は今日限りなのかとも思ったけれど、彼から発せられた言葉は違うもので予想を斜め上に行く回答だった。


「その..........昨日の事も含めて謝りたくて」

「何をですか?」

「霧姫さんの事を不快にさせちゃったみたいだから、理由は分からないけれど謝りたくて。僕は、霧姫さんいい関係を続けていきたいから」

「............そうですか」

 

 何と彼は意味も解らない怒りに罪悪感を覚えて謝ってきたのだ。


 それに対して私はどうだ。意味の分からない怒りをぶつけ彼に謝らせた我儘などうしようもない女ではないか。


「霧姫さん、ごめんなさい」

「そうですか。それでは、私からも............申し訳ありませんでした」

「............え?」

「これでお互い様ですね」


 本当は私一人があなたに謝るべきなのです。だから、いつか私自身がこの怒りの理由を理解した時、あなたに誠心誠意謝りますから。


 許していただけませんか?


 

 





 


 

 



 

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