第13話 ふぅーん、そうですか

霧姫さんとの勉強会が続くと決まってから一日経った、その日の放課後。


 絵美里が僕の学年順位二位を称えて、祝勝会を開こうということになったわけなので、霧姫さんにそのことを伝えなければならない。


「絵美里、少し頼まれごとをしているから昇降口で待ってて」

「うん、分かったー」


 さて、僕はもう教室にはいない霧姫さんがいるであろう図書室へと向かう。


 昨日の内に言っておけば、わざわざ霧姫さんが図書室へ行くことも無かったというのに、僕っていう人は。


 なるべく急いでいつもの場所へ向かうと、いつものように霧姫さんは本を読んで待っていた。


「あの霧姫さん、遅くなりました」

「いえ、まだ全然待っていないので、良いですよ」


 と快く許してくれる霧姫さん。


「それでなんでですけれど...............」

「どうかしました?」

「今日の勉強会は中止にしてくれませんか?」

「……それは、どうしてですか?」


 と先ほどより少しだけ冷たい声で返してくる。


 そうだよな。わざわざここまで来たのにいまさら言うなよなって感じだよな。本当にごめんなさい。


「今日は、同じクラスの絵美里って人と僕が勉強を頑張って二位を取ったのでお祝いしたいって言っていて」

「...............ふぅーん、そうですか」


 さらに冷たい絶対零度の声で返してくる。最初の時の少し温かみのある声は形もない。


「本当に申し訳ないんですけれど、今日はお休みさせてください」

「...............ぃ…す」

「…?なんて言いました?」

「っ!!いいですよ!って言いました」


 と怒りながら僕にそう言ってきたので、「わ、分かりました。ありがとうございます」と言ってその場から急いで去るしかなくなってしまう。


 霧姫さんには申し訳ないことしたな。せっかくの時間を無駄にさせてしまったからな。


 今度、何か買って持って行った方がいいだろうな。


 それにしても、本当に最後はいいですよ!と言ったのだろうか。僅かにだけれど「いやです」と聞こえたのは空耳だろうか。


 まぁ、多分空耳だろう。


 それじゃあ、まるで霧姫さんが僕と一緒に勉強をしたいみたいではないか。あの人に限ってそれはあり得ないだろう。


 もしその発言があり得るならば多分、僕に一位を取ってもらってさっさと卒業してほしいのに遊び惚けているから、お前は遊んではいけないというお達しだろう。

 

 昇降口へと行くと、絵美里が柱を背にして立っていたが、僕に気づいたのかこちらに近づいてくる。


「あ、もぅ遅いよ春夏」

「ごめん、絵美里。じゃあ行こうか」

「今日はね、なんと私が春夏に料理を振舞ちゃうから」

「えぇ?絵美里って料理できたっけ?」

「できるもん、あんまり舐めないでよね」


 ぷりぷりと怒っているがどこか楽しそうな絵美里。


 絵美里の手料理かぁ。心配だけれど少しだけ楽しみだな。


********


 今日は、彼とどんなことを話そうか。


 そう私は考えながら図書室へと向かう。彼には友達という者がいるため図書室へとくるのが多少遅い。


 いつもの席に座り彼を待つ。


 最初のころはまともに読んでいた本も最近では全く頭に入らなくなりいつ彼が来るのかということだけを気にしている。


 私はどうなってしまったのだろうか。


 少し経ち、急いで来てくれたのか彼の息は少しだけ荒かった。


「あの霧姫さん、遅くなりました」

「いえ、まだ全然待っていないので、良いですよ」


 高校に入ってから、一番穏やかなのではないかと思うほどやさしい声がでる。


「それでなんでですけれど...............」

「どうかしました?」


 胸騒ぎや嫌な予感がしたのだ。彼が気まずそうな顔を浮かべてそう言ったから。


「今日の勉強会は中止にしてくれませんか?」

「……それは、どうしてですか?」


 自分でもわかるくらいには冷たい声が出る。


「今日は、同じクラスの絵美里って人と僕が勉強を頑張って二位を取ったのでお祝いしたいって言っていて」

「...............ふぅーん、そうですか」


 そうですか、絵美里さんですか。


 カノジョと貴方は親密そうな関係でしたものね。私よりそちらを選ぶのは当然でしょう。


 私と彼の関係はあくまで教師と生徒のようなもの。対等な立場にはないですし、友達の方を優先したくなる気持ちはわかります。


 が、なんでしょう。このむかむかは。前にも絵美里さんと赤塚君が話しているときにも同じ気持ちになりました。


 こう、ドロッとした絡みつくような不快感と私の心がグツグツと煮えるような感覚です。


「本当に申し訳ないんですけれど、今日はお休みさせてください」

「...............ぃ…す」


 この不快感を取り除くには、否定するしかないと思った私は自分が思っているよりはるかに小さい声で嫌です、と言いました。


 なぜか声が出なかったのです。


「…?なんて言いました?」


 そこに彼の本当にわかってなさそうな声で聴いてくるので、なぜか気恥ずかしさと若干の怒りで


「っ!!いいですよ!って言いました」


 と多少怒鳴ったような感じで言ってしまい彼は「わ、分かりました。ありがとうございます」といって去って行ってしまった。


 私は何をしているのだろうか。


 別に、彼にだって、誰にだって用事なんてあるものだろう。それくらい容認できないなんてなんて狭量な人なんだ私は。


 あぁ、帰ってお風呂に入ってぬいぐるみとお話しして今日はもう寝てしまおう。


 私は、今日のことについて考えながら帰路に着いた。


 


 

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