第6話 who

 週末がやってきた。


 霧姫さんが言っていた身の周りに気をつけろの意味が未だに分からずにもやもやする。


 多分手紙のことについてなんだろうけれど、僕に関係のあることなら僕に直接送ればいいのになぜ霧姫さんに?


 良く分からないけれどできるだけ気にしておこう。今日は羽鳥と絵美里たちと遊ぶのだから。


 もし僕のせいであの二人にも迷惑をかけるとなると、罪悪感で胸が潰れてしまうだろうから。


 待ち合わせ時間十分前にしっかりとつく。


 見ると、もう絵美里は到着していたみたいでそわそわしながら待っている。


 後ろから脅かしてやろう。


 そっと後ろまで回り込んで………


「わっ!!」

「っ!?きゃぁ!!」

 

 猫の後ろにキュウリを置いた時の反応のようにすごい勢いで飛び跳ねていいリアクションをとる絵美里。


 後ろを振り向き僕だと確認すると、じぃーっとジト目を向けてくる。


「春夏ー?」

「すみません。出来心で」

「出来心でこんなことするなぁー!」

「しゅみましぇん」


 絵美里は僕に近づいてきて、頬を引っ張ってくる。


「お前らは本当に仲がいいよな」

「はちょり、たしゅけて」

「赤塚が悪いんだろ?」

「その通り!!」


 最後に強みに引っ張ってやっと解放してくれる。


 しょうがないじゃないか。絵美里のことを揶揄うのはすごく楽しいのだから。


「はぁ、そんなところでイチャイチャしてないで行くぞー」

「イチャイチャなんてしてないもん」

「そうだぞ、してない」

「……」


 僕がそういうとなぜか絵美里が不機嫌そうな顔をしてふんっと鼻を鳴らす。

 

「いいからさっさと行こう。ストレス溜まっちゃったし甘いもの食べないと死んじゃう。もちろん約束通り春夏の奢りで」

「はいはい」


 先に進む絵美里と羽鳥に続いて、僕も歩き出す。


 絵美里が行きたがっていた新しくできたカフェに三人で行く。

 

 甘いものを僕は好きだけれどこういうところは男一人で行くのは辛いので、絵美里と一緒に来ることができて実は内心嬉しかったりする。


 席に着いてそれぞれメニューを見る。


 見た目がどれも良くて美味しそうにみえて迷ってしまう。


 羽鳥は早々に決めて僕と絵美里が未だに決められていない。


「絵美里は何にするの?」

「このチョコのパンケーキかイチゴのパンケーキかで迷ってるんだよね」

「じゃあ、僕がチョコを頼むからイチゴを頼んで半分こにしない?」

「いいね。じゃあそれにしよっかな」


 店員さんを呼んで、注文して数十分経ってから全員の注文したものが届いた。


「いただきまーす」


 絵美里が一口食べて頬を緩ませとても幸せそうに食べる。


 僕も一口食べよう。


 パンケーキを切り分けて、一口食べるとチョコとパンケーキそしてホイップクリームが絡み合って甘くてすごくおいしい。


「春夏のもすごくおいしそう。交換しよう」

「うん」

「じゃ、じゃあ、はい。あーん」


 顔を若干背けながらも、フォークでパンケーキを差し出してくる絵美里。頬は赤みを帯びていて、少しだけ恥ずかしいんだろう。


「早く食べてよ!」

「あーん」


 これ以上遅くなると拗ねてしまうので、急いで食べる。


 イチゴとホイップクリームそして柔らかいパンケーキがマッチしていてこれまた美味しい。


「じゃあ、絵美里も。はい。あーん」

「あ、あーん」


 フォークでパンケーキとホイップ、それにチョコをたっぷりと絡めて差し出してあげると、急いで齧り付いてそっぽを向く。


「……美味しい」

「だよね。イチゴのパンケーキもおいしかった」


 横にいる羽鳥を見るとあいつはあんまり甘いのが好きじゃないのか、オムライスを頼んでいた。


「美味しそうだね」

「じゃあ俺とも交換するか?」

「まじで?ありがとう」


 羽鳥がオムライスを一口スプーンで掬って食べさせようとしてくれるが……。


「んっ!!」


 その一口を絵美里が目の前の席から乗り出すようにして、食べてしまう。


「僕のオムライス!!」

「このオムライス美味しい」


 絵美里がもぐもぐと咀嚼して完全に食べてしまう。


「絵美里……」

「しょうがないわね。これ、はい。あーん」

「……あーん」


 またパンケーキを食べさせてくれるが、やはりオムライスが食べたかったな。


「美味しい?」

「うん、美味しい」

「よかった」


 まぁ、でもパンケーキもおいしいから別にいいか。


 三人で和気あいあいと食べているといつの間にか結構な時間がたっていたので、約束通り絵美里の分の代金を払ってお店を出る。


 もちろん羽鳥の分は払わなかった。


「さて、次はどこいこう」

「あ、ごめん。絵美里、赤塚。俺用事入ったわ」

「まじか」


 羽鳥に急用が入って、僕と絵美里の二人だけになる。


 去り際に絵美里と羽鳥が何か話していたような気がするけれど、何を話していたんだろうか。


 聞いてみたけれどもなんでもないと返されたので、それ以上聞き返すこともできない。


「じゃあ、映画でもみる?」

「そうしよっか」


 二人で僕たちは電車に乗って、映画館の最寄り駅におりる。


 羽鳥が急に用事が入って僕たち二人になることが最近多いような気がするけれど、羽鳥にもなにか事情があるんだろうな。


「今日はなに見る?」

「ホラー映画とか?」

「……私がホラーダメなの知ってて言ってるよね?」


 じとぉーっとこちらを覗き込むようにして言ってくる。


 だって、今やっている映画で面白そうなものがこのホラー映画しかなかったんだからしょうがないでしょ。


「こっちの恋愛映画にしよう」

「えー」

「ね?」

「……はい」


 最初から決定権なんて僕にはなかったんだ。


 映画館の中に入って、チケットを購入して二人分のポップコーンと飲み物を買っていざ座席へとつく。


 やたらと映画の広告の時間って長いよなぁとか思いつつ、見ていると視界の隅に綺麗な黒髪が見える。


 ………霧姫さん?


 いや違うよね。


 だけれど………


「どうしたの?春夏?」

「……いや、やたらとこの時間って長いよなぁって思っていただけ。早く映画の本編みたいのにって」

「あぁーそれわかる」


 まぁ、人も多いしそれっぽい人なんていくらでもいるよなと結論付けて考えない様にする。


 映画がやっと始まって集中しようとするけれどやはり頭の片隅であのひとは本当に霧姫さんなのかという小さな疑問が思い浮かんでは消しての繰り返しであんまり集中することができなかった。


 隣にいる絵美里は号泣で「紗枝ぇ、さえぇ」っと嗚咽をこぼしている。


 映画が終わって、明るくなり僕が気になっていたあの人がさっさと出ていく。


 その仕草と横顔は完全に霧姫さんだ。


「うぅ、紗枝、よがっだぁ」

「あー、そっか、ね。よかったね」


 疑問も解けたし号泣している絵美里の顔をハンカチで拭いてあげて、席を立って僕たちも立ち去る。


 絵美里をあやしながら映画館を出る。


 霧姫さんを何となく探すと、遥か前方にその姿を発見する。


 ...........だからといって何かになるということはないんだけれど。どうせ本人に話したところで「はぁそうですか。それで私があの映画を見たからなんだっていうんですか?」とか言われそう。


 考えるの止め止め、こんなこと考えるのでさえ彼女は嫌がるだろうから。


 そう思って目線を違うところへ向けると不審な人物。


 それも僕たちと同じくらいの人がそっと霧姫さんをつけているようなきがする。


............気のせいか?


 そう思って歩き出そうとするけれど、隣にいる絵美里を置いてなんていけない。


 今日はそもそも絵美里たちと遊ぶと約束したんだ。


 ほかの人たちのことを気にかけるのも失礼かもしれないし、そもそも僕の思い違いかもしれない。


 羽鳥にもお前は余計なことに首をつっこみすぎているって。


 だから、あんまり気にしなくてもいいのだ。


「春夏ぁ?」

「なに?絵美里」

「いったんカフェで休んで、映画の感想言い合お」

「あぁ、うん」


 霧姫さんのことは頭から消して、絵美里と楽しまなければ。


 そう思ったけれど、どうしてもあの黒マスクの男が頭から離れてくれなかった。




 


 


 








 

 

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