第13話 伝えることの意味

結局、あれから由紀子さんが警察に通報して、横山は逮捕。

「私も自首して、罪を償うわ…」

そう言って去って行こうとした由紀子さんの手首を掴んだ修二さんは、

「お前の罪は俺を裏切ったことだけだ…罪を償うと言うなら、一緒に会社を再建するのに協力してくれ…俺1人では無理なんだ…君が必要なんだよ…その事にやっと気付いたんだ。」

そう言って、泣きじゃくる由紀子さんの肩を抱いた。

「しかし…なんで、俺がここで横山に会うことを知ってたんだ?」

修二さんが不思議に思い尋ねると、

「ポストに手紙が入っていたの…あなたが横山に会うって…力を貸して欲しいって…」

「陽介くんか…いつのまに…」

そう言うと修二さんはハッとして、辺りを見回した。

しかし、俺と修二さんの目が合うことはなかった。修二さんにはもう俺が見えていなかった…それでも、

「陽介くん…まだいるんだろ?ありがとう。君だね…君には何度も救われたよ。本当にありがとう。」

そう言って、深々と頭を下げた。


俺は鼻をすすりながら、

「修二さん、頑張れ」

そう言い残して、その場を去った。


******


これから…俺はどうしたらいいんだ…どこへ行ったらいいんだ。

急に寂しさが押し寄せてきて、涙が溢れた。

この世にたった一人取り残された気分。いや、本当に取り残されたのか俺は…。

「大丈夫ですよ。」

ふと顔を上げると正路が立っていた。

「正路!」

「もう誰とも話もできないかと思った。」

俺は無意識に正路に抱きついていた。

「いやいやいや…」

両腕で正路に体を押され、引き剥がされた。

でも、態度と裏腹に正路の顔はとても照れくさそうにしていた。

「もう俺には正路しかいない!俺はこれからどうしたらいいんだ?」

「あなたは亡くなってから、今日で28日目となりました。今、あなたは四つの審判をクリアされました。」

正路は、またいつもの無表情に戻って淡々とそう言った。

「審判?」

「はい。そうです。」

「俺はあと何日ここにいられるんだ?」

「21日…あと3週間ですね…」

「3週間…もうそれが俺にとって、長いのか短いのかさえわからない。」

俺は頭を抱えてうずくまった。

「もうひとつ…お知らせが…萌様が学校へ行かれました。」

「え?」

俺は弾かれるように立ち上がると、学校へ向けて走った。

やっと…やっと萌に会える!


学校へ駆けつけると、ちょうど3時間目の授業が終わったところだった。途端に廊下が人で騒がしくなった。

俺はみんなの間をすり抜けて、教室へ辿り着くと、萌を探した。

どこだ?どこだ?気が焦る。

いた!久しぶりの萌の姿…遠目でも少し痩せたのがわかる。

萌、俺は萌に何ができる?

そんなことを考えていると、萌が急に顔色を変えて、教室を飛び出して行った。

萌!


追いかけていくと、人気の少ない廊下の突き当たりまで走って、萌は壁にもたれかかりながら、何かをとても大切そうに胸に抱いた。

手紙だ!

俺は萌の反応が急に怖くなった。


萌は、ゆっくりと大事そうに手紙を出した。静かに読み進める萌の目から次から次へと涙が溢れ、読み終えるとその場に脱力するように座り込んだ。

そして、俺はわかってなかったんだ。この後、萌がどう思うかなんて…。そんな事は望んでなかったのに…。

萌は大声を上げて泣き出した。聞いたことのない声で泣く萌。

そこへ、友人の沙織が駆けつけ、萌を抱きしめた。


俺は萌を抱きしめることも、慰めることもできず、立ち尽くしていたが、その泣き声はあまりにも悲痛で、とても聞いていられなかった。結局俺はその場から逃げ出した。


自分の気持ちを伝える事ばかりに必死で、伝えられた萌の気持ちまで考えていなかった。

死んだやつに告られても、つらいだけだった。生きてるうちに伝えるべきだった…いやでも、結局死んでしまえば、想いを引きずってしまう…それなら、やっぱり言うべきじゃなかったのかもしれない。本当の気持ちを伝えたい!なんて、ただの俺の自己満足に過ぎなかった。


******


「こんなところにいたんですか?」

学校の屋上につながる階段の踊り場で、膝を抱えて座り込んでいた俺を正路が見下ろしていた。

「あなたの生気が消えかかっているので、探すのに苦労しました。」

正路は、シルクハットを脱いで、俺の顔を覗いた。

いつもの冷ややかな視線とは違っていた。

「今日はすぐに消えないんだな…」

呟くように俺が言うと、

「あなたが私のようになってしまわないかと…」

そう正路が言った。

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