第8話「未来が見えるんです」

目を覚ますと僕は稽古場でそのまま寝てしまっていたようだ。

まだこの現実を受け入れることが出来ないまま。

何日もこんな状態が続いて、パクは一向に

演芸場へと姿を現さなかった。

そして僕は無意識のうちに、病院へ向かっていた。



「舞香さん、具合どう?」


「ロンさん!平気!」


「それはよかった」


その時扉が開いた。


「よぉ」


「おう来てたのか」


「そりゃまあ旦那だしなこの子の父親になるわけだし」


「ねえ、省ちゃん。ひとりで抱えないで」


「え?」



その時の舞香さんの表情は、

孤独にひとりこの問題を抱えていた

パクを包み込むかのような優しさがあった。



「省ちゃん、私になにか隠す時喋り方が優しくなるんだ。私大好きだから知ってるよ」


「お前……」


「ちゃんと言って…」


「舞香、実はな…」



パクが全てを話すと舞香さんは

一粒涙を流した。



「省ちゃん、私決めた。絶対にこの子産む。

だってね、もし私が死んじゃってもこの子が元気に生まれてさえ来てくれればそれが私と省ちゃんの証じゃん」



パクも、そして僕もその言葉に涙を流した。


パクは、マジシャンを辞めると桜木さんに言ったそうだ。

子供を育てるため、新しい仕事を始めたらしい。

そう、ラブホテルの清掃だ。

シフトの時間に間に合わないからと小走りでパクは病室を後にした。




「ねえ、ロンさん。冗談でもいいからさ

未来のこと少し教えて貰えませんか、?

私、この子の未来見れないかもだから……」



涙を流しながらそうつぶやく彼女に

僕は「実はほんとに未来が見えるんです。」と

そう答えた。



「少しでいいんです!この子のこと見えますか?」


「ええ、見えます。」


「教えて貰えませんか?この子と省ちゃんのこと」


「少しだけですよ…?

この子は、そうだな、パクに似てるから勉強はできませんwww

あと、モテもしないやwww

あ、でも小6の時大好きだった女の子からチョコレートを貰うんです。バレンタインの日に

それを冷蔵庫に入れてたらパクが勝手に食べちゃって大喧嘩をするみたいですw」


「しちゃいそう、省ちゃんwww」


「全くモテなくて、あんま友達もいなくて

あ、でも中一の時にパクからマジックを教えてもらうんです。簡単なコインとトランプのマジックなんですけど中学生には凄かったみたいで一躍ヒーローになります。そこで一瞬だけお父さんかっこいいって思うかな」


「良かった、じゃチョコだけですね気をつけなきゃはwww」


「そうですねw」


「私のことは…見えますか?」


「正直、見えません…」


「やっぱり…」


「でも、子供のあなたに対する気持ちなら見えます。」


「じゃあその子にとってどんな母親でしたか?」


「生まれてからずっとずーっと勘違いするんです。とあることがきっかけで、だからあなたから愛をひとつも受けてないって思って育ってしまう。苛立ちや恨みを持ったまま。だけどある時気づくんです。それがあなたの優しさだったこと、そしてパクの優しさでもあったことを

それに気づいた時、この子は、母親からどれだけ強く望まれて生きてきたかを知ります。

お子さんにとって、あなたはお母さんは生きる理由です。

それを知ってからの日々は、とても愛おしく感じます。

そして、強くこう思うんです。

ふたりの子供に生まれてきてよかった。って」



気づけば僕は大粒の涙を流していた。

そして、舞香さんも涙を流していた。

舞香さんは、そのままお腹を眺め



「大好きだよ、愛してるよ」とそう言った。



「あ、蹴った。聞こえたのかな」



僕は泣きじゃくりながら



「聞こえました……!」と答えた。




そして、僕はパクを土手へと呼び出した。

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