第6話「母に伝えたいこと」

今の俺らは正直、順風満帆だった。


演芸場に立てば俺らを見に来る客がほとんどで

滑り知らず。最高のコンビと言っても過言じゃなかった。


こんなに売れたのは初めてだった。


そんな時、ふとあの言葉を思い出した。


「先のことが見えるってほんとですか!?」


舞香さんはなにか俺に聞きたいことでもあったのだろうか。

いや、ただ未来のことをわかるやつを物珍しく興味を持っただけだろう。

何も気にする事はない。



それからも、俺らはネタ合わせを重ね

オーディションに向かった。

2回戦、3回戦、準々決勝と俺らは勝ち上がった。

いよいよ次は準決勝。

残った者たちは猛者ばっかりになっていた。


そんな時、根詰めていた俺たちを桜木さんが舞香さんや、演芸場のほかのメンバーを連れて

飲みに誘ってくれた。



「どうだ!お前ら調子は!」


「そりゃもう俺らは飛ぶ鳥落とす勢いだぜ!なあ!ロン!」


「そうだな」


「また、省ちゃんは調子乗っちゃって」


「いや、舞香お前俺すごいんだぞ人気。いやもちろんロンもすごいけどさ、俺も人気凄いんだ!よかったな、そんな男と結婚できて」


「はいはいw愛してますよw」


「うるせえwww」



こんな仲良いふたりがどうして俺を

ねえどうして親父は浮気したの?

ねえどうして舞香さんは俺を捨てたの?


毎日その気持ちが強くなるだけだった。



「じゃ俺ちょっと練習あるから。悪ぃけどさ、ロン、舞香のこと送ってくれねえか?」



そう言うと、パクは演芸場の稽古場へと向かった。


「あ、じゃ行きましょうか。舞香さん」


「あ、はい!あ!その前に神社寄ってもいいですか?」


「あ、はい。」



神社に着くと、舞香さんはお賽銭を入れ、

静かに何かを祈った。

まあまあの時間祈っていて顔を上げ

「行きましょうか」と微笑んだ。



「あの、、、」


「ん?」


「何を祈ったんですか?」


「あ、最近毎日祈ってるんです。無事に元気に生まれてきますようにって私たちの赤ちゃん」


「え…」


「楽しみだなあ、早く会いたい」


「よく言いますね…」


「え?」


「じゃなんで置いて出たりしたんだよ…」


「ロンさん……?」


「子供が喜ぶとでも思いましたか?そのやり方が!俺は…!少なくとも俺は嬉しくなかった!一緒にいて欲しかった!どれだけ苦しかったか!母親が居ない辛さがどれだけ苦しかったか!」


「ねえほんとにどうしたんですか!」


「あっ…!すいません、失礼します」



僕はふと我に返り逃げるようにその場を後にした。

本当にこれがやっと出会えた母に伝えたいことだったのか、

僕の中でも1人考えた。

でも答えはわからなかった。今の僕には。



そして、準決勝の日。


ついに出番が来た。



「はい、パクさん!何か一つやってみて!」


「じゃ、このハット見るアルヨ!このハットにチチンプイプイ!!!ってすると、ナニデルトオモウ?」


「んー?ハトだと普通だし準決勝でハトをするわけないよね、、、だからナンダロネ、んーわかんないけどハトはナイヨネ」


「…………そう、ハト」


「………あ、そっか」


「ダシヅライダロガ!!!!!!!」


いつも以上に観客は大いに盛り上がり大爆笑を起こすことが出来た。

会場が揺れるほどウケていた気がする。


その日、初めて出番後の楽屋でパクが

「ロン、ふたりで飲みいくか」と言ってきた。

柄にも僕はパクに誘われたのが嬉しくて

「おう」とすぐに答えた。


その時だった。



「パク!!!!!!」



必死の形相でクニがオーディション会場までやってきた。


「舞香ちゃんが…!舞香ちゃんが……!」


「どうしたんだよクニ、舞香が?」


「急に倒れて意識不明なんだ!!!」




僕らは急いで病院へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る