#2 治療2日目
「さぁ、今日も治療していきますよ」
いつもの柔らかい声が聞こえてくる。
「まずは深呼吸をしましょうか—吸って——吐いて——吸って——吐いて…」
ひんやりとした指が額に触れた。
「ふむ——少し熱っぽいですね——昨夜はどうでしたか?」
あまりに寝つけないから、市販の睡眠薬を試してみたが効果はなかった、と女医に話した。
「なるほど…思っていたより深刻ですね——この病に限った話ではないのですが、1回の治療で治る病気はありません。根気よく治療を続けていくしかありません」
「気休め程度にしか、ならないでしょうが…体の疲れを癒す催眠をかけましょう」
反対の手が胸に置かれる。
「あなたの体には、おもしがついてます——それが悪さをして体がずっしりと重く感じるはずです」
不思議なことに本当に体が重くなっている感覚になる。
「その状態で体を動かすことはできますか?——そうですね、右腕を上げてみましょう」
言われた通りに右腕を上げてみようと試みたが、ピクリともしない。まるで誰かに押さえつけられているようだ。
「フフッ——治療2日目で、ここまで簡単に催眠にかかる方は珍しいですね。純粋な心の持ち主なんですね、羨ましい…」
女医は、ぼそぼそと何かを呟くと、ひとしきりクスクス笑った。
「では、そのおもしを少しずつ取り除いていくとしましょうか——想像してください——あなたの体にはおもしがついてます——そのおもしに釘を打ちつけると…どうなるでしょうか?」
女医が細い何かを腹に押しつけてきた。
「少しずつおもしに釘を刺していきましょう——痛かったら教えてくださいね」
ガンッ。鈍い痛みが腹を中心に前進に広がる。思わず呻き声を上げる。
「おっと、少し加減を間違えてしまいました——次は大丈夫ですよ」
ガンッ。再び鈍い痛みに襲われる。何が大丈夫なのか、と内心でツッコミながら痛みにこらえる。
「大抵の人は、1回目で音を上げるんですけど——あなたは強いですね…特別にご褒美をあげましょう——釘が刺さる度に襲われる痛みが次第に快感へと変わっていきます——ほぉら、はじめは痛いだけだったのが少しずつ気持ち良くなってきます」
ガン、ガン、ガンッ。自分にそんな性癖はない、と言いたかったが、痛みのせいで冷静な判断ができないでいた。
「どんどん気持ちよくなる——痛いはずなのに気持ち良く感じてしまう——むしろ痛みが心地良くなる——ほら、気持ち良い、気持ち良いねぇ」
ガン、ガン、ガンッ。汗が止まらない、全身から汗が噴き出している。痛みは絶えず続いている。それと同時に何とも言い難い快感が押し寄せてくる。
「どんどん快感が強くなりますよ——2倍、3倍、4倍…」
胸に置かれた女医の手が、トントントン、とリズム良く胸板を叩く。すると不思議なことに快感が強くなっていった。徐々に痛みより快感が勝っていった。
「フフッ——顔がとろけてますね、そんなに気持ち良いですか?」
頭がクラクラしてきた、体は快感にのまれて言うことを聞かなくなっていた。
「もう顔がぐしゃぐしゃですね——最後に一番気持ち良くなりましょうね」
ガンッ!!
突然、突き抜けるような快感に襲われた。まるで釣れたての魚の如くベッドの上でピチピチと跳ね回った。
「アッハハッ!——そんなに気持ち良かったんですか?——ほら、落ち着いてくださいね——深呼吸はできますか?」
何とか懸命に息を吸おうとするも、上手く呼吸ができない。酸欠で意識が薄れていく。
*
目を覚ますと、自宅のベッドで眠っていた。
「あ、目が覚めたんだ」
聞き慣れた声がしたから、戸口の方を見てみると、そこには数か月前に別れた彼女がいた。
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