31 善処した
《取得可能スキルに『精神強化』が追加されました》
《取得可能スキルに『狂気耐性』が追加されました》
……このタイミングで?いや、まぁ、うん、取得するけど。使えそうだし。まぁ。
精神強化が各種精神に関する判定及びステータスに補正。
狂気耐性がそのまんま狂気に対する耐性。
確かにさっきよりは圧し掛かっていたプレッシャーが楽になったような気がしないでもない。気のせいかもしれない。
あの負荷ってもしやただの広域デバフ?
耐性無しのモブにも作用して出来た雰囲気に当てられちゃってただけか?
『ヤギリさんですよね?』
『えぇ?一体何のことか分からないんですけど』
『プレイヤー全体に精神強化と狂気耐性がアンロックされました。ヤギリさんですよね?』
『いや、違うんじゃないですかねえ。たぶん、いやホント』
『アンロックのトリガーはハッキリしないのかもしれませんが、まあそれはいいです。個人での解放と違い再現性は必要ないですからね』
断言じゃん、完璧狙い撃ちジャンこれ。
『スキル配るからお前ら何とかしろってことですかねコレ。というよりはスタートライン?マイナスを0に戻すような整地というか底上げか』
『ドロップアウト組へのカンフル剤的側面も期待できそうですね。スキルで自我へ干渉して恐怖などの感情を希釈すると思えば、字面は最悪ですが』
『動員できる人間が増えるならアリでは?専門外何で適当言ってますけども』
『ヤギリさんはそのあたり気にしなくてもいいですよ、相談はさせて貰うこともあるかもしれないですが。それよりも現地はどうですか?特に変わった点などは見受けられませんか?』
変わった点ねえ、まあ言うならこのプレッシャーとエンカウントしない環境か。
実際こんなプレッシャー掛けられてたらモンスターの類だって大人しくなるわな。
生きてるのかって位リアルなAI積んだ奴らなんだし、生存本能から来る生命維持の為の行動をしたっておかしくはない。
『そうですねえ、とりあえず現地は重圧が凄いです。アンロックされたスキル両方を取得オススメする程度には。下手に慣れてない人間連れてきたら戦う前に戦力外になりそうな。それでもってビビったモンスターに一切エンカウントしません。静かすぎて不気味なくらい。ホントに精神弱い人だと発狂するんじゃないですかねこれ』
『了解しました。今後追加で人員を来るときは考慮します。引き続きお気をつけて』
『善処はします。善処は』
話しながらのほうが気が紛れていいな、その間にもせっせと進んだおかげで森を抜けたわけだが、なかなかにいい地形してるじゃないの。
E2S1神の住む山、フィールド中央に一際険しく聳え立つ山が一つ。麓から中腹にかけて崩れちゃってますけど。
ってかさ、これ何か縮尺おかしくない?どう見ても1マス100k㎡に収まる広さじゃないでしょこのフィールド。時空歪んでない?
まぁこの辺の話は正直今すぐ調べようもないからどうにもならないんだけども。
改めて対象を確認するわけだが、フィールド境界地帯が山になってたおかげで眼下に見下ろせる。今も紅く発光する複眼と帯電する紫電が夜の闇の中で誘蛾灯の様に一際目を引き付ける。
夜目がなければある種イルミネーションみたいに見えて綺麗だったかもね。
しっかしこう見ると邪悪な見た目というか某神話に出てきそうなフォルムというか。
神の住む山から現れるにしては神様度足りなくないか?
神話生物としてなら確かに神格ありそうだけども、この場合なら神に封印されてたって言ったほうがそれっぽさ出るレベルよ。
昔から山ってのは霊峰だの何だのと神と密接に結びつけて崇められてきたものではある。
単純に地域一帯での一番の高山、風水的要素、口伝etc……
人がそこに危険を感じ取った結果、立ち入りを禁ずるためだったりと。
理由は千差万別だったりするが共通するのは自分たちの手に負えない超自然現象や理解を超えた超常に認識するための形を与え結び付けたって事。
そう考えるならばこんな化け物が埋葬されてた山に神の文字を与えられてるのも分からなくはないか。
何が神の住む山だよ、山が神そのものじゃねえか。
『あーあー、こちらヤギリ。対象、Break Carrier肉眼で視認しました。対象に依然変わりなし。動き見られません。また周辺地形は標高500~1000m程度の山に囲まれており中央に数千m級の山が一つ。その中腹から麓にかけての一部を破壊し出現した模様。これより対象に接近します』
『こちら本部。接近了解。対象に動きがあった場合や気が付いた点があれば連絡を』
『善処する』
最低限の報告だけ済まし通話を切る。
善処するっていい言葉だよなぁ。善処は全てを解決する。
「よし、いくかぁ」
独り言と共に一歩踏み出し山を下る。
峰を超えた辺りから明らかに植生が変わり高木は殆どなく地表も地肌が目立つ程に。
あぁ、これはあれだ、富士山の中継映像とかでよく見る風景に似ている。森林限界を超えた雰囲気だ。
しかしだ、精々が下層雲がかかる程度の高さで限界線を形成するするなんてことあるのか。
水分の過不足以外にも塩害やら酸に塩基や強風とか要因は多々あるだろうけどどれも違う気がしたり。
砂利のむき出しになった斜面を靴底で削りながら下れば、低木どころか草すら生えない不毛の大地へがお出迎え。
生物の気配すら感じられないんですが、明らかに特殊フィールドな気配しかしないぞ。
そういえば大量のシステムアナウンスの時にもそれっぽいこと言ってた様な……
あぁ、ログにあるな、不毛の地だの踏み均すだの。まさにそんな感じではあるけども。
まぁ何だっていい、ピンとこないってことは理解の及ばない範疇の事だ。考察が好きなアーカイブの連中が調べてくれるだろう。
フィールド効果にデバフがなく、ボスを倒すのに必要なギミックが仕込まれてるでもなければ今は関係ない。
何かもう考えてるのが邪魔くさくなってきた。目の前に敵がいるんだ。ならやることはもう決まってる。
武器にエンチャントを、自身にはバフを重ね掛ける。
そして荒れ果てた斜面を一切の恐怖と躊躇いを捨て踏み込み駆け下る。
そのまま踏み切り頭上で一周、見上げる程の巨体を支える腕へと
「当たって砕けろ!出来ればお前が!!」
叩き付け弾かれる。掌から腕を通り背中まで反動が突き抜け息が詰まる。
「硬ってえ」
超重量の金属塊を殴ったかのような感触だな、座標的に不動な剛体というか。
まったくもって手応えがない、流石は剛体、永久機関と並ぶ与太話、手応えすらも存在しないか。そもそも剛体じゃねえたぶん。
斧槍に破損は無し、変形もなく継続使用問題なし。
そして対象にも変化なしっと。反応見たりでパターン把握の為に一当てしたけども見向きもされないとは。
近付いても反応なし、殴っても反応なし。じゃあ一体何がトリガーになるのやら。
「あれだけド派手な登場しておいてだんまりか?観測したんだから存在してるだろ」
そんな雑なことしたらシュレディンガー先生もハイゼンベルク先生もマックス先生も御怒りになられますわよ?
いや自分も知ってる学者の名前挙げただけだし怒られるわ、何一つ理解してねえ。
有識者さん出番です。
カチャリと籠手越しに触腕に触れてみる。樹木の表皮のように表面を覆い尽くす外骨格のような表面装甲のような硬質化したそれは傷一つ見受けられないな。
とは言えだ、ここまで硬質な融通の利かない物で隙間なく埋め尽くされていて稼働出来るのやら。
登場時の触腕のフレキシブルな動きは到底できそうにはないんだが。
ちょっと冷静になってきたところで報告しとくか。
『あーあーこちらヤギリ、対象へと接触しました。一度攻撃しましたが反応ありません。とりあえず色々試します』
『了解しました。現状他に手もないので反応があれば連絡をお願いします』
『了解』
取り敢えず適当に殴るか。そうしよう、これは思考停止ではない。反応を調査するための母数を増やす行動なんだ。
◇
そう思っていた時期が自分にもありました。
刃を変え魔法を変え場所を変え信じられないくらい硬い相手を殴り続ける事数時間。
そろそろ朝日が昇ってくるようなお時間では。
これだけやって何も反応ないとギミック解除しないと100%軽減とかでダメージすら入らなかったりイベントがそもそも進行するためのフラグが足りてないんじゃないのか。
ほら、そんな事考えたら朝日が……
「揺れた?」
動いていた、黒い壁が、あれだけ反応のなかったその腕が。
大地を捉え、金属の引き絞られる様な音を鳴らしながら巨体が起きる。
「朝日と共に起床とか規則正しい生活だなぁ、ゲーマーの風上にも置けねえやつだ。遅刻しろ、単位落とせ、乗り遅れろ、必殺二度寝アタック」
とりあえず寝起きに一発、繊維に沿う様に上段からの振り下ろし。
衝撃を逃がせるように覚悟しながらインパクトの瞬間を見極め刃が……通る。
「は?」
余りにも予想外の結果に勢い余りバランスを崩し倒れかける。
思わず手放した斧槍は目の前に食い込んだまま。
これはもしや?所謂?壁殴りタイム?
「ヘヴィミスト」「シャドウフィールド」「フラッシュオーバー」「ヒートリテンション」「ダウンバースト」「浄化」
重ねて魔法制御。
霧と闇が圧縮され回転しながら刃を形成する。断続的に解放される爆熱がエンジン音に似た音を響かせ刃を加速させていく。
「いいねえ、単純作業の繰り返しで頭が回らなくなってたんだ。このくらい要求される処理能力があるほうが目が覚める!HAHAHA!!」
両手両足加えて斧槍に虚鋸が4丁。
停滞していた思考がフル稼働していく感覚、頭に血が通う感じ。気分が高揚し口角が上がる。
斧槍を引き抜き叩き衝ける、虚鋸が抉り切り飛ばし溝を刻む。
殴って蹴って砕いて削る。斬って叩いて抉って弾く。
自分はアウトオブ眼中ですとでもいう様な態度で緩慢な動作で起き上がるコイツは、全く反応を示さず効いている気すらしない。
だが体表を覆うその外殻が爆発反応装甲のように弾け飛んで来る。
「オートカウンターか、判定抜いて張り付くから性能をくれよ」
爆散する欠片を避けながら殴るのは中々にめんどくさいな。
回避に移れるようにする分手数も威力も削られるし、祈り乱舞という最高DPSが出せなくなるじゃん。
TAにおいて最速は良個体デレモーション繰り返しを祈って正面から弱点部位を殴り続けて怯みハメ。これこそ真理。
足元に違和感を感じて数歩下がれば砕いた甲殻が蠢いていたりして。
何だあれ、形はバラバラみたいだが肢が生えたり尻尾が生えたり、好き勝手にスクラップ&ビルドしてるじゃん。
あ、はい。追加ですね、砕いてダメージ与えた分雑魚になって帰ってくるとか中々コスパのよいカウンターギミックで。
群がってくるゴミ虫を斧槍で叩けば悪くない手ごたえが返ってくる。片手間では砕けない程度の強度って嫌がらせの神じゃん。
砕いて砕いて砕いて砕く。効率よく最短で無駄なく最小の労力で最大の結果を。
しかしこれ一人じゃ手が足りなくなるな。感覚でしかないがゴミ虫のHPって剥離する際に与えたダメージ分くらいじゃないかこれ。
そうなると単純に雑魚処理でDPSノ半分食われることになるじゃん。
削りだしてゴミを纏めてから範囲で焼くのが正解かな。
「VVVVVVVVOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooOOOUUUUUUuuuuuuuu!!!!!!!!!!!!!!」
うるせえ、直上で吠えるな、馬鹿みたいな音の波に鼓膜が震えてるのがハッキリ分かる。
骨まで伝わる振動に視界が揺らぐ。初めての音響攻撃は勉強になった。
音って回避不能の打撃武器だったんだな。こんなもん全身が弱点じゃねえか。
現に視界が暗く……いや、違うなこれ。ブラックアウトじゃない。これはいつものだ。ただ光量が減っているだけの空間。
「ちょっとこれはやばいのでは」
何やってんだと見上げた先には口と思しき器官に渦巻く黒い光の渦。
全身を構成する繊維の様な節はイルミネーションのように黒い光へと向かい光を収束させていく。
全身鋼鉄製の光ファイバーででも出来てるのかと突っ込みたくなる。
その間にも周囲はより暗くなり黒い光は激しさを増していく。
そもそも黒い光ってなんだよと思わなくもないが、逆位相で相殺でもしてたり完全に反射しないからそう見えるのか。
ナトリウムかなんかで黒い火は出来るとか聞いた覚えがある様な。
そして其れは聖都に向け放たれる。
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