第5話

次の日の夜、真奈美は待ち合わせ場所の交差点で松島を待っていた。なんで、交差点なんだろうと思っていると、松島の車が到着した。

「乗って」と、窓から顔を出した。

真奈美は訳も分からず助手席に座ると、急発進で走りだした。

「パパ、何処に行くの?」と、訊いても松島は返事をしない。いつもと雰囲気が違うので、これ以上、話しかけられなかった。

重い空気の中、外の景色を見ていると、見覚えのある景色に変わり、車は昨夜、影山と行ったカラオケ店の前で止まった。

「昨夜、仕事後の会食で、この道を通った時、真奈美ちゃんにそっくりな女の子が長身の男と一緒に居るところを見たんだよね。あれって真奈美ちゃんだったのかな?」

松島は真奈美の顔を見ようとせず、前だけを見ている。

「どうしたの?なんかパパ怖いよ」

「いいから、答えて」

「居たよ。友達の誕生日を祝っていたの。それがどうしたの?」

「そっか」と、言うと松島は後部座席に手を伸ばして箱を持ち上げた。

「真奈美ちゃんが欲がっていたバッグだよ」

「あーーーバタフライミュウルのバッグ!真奈美に買ってくれたの?」

「そうだよ」

「嬉しいー!」と、言って松島に抱きついた。

「ただ条件がある」

「条件ってなに?」

変な事をさせるんじゃないかと思い、警戒して放れた。

「もう、その友達と会わないと約束してくれたらバッグをあげるよ」

「え?友達と会ったら駄目なの?」

「真奈美ちゃんは友達だと思っていても、相手も同じように思っているとは限らないだろう。だから二人で会うのは危ないと言っているんだ」

「ふーん、分かった。もう会わないから、頂戴」と、両手を差し出した。

松島はその言葉を訊いて、やっと笑顔になった。

「約束だぞ」と、真奈美にバッグの入った箱を渡した。

「はーい、ありがとう!」

ワクワクしながら、箱を開けると布袋に入ったバッグが出てきた。

袋を開いて中のバッグを取り出すと、里香が持っていた新作のバッグが現れた。

「うわーやっぱり可愛い!」

真奈美はバッグをギュウと抱き締めた。

バッグを貰ってから終始、上機嫌な真奈美を微笑ましく見守りながら、待ち合わせした場所まで送りとどけた。

「また連絡するよ」

「分かったーバイバイ」と、手を振って松島を見送った。


いつもの部室で真奈美は影山のマフラーを付けて里香を待っていた。早くバッグを見せたくてソワソワしている。

「おまたー」と、入ってきた里香に「遅いよー早く早く」と、急かす。

「ただぁーん!」と、後ろに隠していたバタフライミュウルのバッグをひけらかした。

「おお!真奈美も買って貰ったんだ。良かったじゃん」

「バッグは凄く嬉しいんだけど、交換条件を出してきたの」

「何それ?ケチくさ。で、条件は何だったの?」

「影山さんと会うなって」

「マジで…てか、なんで影山さんの事を知っているの?」

「あの日、一緒に帰っている所を見たんだって」

「バッドタイミング……あれ、バッグを持っているって事は影山さんと会わないって言ったの?」

「そう言ったよ。バッグが欲しかったから嘘付いた」と、小悪魔な笑みをみせた。

「あははは、なるほどね」

と、里香は拍手で讃えた。

「今日も影山さんのマフラーをしているくらい、お気に入りの、お・と・も・だ・ち・だもんね」

「なに、その引っかかる言い方はー」

「別にー」と、里香はニヤニヤしている。

「次は、影山さんといつ会うの?」

「明日だよ」

「それは楽しみだね。けど、十分に気を付けた方がいいよ。あんたのパパ、一線越えてきてる感じがするから…」

「どういう意味?」

「真奈美に本気で惚れているかもしれないってこと」

「えーそれは嫌…どうしたらいい?」

「ごめん、惚れられた事ないから分からん。とりあえず影山さんと会う時は、パパが居そうも無いところで会うしかないんじゃない?」

「うん、そうする…」と、言いつつ、里香の言う通りだったらどうしようと不安になった。明らかに元気がなくなった真奈美をみて話題を変える。

「私が言っときながら、なんだけど、あまり考え込まないで……真奈美、今日はフリーだよね」

「うん」

「なら私に付き合ってよ」

「いいよ、何処に行くの?」

「新大久保。一回でプルプルのお肌になるパックが昨日発売開始したの。めちゃ口コミが良いから買いに行こうよ。真奈美も明日の為に一枚買って試してみたら?」

「まあ明日の為ではないけど、一枚試しに使ってみようかなー」と、とぼけた顔をした。

バレバレの態度に、里香は腹を抱えて笑い倒れた。

休憩時間が終わると、二人は別々のクラスに戻って午後の授業を受けた。

普段の真奈美なら午後からお昼寝の時間だが、今日は珍しく起きて、机にかじりついていた。

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