第13話 アイナが訪問してきたよ
ギルドに入ってから一ヶ月が経った。
日々、高難易度の依頼を受けて、報酬金を受け取る生活を続けた。
その成果はあって、結構貯まった。
しばらくは働かなくても暮らせる。
なので、ソファーに座って天井を仰ぎながら、これからどうしようかと考えていた。
「……。」
「…ボーッとしてどしたの?」
「…ん?」
…声がしてみた方を見てみると、メルマがいた。
「…ああ、今日はこれからどうしよっかなって考えてた。……で、いつの間に入ってきた?」
「ついさっきだよ。」
…あの日から、メルマと行動する事が増えて、一緒にいる時間が長くなった。
同じ依頼を受けたり、食堂で飯を食ったり…二人で買い物にも行った。
そして、いつの間にか俺の部屋に勝手に出入りする様にもなった。
「…なんか、お前がこの部屋に入ってくるのも日常になってきたな。」
「そう?」
「そうだよ。だって、毎日の様に入ってきやがるからな。」
「そっかぁ。私、キヨトの日常の一部になっちゃったんだ。」
そう言いながら、俺の隣に座ってくるメルマ。
「…で、これからどうするの?」
「ん?何が?」
「これからどうしようって、考えてたんでしょ?」
「…ああ、そうだな。…どうしよっかな。」
「…暇なら、依頼でも受けに行こうよ。お金はいくらあっても、困らないだろうし。」
「…ん~そだな…。まぁ、そうするかぁ。」
メルマの提案の通りに、依頼を受けに行くことにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なーんかいい感じのねーかなー…。」
依頼掲示板の前に立って、そんな事を呟く。
最近…Sランクとか、Aランクだとかの依頼を見なくなってきた。
どうせなら、報酬金が高いのを受けたいけど…あるのはCとかBランクのモンスター討伐の依頼ばかり。で、後は少し採集の依頼があるくらい……か。
「…ねぇ、キヨト。」
…俺が悩んでいると、メルマは服の袖を摘まんできた。
「…ん?…なに…?」
そう聞き返すと、彼女は採集の依頼が固まっているところを指差して
「たまには、まったりと採集でもしてみない?私達、最近モンスターと戦ってばかりだし。」
…と言った。
「…採集かぁ。俺、そういうのやったことないなぁ。」
「じゃあ、受けてみようよ。そこまで報酬は高くないけど。」
「まぁ…そうだな。たまには、そういう依頼もアリかもしれん。」
という訳で、採集の依頼を選ぶことにした。
そして、しばらく掲示板とにらめっこしていると…
「よぉ、キヨト、メルマ。今日も依頼を受けに来たのか?」
「あ、グラゴルさん。」
「こんにちは、マスターさん。」
いつの間にか後ろに立っていた、グラゴルさんに声を掛けられた。
「よく依頼を受ける気になるな~。毎日依頼をこなしてたから金、結構貯まったろ?俺だったら、しばらくは遊んで暮らすがな~。」
「まぁ、そうしようとも考えましたが…やっぱり暇なので。」
「うん、そうそう。それに、お金はいくらあっても困らないし。」
「暇だから依頼を受けようってか?ワハハ、面白い奴らだなぁ。暇潰しなんて、もっと他で出来るだろうに。」
「…確かに…。」
…言われてみれば、命の危険があるのに、暇潰しで依頼を受けようとしてるってそれ、かなりの変人なのでは?
「まぁ、依頼を受けてくれるってんなら、それに越した事はねーけどな。こちらとしても、依頼を溜め込みたくはない。依頼の管理ってメンドウだからなー」
…と言って、グラゴルさんはガハハハと豪快に笑った。
「…相変わらずでかい声で笑う奴じゃの~。うるさくてかなわんわ…。」
「…へ?」
…声がした方向を見てみると、近くにある円卓の席に座ったアイナ…と、近くでプカプカと浮いているサメロアがいた。
「おう、アイナじゃねーか。」
「グラゴル、お主、もう少し声量に気を遣った方が良いぞ。」
「ワハハハ、声のデカさは俺の取り柄だからな~。こればっかしは譲れね~な~。」
「…本当にいつ来ても変わらんの、お主は…。」
やれやれ…とアイナは呆れた顔をする。
「まぁ、それはそれとして…」と、言いながら
俺の方に視線を向けて来た。
「…しばらくぶりじゃな、キヨト。元気にやっとるみたいで安心したぞ。」
「…あ、ああ。そっちこそ、元気みたいだな。」
「もちろんじゃ。我はいつでも元気100パーセントじゃよ。」
「ははっ、なんだそりゃ。」
…そんな感じでアイナと、俺が会話しているとサメロアが近づいてきてた。
「1ヶ月ぶりですわね。会えて嬉しいですわ♪」
…俺は、コクりと首を縦に動かす。
「ここには、わたくしを見えない方がいらっしゃいますからね。…後で、いっぱいお話しましょう。」
…コクコクと、首を動かして肯定をする。
…サメロアは、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「…して、キヨトよ。さっきから気になっておったが、お主の隣におるその女児は誰じゃ?」
「…女児?…ああ、コイツは友達だよ。」
…そう答えると、メルマが俺の袖を引っ張った。…何か言いたげな顔をしている。
「…なんで、女児で納得してるの?」
「え?いや、だって…お前…ちっちゃいじゃん…ってイタタタ!?」
突然、俺の右手の甲をつねってきた。
しかも、かなり強く。
「ちょっ、ヤメッ、いたいから!ホントに、イテテ!!」
「…私、そう言われるの気にしてるの。…だから、ちょっと発言には注意してもらいたいかな…。それに、年齢的には私の方がお姉さんなんだから…ね?」
「わ、分かった!!もう言わないから!ちっちゃいって言わないから!」
「……。」
…メルマは、無言でつねるのをやめた…。
「…え~と…仲は良いようじゃの…。」
「今の見て、どうやったら仲が良いって結論にたどり着くんだよ…。」
「じゃあ、悪いのかの?」
「…いや、悪くはない。」
「そうか。」
…それだけ言うと、アイナはメルマの方を向いた。
「…さっきは女児などと言ってすまんかったの。配慮が足りんかった。」
「あ…いえ…。」
「…お主、名は何と言うのじゃ?」
「メルマです。」
「そうか、メルマというのか。」
「はい。」
「では、メルマ。これからもな、キヨトの奴と仲良くしてやってくれ。」
「…あ、はい…。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あれから、同じ席に座りアイナ達とこれまでの一ヶ月の出来事をお互いに話し合った。
それぞれが、楽しそうに喋っている中、サメロアだけは喋らずに話を聞いているだけなのは、可哀想だった。
…なので、グラゴルさんが途中で仕事に戻っていったのを機に…残ったメンバーで俺の部屋に移動し、サメロアも交えて話をすることにした。
……………
「ここが俺の部屋だ。」
「ふ~む…。新しく出来た宿舎の部屋はこんな風になっとるのか…。グラゴルの奴から聞いておったが、本当に広いし…我が前住んでおった宿より設備も整っとる。…これで、家賃5千メリルは安すぎやしないか?」
「しかも、それに加えて食堂で出てくる飯は絶品でおかわりし放題ときた。」
「…至れり尽くせりじゃな。」
「…本当にな。」
…そんな会話をアイナとしながら、取り敢えずソファーに座った。
「…で、じゃ。お主がサメロアの事を見えるというのは、本当なんじゃな?」
「バッチリ見えてるし、声もちゃんと聞こえてます。」
そう言って、メルマはプカプカと浮いてるサメロアの事を指差した。
「ほぉ…まさか、見えとるとは…。」
「か、感激ですわ…わたくしと喋れる方が…三人も。」
「嬉しそうじゃな。」
「はい!」
満面の笑みを浮かべながら、何故か俺の体をくねくね動きながら何回もすり抜けるサメロア。
「おい、俺の体をすり抜けるな。…てか、その変な動きは何なんだ?」
「喜びの舞ですの。嬉しさを舞って表現してるんですわ。」
「…なんだ、それ…訳が分からんぞ…。そもそもとして、その動きは舞ってると言えるのか?」
「わたくしが舞ってると言えば、それは舞になるんです。」
「…そ、そうか…。」
…色々とツッコミたいけど…まぁ、嬉しそうだしいいか。
…体をすり抜けるのは、気味が悪いのでやめてほしいけど。
「…愉快な幽霊さんだね。私が見たことある幽霊ってもっとこう、おどろおどろしかったのに。」
「うふふっ、わたくしは踊って歌える可憐なユーレーですわ~。」
…などと言って、サメロアは俺の体をすり抜けて変なステップを取りながら、よく分からない歌詞を口ずさみ始めた。
「~♪」
「アハハ、何それおもしろ~い。」
と、メルマはその様子を見て拍手をしながら笑っている。
「…楽しそうだな。サメロアのヤツ。」
「そうじゃな。…もう少し街に来る頻度を上げるかの。」
…楽しそうに歌うサメロアとそれを見て笑うメルマの様子を眺めて、俺とアイナはなんだか微笑ましくなるのだった。
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