第4話 冒険者登録


 冒険者ギルドは三階建てで、周りの建物と比べて二回りは大きく見える。三階の正面の壁の一番上には剣と盾を組み合わせた意匠が施されていて分かりやすい。


 中に入ると、いくつかのテーブルと椅子付近に冒険者達が雑踏しているのが見えた。そして、それとは対照的に人が群がってはいない、受付と思われる区画が見えたので、取り敢えずそこに向かった。


 ……三つある受付のうち受付嬢らしき二つの場所は数人並んでいたので、中年の男性の元へ向かう。



「おー、どこの使いで依頼を持ってきたんだ? 少年」


「違います。冒険者登録しにきました」


「ん? 随分若そうだが……」


「俺は10歳ですよ」



 冒険者は原則10歳からなれるはず。



「そうだとしても……」


「おい、そこの二人!」



 ふと、待合所で野太い声が聞こえた。


 正直、一瞬ビビったが、自分ではないことを理解すると、その声の主の方を注視する。



「え、俺たちですか?」


「そうだ」


「何か用ですか?」



 ここで、俺の兄と同じくらいの年齢の男女が30歳前半と思われる男に話しかけられるのが見えた。



「まだ成人もしてないお前たちが魔物を狩ろうとしてるのか? それは無謀ってもんよ」


「危険だというのは知っていますが、俺たちはお金を稼がないといけないんです!」



 帯剣している紫色の髪の少年が反論する。



「アイツらの危険性は実際に会ってみないと分からないぞ!」


「そ、それでも私たちはそうするしかないんです! そ、それに私は魔法を使えます」


「そうかい……それなら、俺はもう何も言わないぜ」



 杖を持っている栗色の髪の少女は魔法が使えると言う。


 この世界では基本的に、歳を重ねた者が強い。

 何故なら、この世界にはレベルやスキルの概念があり、レベルアップやスキルの強化は不可逆の変化だからだ。

 そのため、歳をとり、免疫力が低下して病気になるなどしない限りは、常にの自分が最盛期だ。



「なぁ、おっさん」


「おっさんって俺のことか……?」


「おっさんだろ。で、俺の年齢で冒険者になるのって珍しいのか?」


「そ、そりゃあな、普通は成人後までスキルを磨いてから冒険者になるからな」



 因みに、この国での成人は15歳からだ。



「ん? どれくらいスキルを成長させてから冒険者になるものなんだ?」


「あぁ、一般的には初級の剣術か魔法あたりを2つくらい持っていると思うぞ。あと、レベルは8〜12あたりだ」


「え、俺はスキルを10個持っているんだが……」



 そう言うと、急にギルド内が静かになった。

 そして、我に返ると、一斉に冒険者達が騒ぎ出す。



「そんなわけねーだろ!」


「子供が見栄張ってんじゃねーよ」


「自信だけで、すぐに死んでいったヤツらは山ほどいるんだぞ!」


「そうだぞ! 勇者じゃあるまいし、お前がそんなにスキルを持ってるわけないだろ!」



 ん? なんか気になるワードが……



「なぁ、おっさん」


「この状況で俺に話しかけるんかい!」


「勇者が今の話の何に関係してるんだ?」


「無視かよ! ったく……異世界から召喚された勇者様は、成長が早いって言われてんだ」


「なるほど……」



 俺と同じで勇者は《成長促進》の固有スキルでも持ってるのか?

 魔王が復活したり魔神が現れたりしてるわけではないが、300年周期でこの国、シュッペルゼ王国は勇者召喚を行い、魔物に対抗する戦力の一つにしているらしい。



「まぁ、何の依頼を受けるかは自由だが、このカードに一滴血を垂らせば冒険者登録は完了するぞ」



 おっさんがそう言いながら一本のナイフと一枚のカードを渡してくる。

 そのカードに血を垂らすと、俺の名前とFランクと書かれた文字が浮かび上がってきた。



「じゃあ、オススメの討伐依頼とかない?」


「はぁ……北西の森のゴブリンでも狩ってくるのがいいと思うぞ」



 ゴブリンを狩るのは初心者冒険者の最初の試練みたいなものだしな。



「……あれ? 依頼書はないのか?」



 受付の横の一面に依頼書が貼ってある掲示板を確認し、おっさんに尋ねる。



「ゴブリン討伐は常設依頼だからな。ヤツらは繁殖力が高くて何処からでも湧いてくるんだよ」



 なるほどね、まだ金には困ってないし、スキルに慣れてから依頼を受けてくことにするか。



「「あ、あの!」」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る