10 ギルド


SIDE:メリア



 さて…と。


 報告の為にギルドにやって来たのだが……相変わらず混雑してる。

 夕方の一番混む時間帯というのもあるけど、辺境の街ということで冒険者の人数そのものが多いのでしょうね。

 なんせ、冒険の舞台はそこかしこに用意されているのだから。



 レヴィはギルドに従魔用の待機場所があるので、そこで待ってもらっている。


 私がギルドの中に入ると注目が集まる。

 いつもの事なんだけど、早々慣れるものではないわね……

 自分の容姿が目立つという自覚はしているが、注目されるのはそれだけが理由ではない。


「よお!!メリアじゃないか!元気か?」


「あら、久し振り。ええ、変わりないわよ」


「メリアちゃん!!今度パーティー組もうよ!」


「ん〜、時間が合えばね」


 …

 ……

 ………



 カウンターの順番待ちをしている間、顔見知りの冒険者たちから声をかけられる。

 世間話をしながらなので、それほど待ち時間も気にならず、もう少しで順番が来るところまで来た。



「随分と人気があるのですね」


「え?あぁ……最近はたまにしか来てないけど、私は10歳のころからここに通ってるからね。知り合いはそれなりに多いのよ」


「なるほど」



 冒険者なんて荒くれ者が多いし、問題がある人もそれなりにいるのだけど……基本的には見た目よりも気のいい人が多いと思う。

 だから、小さい女の子が頑張ってる姿を見て放っておけずにアレコレ世話をしてくれた感じだった。


 ということもあって、あまり顔を出さない割には私はこのギルドでは有名人だったりする。

 若くして実力を認められてるというのも理由の一つだ。




 さて、そんなやり取りをしているうちに私たちの番が来た。



「あ、メリアちゃん、いらっしゃ〜い!」


 顔見知りの受付嬢、フィリーさんが親しげに話しかけてくる。

 ここの職員の殆どの人は顔と名前を覚えているけど……他の人が割と事務的なのに対して、この人は結構フランクな感じだ。

 そのせいなのかは分からないけど、時々ギルド長に怒られてるのを目撃する……


「フィリーさん、こんにちは」


「今日は何のご用かしら?お連れさんがいるみたいだけど……パーティーメンバーってわけじゃ無さそうよね」


 グレンやイェニーさんは騎士の正装をしているわけではないのだけど、纏う雰囲気は冒険者のそれではないからね。

 一緒にいてもパーティーって雰囲気じゃないのは確かだ。


「彼らは成り行きで……『魔女の森』に現れた魔獣の報告をしに来たの」


「魔獣?あぁ、例の……もしかして、そちらの方たちは?」


「はい。昨日、魔女の森で強力な魔獣と遭遇した…と報告させて頂いた者です」


 フィリーさんが水を向けると、イェニーさんが答える。



「なるほど。で、メリアちゃんが来たという事は……もしかして退治できた?」


「ええ。彼らが襲われたという魔獣の特徴とも一致していたわ。これが討伐証明ね」


 そう言いながら私は鞄からキマイラの討伐証明部位である牙を取り出してカウンターに置く。

 昨日埋葬する前に、それだけ確保してもらっていたのだ。


 フィリーさんは牙を手にとって、ルーペのようなものを使って確認を始める。

 あれはギルド員に支給されている鑑定の魔道具だ。

 鑑定対象の来歴をある程度見ることができる……らしい。



「こ、これって……キマイラ!?ちょ、ちょっと!!メリアちゃん、大丈夫だったの!?」


「苦戦はしたけど、レヴィと……こちらのグレンと協力して、何とか倒せたわ」


「倒した、って……A+をたった3人で……でも、こうして討伐証明があるんだから事実なのよね……凄いわ!メリアちゃん!!」


 そう手放しで褒められると照れるわね……

 私の実力はこれまでの実績からある程度分かってると思うのだけど、A+を討伐できるほどとは思ってなかったのだろう。


 ……もう一度相手しろと言われると御免被りたいのだけども。



「とにかく、報告されていた魔獣は斃したと思うのだけど……浅いところにまでキマイラが出てきた理由は分からないから、引き続き警戒したほうが良いと思うの」


「それはそうよね。分かったわ。上には報告しておくわね」


「お願いしますね。じゃあ、私はこれで……」


「ちょ、ちょっと待って!査定しないと!」


「え?……討伐依頼の魔物ではないと思うのだけど?」


「こう言うイレギュラーなケースは、依頼が出ていなくても査定に考慮されるのよ」


「そうなんだ……」


 あまり稼ぎやランク上げに力を入れてるわけじゃないけど、こう言うケースも査定してくれるなら有難いと思う。


「という事で、直ぐに査定しちゃいますから、ちょっと待っててね」


「お願いします。あ、グレンとイェニーさんは先に宿に……」


「いえ、お付き合いしますよ。直ぐということみたいですし」


「ええ。私も待ちますよ」


「そう?じゃあ、ちょっと待ってましょうか」








 そうして3人で待つことしばし、フィリーさんが言った通りそれ程時間もかからずに査定が終わり……

 流石にA+ランクの魔物討伐と言うだけあって、かなりの金額となった。


 倒せたのはグレンのおかげでもあるので、遠慮する彼を押し切って山分けにした。

 押し問答を繰り返してようやく……ではあったが。

 実際彼が前衛を引き受けてくれなければ、私も切り札を出すことが出来なかった……と説得して渋々受け取ってくれたのだった。



 まったく……真面目なのは彼の美点だとは思うけど、もう少し砕けても良いと思うのよね……











SIDE:グレン



 ギルドを後にした俺たちは、確保している宿へと向う。


 ……思いがけず魔物討伐の報奨金を受け取ってしまったが、どうにも納得できなかった。

 彼女は俺がいなければ……などと言っていたが、きっとレヴィと二人だけでも何とかしていたのではないかと思う。

 半ば強引に押し切られたのと、好意を無下にすることも出来ないとも思って最終的には折れたのだが……


 ……依頼の報酬に自分のポケットマネーから上乗せしよう、と思ったのは秘密だ。



 そして、ギルドからそれほどかからずに宿に到着した。

 入り口にカールが立って私達を待っていてくれた。



「グレン様!」


「カール、待たせて済まないね」


「いえ。魔女殿の部屋も押さえることが出来ました」



 ふむ……

 最初はメリアと衝突したが、今は特に蟠りを持ってる様子は見られない。


 彼は貴族であることに誇りを持っているが、少々それが行き過ぎているきらいがある。

 先程も激高して平民を侮辱するような物言いになってしまったが……本来は職務に忠実、真面目で正義感の強い好青年だ。


 隊員の多くは平民の出であるが、彼らとも上手く付き合ってるし、決して見下してるわけでは無い。

 だが、先の言動は流石に不味かった……と、少し気まずい思いをしてるのかも知れないな。

 だからこうして一人外で待っていたのだろう。


 ……後でフォローしておかなければ。



「ありがとう、カールさん。お手数をかけて申し訳ないわ」


「…!い、いえ……その、さ、先程は……すみませんでした……」


 メリアが宿を手配してくれたお礼を言うと、カールは驚いて、しどろもどろになりながら先程の比例を詫びる。


 ふ……やはり、彼も悪い人間では無かったな……と、少し安心した。


 だが、心做しか顔が赤くなってるのは何故だろう?

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