近所のサッカー少年(1)


あれは、私が小学校4年生の秋ごろだった。

私のクラスにオーストラリアから来た男の子が転入してきた。

日本の学校生活を体験してみたかったらしく、学校側に交渉したところ

了承を得ることができたという。

現地の学校が休みの間は、日本のgrand motherの家に家族で訪れていたそうだ。



(以下、彼のことはT君と呼ぶ)


「今日から4週間、このクラスに入ることになりました。自己紹介をしてみて。」

先生にそう促されて、自己紹介をするT君。

「オーストラリアからキマシタ。仲良くしてクダサイ。」

カタコトな日本語で、イントネーションはいかにも外国っぽい印象を受けた。

みんなが物珍しそうに、食い入るようにT君を見ていた。


座席は運命的にも、私の隣だった。

「よろしく。」

そう言って私を見つめてきた。

透き通るような茶色い大きな瞳。

ずっと見ていると吸い込まれそうで、とても緊張した。


隣の席となると、なにかと接点も多い。

T君の持っていないプリントを一緒に見たり

ペアを組んで話し合うときなんかは常に一緒だった。

しまいには通学路も同じ方面で、毎日一緒に帰っていた。


こんなに同じ人と一緒に行動したのは、あの時が最初で最後だ。

どこに行くにも、何をするにも合わせなければいけない友人関係が苦手で

仲良くなってついてこようとする友人を私はいつも冷たくあしらっていた。

T君のことも、いずれ嫌になるだろうと思っていた。

でも、彼だけは違った。


国語の授業で、文章を音読する時。

読み終わった人から順に座っていく方式だったので、

日本語をまだまともに読めないT君は毎回最後まで残っていた。

「はい、そこまで」と言われるまで、大きな声でゆっくりと読み続けていた。

私は帰り道、「音読の時、どうして途中でやめないの?恥ずかしくないの?」

と聞いた。

すると、「うーん。漢字読めないし難しい。でも、途中でやめちゃったら、誰も僕に教えてくれないでしょ?僕ができないことを周りに知ってもらいたい。」と答えた後、

「でも、できないことは恥ずかしくないよ」と言った。

あの時の会話は今でも忘れられない。


今思うと、私は彼の考え方や行動に勇気をもらっていた。

私のマイナス思考をひっくり返すような力を持っていた。

本当に、天使のように優しくて、彼の周りにはいつも和やかなムードが漂っている感じだった。

だからこそずっと一緒にいられたのだろうし、仲良くできたのだと思う。


4週間が終わってほしくなかった。

ずっと日本にいて欲しかった。


____次回に続く。








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