第9話 エリート一家 セブンス七兄弟

 一行はモクドラを発った…

モクドラとヘビヅチを結ぶスーネッコ通りを進んで一日が経った…

「それにしても伝説の秘宝『大魔王の遺産』ねぇ…何だか未だに信じられないわ…」

ミサキの付ける星のブレスレットを見ながらミレアはそう口にしていた。

「私も信じられないよ…。でもあそこで起きた不思議な力は本当だったしそれに…」

ミサキは手紙を持っていた…

「あのマジシャン…、わざわざ花束に手紙を仕込んで何のつもりかしら…?」

「手紙にはこの星のブレスレットについて書いてくれてるけど…」


 手紙

お嬢さんへ

 ボーイフレンド殴っちゃってごめんなさい。お詫びにお嬢さんが持つそれについて少しでも知りたいだろうから教えます。

 それの正式名称は『星のブレスレット』

でもそれに限らず他の『大魔王の遺産』は正式名称以外にその呪いから来る負の名称もあります…。

ちなみにこれの場合は『衰弱の腕輪』と呼ばれていて、着けるものからドンドンと生命力を奪い、最後にはその体は干からびたミイラになる…らしい…と言われて恐れられてる代物です。

 次にこの『星のブレスレット』が一体呪い以外に何の効果があるか説明します。

まず『星のブレスレット』の恐ろしさはその防御性能です。

お嬢さんは大会の時に無意識にそれを使い彼を守りましたがその時に出ていたのは『光の壁』と言います。

物理攻撃や魔法攻撃を防ぐ『光の壁』を所持者は勿論、所持者の視界に入る人の周りにも発生させることが出来ます。

『光の壁』の防御力は万全の状態なら一国の城壁を上回るとも言われています。そして、自由自在に形と規模を変えて何人をも守ることが出来る防御系最高峰の技でもあります。

壁は一枚分しか他人に付与できませんが、所持者が近くに居るなら壁は自動的に再生します。

また所持者は『光の壁』一枚に加えて、所持者自身にはもう一枚の薄い防御壁が付与されていて、軽い打撃や少しの矢ぐらいなら弾いてくれます。

 ただし、完全無欠に思えても油断してはいけません…

『星のブレスレット』には致命的な弱点もあります…

それは空が雲で覆われているとその効力が発揮されないという点です…

『大魔王の遺産』はただ持っていても真の力は引き出せません…。使いこなせるまで時間は相当かかるかも知れませんがゆっくり焦らずにいてくださいね…。

『星のブレスレット』は『大魔王の遺産』シリーズでは珍しい事に過去に八人者もの使用者がおり、新たな使用者が出る度にその効果が大きくなっていった貴重なものです…。中にはそれを使って唯一無二の防衛力を誇る一国を築かせた話も聞きます。お嬢さんがそれを使いこなせば間違いなく新たな『星のブレスレット』の可能性がきっと見えてきます。是非頑張ってみてください…。

 ですが注意してください…。それを狙う者は勿論、それを扱える貴方を狙う人間も現れるでしょう…

今後の生活にお気をつけて…

 お嬢さん方の幸運を願っています…

                 マジシャンより


「今起こっていることと合ってるわね…」

ミレアの言う現段階で『星のブレスレット』を持って実際に起こっていることは二つ。

 一つはミサキを中心にミレア・ムスビ・アズキ・二頭の馬を含めて『光の壁』がドーム上になって覆っていること。

 もう一つはミサキの意思でその壁が大きくなったり、小さくなったり、はたまた消してしまうことも自在なこと。


「これ付けてて思うけど、壁を出したままでも体力はそんなに使わないね」

「でもさっき壁を伸ばしたら大分辛そうだったわよ?」

「ん~多分だけど規模が大きいのを維持することは体に負担をかけるのかな?」

「まあそれでも、これでミサキちゃんの近くに居ることが私達にとって一番の安全になったわね…、晴れた日ならだけど…」

「これさえあれば、皆を助けるのグッと楽になるよね!」

「ええ、わざわざ大会の日まで留まった甲斐はあったわね。まあその代わりにヘビヅチから出る船に間に合うのはギリギリになったけど…」

 ミレア達は大会までの数日、モクドラを見て回り、その中でモクドラの情報の発信源である掲示板を見た。

掲示板にはいくつかのポスターやチラシ、旬の情報が貼られており、モクドラ以外の町の情報も知ることが出来た。


魔獣ケルベロスを連れた謎の人物またまた出現…

シュガー島に警察派遣?謎の爆発の解明…

タワー島の炎槍部隊、ウィンター島の氷剣部隊遂に激突か…?

もうじき秋の武道大会、バトルマスターの称号に近づくのは…?

 これらのいくつかの記事に混じって…


ヘビヅチから十日後に出港(シュガー島行)…クラーケンの影響で次は一ヶ月後か?船代も高騰中…


この記事はムスビ達が来る前日からのもの…

よってモクドラに着いた時点で残り九日…

三日後の大会の日で残り六日…

そして移動の五日を引くと残り一日…

つまり着いた次の日に船は出港する。

「あまり時間の余裕はないわ…、それどころかクラーケンで船の料金上がってるなんてついてないわね…」

「でもまだ船に間に合いそうだから良かったよ。それにお金も500,000ぐらいあるんだから足りるよきっと」

優勝賞金の残り150,000を元々あった380,000に足して530,000のお金がムスビ達の今の手持ちとなっている。

「それでもまだ不安はあるわよ。船に乗った後だってお金はかかるんだもの。多すぎるぐらいあった方がちょうど良いわよ」

「取り敢えず一回敵であるセブンス・グリドについて話しておいた方がいいわよね。と言っても二人は多分そんなに知らないだろうから私が知ってることになると思うけど」

セブンス・グリド…

このビーンズ島の隣、シュガー島の大商人…

シュガー島の一番の大国『クリーム・パンケーキ王国』

その王国の名門セブンス家の次男。

商人として活動し、その規模はシュガー島で最も大きく、その分周りへの影響も大きい。そして裏では拐った人を奴隷として売る違法売買で多額の利益を出し、盗賊による略奪もさせている強欲なる人物。

多くの店の従業員やお抱えの騎士、盗賊、他の商人等多くのコネクション、そしてその背景にあるセブンス家と言う巨大な権力…


加えてセブンス家の大物はグリドだけではない…

グリドは七兄弟の次男だが他の兄弟達も負けず劣らずの肩書きを持つ者達である…

若くして軍の司令官を務める元王国第一騎士団団長にして王国随一の強さを誇る達人長男ブライト 

王国一の大商人次男グリド 

王国一の魔法の使い手長女エイニィー 

ブライトの後釜として王国第一騎士団を率いる三男ラーズ

魔法学校を運営する次女レイシュ 

二百名以上の傭兵達をまとめている四男のグラット。

カジノのオーナーを務める五男ウスロ


そんな話をしていた一向はついにヘビヅチに到着した。だがその頃のシュガー島のある屋敷の中では…


 ガチャッ

「ただいま兄さん、ウスロ!」

「あれエイニィー姉さん?レイシュ姉さんとこ行ったんじゃないの?」

「今日は夏休みの補修だから短いのよ。朝言ったじゃない…」

「いや~、グリド兄さんが騒がしくてつい忘れてたよ」

「そう言えばあいつ、今日も何か慌ててたわね…」

「兄さんなのにあいつ呼ばわりってひどいよ姉さん…」

「私あいつ嫌いなのよ」

「まあ、もう俺達七人しかセブンス家はいないんだ。喧嘩も程ほどにしないとな」

「パパ殺したのあいつでしょ…」ボソッ

「ちょっと姉さん!確定している訳じゃないんだから…、そんなこと言っちゃ…」

 ガチャッ

「あれ?三人で何話してたの?」

「グラット…何でもないさ。ただ今日の食事は何か話してただけでな」

「おお!もうすぐお昼の時間!ちょっと厨房覗きに行こっと!」

 ダッダッダッダッ!

「グラット兄さんつまみ食いする気だね…」

「そう言えば俺はラーズを探しに明後日からは留守だけど大丈夫か?」

「まあ、国の最高戦力居ないのが大丈夫って言えはしないけど…」

「まあ、大丈夫だよ兄さん!僕や姉さん二人も後日他の島に旅行行くけどその間に潰れる程国はやわ…じゃ…」

「残ってるのはあいつと…グラット…」

「姉さん。旅行やめとく?」

「いや、ウスロは向こうで大事な話しに行くって言ってたじゃない。それに二年ぶりの旅行なのよ?大バカラーズがどっか行かなきゃ家族皆水入らずで行くはずのやつよ?」

「いや…グリド兄さん達ハブられて…」

「誘っても行かない言ったのはあいつだからいいの!」

「まあ、ラーズがすぐ見つかったら連れてそっちに行くさ。一ヶ月の長期休暇は俺も楽しみたいからな」

 ガチャッ

「いや~ただいま兄さん達!中々困った商品がいてさ~。管理も大変だよ全く」

「あっ、グリド兄さん…。大変そうだね…その暴れる商品ってやつ…」

「ん?ああそれはもうな!ウスロにも今度見せてあげるさ!」

「なはは…遠慮しておきます…」ボソッ

「暴れる商品って何よ。何かヤバイ商売してるんじゃないでしょうね」

「人聞きの悪い。普通の商売、皆やってることさ!」

「そういえばグリド。この前国の貴族達を集めたパーティー開いてたな」

「色々と商売してると人付き合いが大切だからさ、貴族に限らず普段お世話になっている方々を招待したよ。会って色々と話したいことだってあったからさ!」

「そうか…。そう言えばグラットと話さなくていいのか?帰ってきたら話があるって言ってたろ?」

「ああそうだった!ありがとう兄さん!ちょっと行ってくる!」

 ダッダッダッダッ!

「はあ…あいつどこまで堕ちれば気が済むのかしら…。絶対あれ始めてるでしょ…」

「違法売買のこと?」

「それ以外にないでしょ…。あいつが商売を始めてもう五年になるけどこの一年は変だったでしょ。元々嫌な奴だったけど…」

「確かに家族付き合いが悪くなったよね。忙しい忙しいって言ってさ。思い返すとラーズ兄さんとの喧嘩も減ってたしさ。かかわる時間が少なくなっていたっていうかさ」

「私達に何かを秘密にしているように見えるわ。まあ、さっきあなたのことは誘っていたけど…」

「あんなの断るって知ってて誘ってるだけだよ」

「まったく、何でグラットはあいつの味方なんだか…」

「まあ…、グラット兄さんは頭あんまりよくないから…。僕らの身内の中でも一番騙されやすい人だし…」

「もうあいつ縛り上げて突き出しちゃいましょうよ…」

「お前な…。もし捕まえるなら違法売買をしているのを証明出来ないとダメなんだぞ」

「現行犯か…、被害者からの証言とかが必要だね」

「まどろっこしいわね…。いいじゃないの。捕まえてからじっくり探せば、証拠なんていくらでも見つかるでしょ」

「多分無理だろうな」

「何でよ」

「僕達がグリド兄さんを無理やり捕まえたとしてもグリド兄さんの味方の方が多いかもしれないからね」

「どういうことよ」

「あいつが違法の商売をしているならそれを買っている客…、つまり違法なのを分かっていながらその商品とやらを買っている奴らが居るってことだ。グリドがヤバくなったらそれを匿う奴が逮捕をさせない、もしくは逮捕されても証拠隠滅をグリドの代わりに進んで行ってくれる奴がいるかもしれないってことだ」

「だとしたら現行犯や証拠を得たってもみ消されかねないんじゃ…」

「やりようはあるよ。姉さんの友達の警官さんなら大丈夫かもしれないし」

「え…、それってミカヅキちゃんのこと?」

「そうそう、あの真面目な人ならさ。それにあの人は王国支部じゃなくて、連合本部の人でしょ?支部を経由せずに本部に直接逮捕されたらグリド兄さんの息がかかった人間も関わりにくいでしょ」

「まあミカヅキちゃんならあいつを捕まえるのに協力してくれるかもしれないわね。それに仕事でこっちに来るって話だし…。でもミカヅキちゃんがこっちに来てる間は私達は旅行中でいないわね…。旅行やっぱり辞める…?」

「いや、もしそんな証拠があるなら俺達が居ない時の方が見つかりやすいはずだ。旅行中に俺が様子を覗いていくさ。こっちの早とちりで間違えて逮捕なんてする訳にはいかないから一旦この話はそれまで保留にしよう」

「そうだね。グリド兄さんがただ単に珍しいペットの商売始めただけとかって可能性も僅かに無きにしも非ず…と言えなくもないからね」

「あれは間違いなく黒よ!」

「ほら、昼食の時間に遅れるぞ」

「げっ、ホントだ」

「ボサッとしてると私達の分、全部グラットに食べられるわ!急ぐわよ!」


 ミレアが話すセブンス家の面々…

どの人物も厄介なものだが、兄弟間の関係は良好だがグリドに関しては割りと良くなかった…

だが、そんなこと知るよしもない一行は頭を悩ませていた…


 第九話 エリート一家 セブンス七兄弟 終

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