第7話 敗北アボー 目指すはモクドラ

 そして場面は館の玄関へ

「ぐっ、くそ!素早しっこい奴め!」

 ムスビは回避に専念し、隙あらば物を拾って素早く投げつけていた。

単純な攻撃力や防御力は上回っていてもスピードだけはついていけずに段々と男もペースを乱され焦ってきていた。そして投げられた物も最初は簡単に躱せてたが段々避けるのが難しくなってきていた。

「落ち着け、こっちも投げ返してやれば最初みたいに…!」そう言って落ちてる盾を拾おうとした時にムスビは近づき男の顔を蹴りあげた。

「ぐぅ、クソガキィ!」激昂した男は剣で再び斬りかかるがあっさり躱された。

ムスビ(…やはりスピードは俺に分があるな)

 そして男の右手から持っている剣を弾き、勝負あったと思ったその時…

「…ッ!」

ドサッ………

何者かに背中を斬られ、館の中でムスビは転倒してしまった。

「お、お前は!」男は驚いた。

ムスビを斬ったのは遅くやって来た護衛であった。彼は他の者よりダメージがひどく遅れてしまったのだ。

「良くやったぞ!こいつめ、そのダメージじゃもう逃げれまい!」

男は急いで落とした武器を拾い、ムスビを蹴り飛ばした。

「さて、止めをさしてやるか」

「待って下さい!こいつにはしてやられたんです。止めは私が…!それに殺す前に痛め付けてやらないと…」

「はん、だったらさっさと済ませろ。こういうのは早く殺すのに限る」

そして護衛はムスビの腹に何度も蹴りをいれていたが…

「もう気は済んだだろ、さっさと殺るぞ」

「は、はい…」

「中々のもんだったぜクソガキ」

男は剣が振り下ろされようとした時にそう口にしたが…

「…油断するにはまだ早い」そう言ってムスビは剣を振り下ろそうとする護衛の顔に回し蹴りを一発いれた。だが…

勢い良く動いたせいでムスビの背中からの出血はさらに酷くなっていた。

「しぶといガキだ、だがこれで終わりだ!」

男の斬撃を避けたムスビは再び走り出したが、動きを捉えられ投げナイフがムスビの太ももに刺さってしまった。

「ダメージでさっきよりも動きが鈍くなっているぞ、もう諦めろ」

そして男は立ち上がる隙も与えずにトドメをさす為、すかさずムスビに向かっていった。

ムスビ(…やられる)

そして次の瞬間、血の赤が館の床を染めていた。最もそれはムスビのではなく…

「グアアアァァァ!」

「!」

「誰だ!俺の背中を斬りやがった馬鹿は!」男は背中を斬られ後ろを振り返った。

 そこには落ちていた剣を拾い、男へ斬りかかったであろうミサキが居た。その証拠にミサキの服や持っている剣が血で染まっていた…

「…ミサキ!何故ここに…」

「ぐ、ぐおおぉぉぉ………!い、痛ぇ…!」

「…!いやそれよりも何をしてるんだ!そいつから今のうちに早く逃げろ!」

だがムスビの言葉には反応せず、ミサキはただじっと男を睨んでいた…

「またガキか、不意打ちで調子に乗りやがって…!」次の瞬間、男はミサキに斬りかかっていた。

(ぐ、くそっ!体が…!ミサキ逃げ…)

だが斬られたのはミサキの着ていた服の一部のみだった。

(よ、避けれたのか?なら今の内に…!)

「グアアアァァァ!!!」

(………!!)

驚きの光景だった。ミサキは大きく振りかぶり隙だらけの男に剣を突き刺していた。

しかもムスビがくらった箇所と同じ太もものところに…

「ムスビちゃんは殺させないよ…」

ミサキは小さな声でそう呟いていた。

「…ミサキ、どうしたんだ?」

「ふぅ…ムスビちゃん!大丈夫!?」

「…ああ(…いつものミサキに戻った?)」

あまりの豹変ぶりにムスビも少し困惑した。だがムスビと話す時にはいつものミサキに戻っていたようだ。

「ひどい怪我だよ!?と、取り敢えずどこかで休まないと」

ムスビの怪我の心配をミサキはしているが…

「…!ミサキ逃げろ!あいつまだ…」

もう遅い…男はミサキ達に既に近い距離まで詰めていた…

「ぐっ、ふざけやがってガキ共!ころし…」

「貫け突風よ!」

玄関から内へと吹く風が男を飛ばした…

ミレアの風魔法が炸裂したのだ。

「ミレア…!ナイスタイミング!」

「え?ミレアちゃん!?体大丈夫なの!?」

「何言ってるの、私は吸血鬼よ…!こんなのすぐ回復する…わよ…!」

つらそうに息を乱しながら言っていて説得力は欠片も無かったが…

「…助けてくれてありがとうミレア」

「ッ!別に礼なんて良いわよ…助けてもらってるのはいつも私達なんだから…」

と言い、少しにやけて緩んだ顔を二人には見えないようにそっぽを向いているのだった。

「それよりさっきの奴はどうなったのかしら?」

男の方を向くとそこには壁にうちつけられ倒れこんでいた姿があった。背中と太ももには大きな傷があり、胴当てはさっきの風魔法で若干えぐれていた。気を失っているので取り敢えず安心した三人だった。

「?」

(…今誰か窓から俺達を覗いてたような、…気のせいか?)

二人はどうしたの?と声をかけるが…

「…何でもない。取り敢えずあっちを見に行こう」

心配する二人だが、大丈夫、大丈夫言いながらと向かうムスビをミサキは支えながら、ミレアはムスビの代わりにアボーを引きずりながら廊下を進む。

 廊下の先には書斎、倉庫、保管所があった。書斎からはめぼしそうな書類を手に入れられたが、倉庫は犯罪に関連してそうな物は特に見当たらなかった。

最後の保管所は扉を開けるとまた小さな部屋がありそこから更に先へは鉄の扉を通らなければならなかった。

「鍵付きね…。腰に鍵束ぶら下げてるわね、これで開くかしら」

 ガチャッ

アボーが持ってた鍵で扉を開く事が出来た。


 扉の先には商人の売買用の商品が大量に保管されていた。

食糧、衣服、宝石、本、家具…色々な物が置かれていた。階段があり、二階と地下に繋がっているようだ。

 一階は何事もなく進むかと思ったらミレアが途中で足を止めた。

「どうしたの?」

「これって…」

そう言ってミレアはショーケースに入った宝石を見ていた。

「その宝石がどうかしたの?」

「やっぱり、これ…!お母さんの宝石…!」

声を震わせながらそう言い、それを聞いた二人は驚いた。

「なんでこんな所に…」

「…セブンス家が売り飛ばしたんだな」

「じゃあ、ミレアちゃん達の大事な物はこうやっていろんな所に売られてるって言うの?」

「確かにおかしくはないわよね…私達の家を襲って来てからずいぶん経ってるもの…」

そう言うミレアの言葉は元気がなく、ミサキもかける言葉が見つからなかった。

『パリーンッ!』

ショーケースを割ってムスビはミレアに宝石を渡した。

「………そうね盗られたものも取り返せば良い。一個一個ね」

そう言ってムスビから宝石を受け取った。

(お願いショコラ…あなただけは無事でいて…)

一行は階段まで向かいまず地下へ行った。

地下には牢屋があり、その中には人が居たのだった。

合計で十人、皆ムスビ達が来たのを見ると出してくれと懇願してくるのだった。そしてムスビ達は鍵を開けて皆から事情を聞いた。

どうやら皆各地で奴隷として捕まえられたようだ。つい先日に売られる事が決定して皆気が気ではなかったとの事。皆、身寄りがなかったり家族と絶縁中に捕まえられたりと拐われても訴える者がいないのを狙っていたようだ。

そして最後に二階の方を見に行った。

「…あった、目当ての物」

それを聞いたミサキとミレアはどういう事?と言った表情だった。

二階にあった物はマジックボックスである。それも黒の…

「もしかしてずっとこれを探してたの?」

「…ああ、これがあるのが一番ベストだった」

「一体どういう事なの?」

「…こう言うことだ」


それからしばらくした館の玄関に場面は移る…

『ガオォォォォォォォ!!!』

何かの生き物の咆哮で男は目覚めた…

護衛達も同じように…

だが目の前の存在は悪夢そのものだった…

「な、何で魔獣がぁぁぁ!?」「ヒィィィィィ!!」「は、早く逃げないと!」

『ガオォォォォォォォ!!!』

二度目の咆哮がその場に居るものを黙らせた…

魔獣は玄関の外に居るがその目は護衛達を捉えており皆動くことが出来なかった…

動けば殺られる…

死への恐怖がその場を支配していた…

「…死にたくなかったらこの檻に入れ」

ムスビは震えた男達にそう言い、ムスビは魔獣を移動させた。玄関から出てすぐに檻へ入れるようにする為、すると檻の中に入ったアボーの姿が男達の目に映った。

護衛達九人は大人しく投降したが…

「ガキが!くたばれ!」

最後の男だけ投げナイフをムスビへ飛ばした。だが…

『ブォォォン』

魔獣の赤い目が輝き、ムスビの前に魔法の見えない壁が出現した。当然投げナイフは弾かれてしまった。

「ば、馬鹿な!何で魔法を!」

魔獣は本来、枷を付けられる事で命令を受けるようになるが、それにより魔法も封じられる。つまり、今のように魔法でナイフを防ぐ芸当は出来ない筈なのである。

しかし、男が魔獣の首の辺りを見てみると…

「なっ!枷がない!?ど、どういうことだ、まさか枷なしで魔獣を…!?」

「…枷は邪魔だったから外した。だから元飼い主のアボーの命令も意味はない」

「なっ!?そ、そんなことが…」

枷なしで魔獣を従える何てあり得ないのである。魔法を使い、強大な力を秘めている魔獣を手懐けるのは、狂暴な肉食動物を手懐けることよりも更に難しい…。出来たとしてもそれは入念に準備し、時間をかけたからこそ出来る芸当なのである。それをその場でやってのけることは不可能である。そんな事を出来る人間は規格外と言って良い…

だが、目の前の光景はその規格外があるからこその現実。そしてその現実は少年たちではなくこの男達に絶望を与えたのだった。

(とんでもない奴を敵に回しちまったようだな俺達は…)

男は逆らう気が失せ、大人しく投降した。


ジョウハ通り…

ムスビに捕まえられた盗賊達はまだここで縛られたままだった。

「くそっ、縄全然ほどけねえな」「も、もう腹減ってきた」「だ、誰か水をぉぉぉ」

「ん?何だこの音?」

『ドドドドドドドドドッッ!!!』

『ビュオォォォォン!!!』

「い、今何か通り過ぎなかったか…」「ま、まさかいくらなんでも早すぎだろ…」「はははっ、腹が減りすぎて幻覚でも見ちまったかな…」


 ヒネズミ町

「うーん、今日もいい朝だな~。」

『ドドドドドドドドドッッ!!!』

「ん?」

「おはようございます門番さん、この檻の中の人達逮捕して…ってあれ?」

猛スピードで目の前まで迫り来る魔獣を見て、門番は気絶していた…

魔獣で警備隊もてんやわんやだったが何とか事情を説明し、連れてきた少女と母親、奴隷として売られそうになっていた人達の証言、見つかった不正の書類から無事逮捕された。

また捕まった例の男は元王国騎士団に務めており、そこで十四人の仲間の騎士を殺した事で一級お尋ね者だったとの事。それを匿っていたアボーの罪は更に重くなったそうだ。

後日アボーの屋敷やスイギュー町の警備隊にも調査員を派遣するそうだ。


 そしてその日の夜頃一行は戻ってきた。

「あのいいんですか?俺達ここに居て?」

「いいのよ、どうせ行く宛てもないんでしょ?」

「…ここの牧場は今人不足、お前達の力が必要だ」

「こっちも人手は助かるわ、さあ皆食事にしましょ」

出された料理をムスビ、ミサキ、ミレアは勿論、少女や他の者達、外の魔獣やアズキも美味しくいただき、皆満足した。

捕まってた十人はこの牧場でお世話になることになった。遠く離れた地で捕まえられ、身寄りの無いものばかりだったので、人手不足だった牧場の手伝いをして貰うこととなったのだ。

そして魔獣を牧場でお世話して貰う事をムスビは自分達へのお礼と言うことで二人に頼むのだった。

 これで牧場の復活とムスビ達が離れた後に牧場を守る問題が一応は解決したのだった。


翌日

「じゃあ皆さんさようなら!」

「お料理美味しかったです!」

「…魔獣のお世話よろしく」

ワンッ

「待って!」

離れていくムスビに少女は駆け寄った。

「本当にありがとう、あなた達のおかげでここを守れて私何てお礼を言えば…」

「…礼なんてもうして貰ったから大丈夫だ」

「そう言えばそうだったね…、ねえまたここに来てくれる…?」

「…ああ、きっとまたここへ食べに来る」

「じゃ、じゃあその時お母さんの料理だけじゃなくて私のも食べてくれる?」

「…楽しみにしてる」

「本当!?約束だからね!私待ってるからね!」

ムスビ達に会ってから一番の笑顔を見せる少女であった。

 ギリギリではあるがアボー達を倒し、牧場の危機を救った三人はスイギュー町を後にした。そして次の町、モクドラ町を目指しそこへ続くコウゴー通りを進んだ…


 コウゴー通り

「…」

黙って馬車を運転しているムスビ…

「大丈夫ムスビちゃん?何だか元気ないけど」

ミサキが心配して声をかけたが指でGOODサインをして大丈夫と伝えるムスビだった。だが…

(やっぱりおかしいわ…)

ムスビの様子を見てミレアはある疑念を持っていた…

アボーの件でその疑念はより深くなった…

(ムスビ…もう傷が治ってる…)

ムスビは数日前にアボーの護衛やお抱えの犯罪者達と戦ったばかり…

その戦いの中で彼は間違いなく背中と太ももに大きな傷を負い、また何度か殴る蹴る等も受け骨だって幾つか折れていても不思議じゃないはずなのだ…

なのに今のムスビは包帯を巻いては居るが動きもほとんど元通り…痛みを訴える事もなかった…

通常の人間は吸血鬼である自分より怪我の治りが遅いのが普通でありムスビもミレアを基準にしたら遅い方ではあった…

だがムスビの治りの速さは自分より遅くはあるが確かに他の人間よりも速いものだった…

(ムスビ…あなた何者なの…?)

ミレアは今回のムスビで疑念を持ったが思い出してみるとそういったことは初めてじゃなかった。

ムスビはミレアに初めて会った後、盗賊を撃退していたがその時確かにムスビは左足に矢を受けていた…だが、その日の夜出発する時にはムスビは普通に歩けていた。

そして、ミサキ達を襲った盗賊との戦いでムスビはミサキをかばって金棒で大きな傷を負った…

だがその時もしばらくしたら、自分一人で動けるぐらいにはなっており、一日経ったら既に元気だった…

馬車の前の方にいるムスビをミレアは少しの間見ていたのだった…


パカラッ…パカラッ…

馬車は段々と道なりに進んでいく…

(…思ったよりもアボー達との戦い苦戦したな)

ムスビはアボー達との戦いを振り返った…

ムスビにとって苦戦したのは鎧を着た護衛、そして護衛達を倒した後のあの男との戦い…

(…今のままでは厳しいな)

ムスビ達にとって本来、セブンス家が狙うべき敵である。そしてムスビは今回確かめたい目的がいくつかあった。

一つ目はセブンス家と相手取る際に絶対に居るであろう騎士達…それも盗賊達とは違った鎧や盾を使った相手との戦いに慣れておきたかった事…

結果分かったことはミレアの魔法攻撃が一番騎士達にとって有効であり、ムスビの物理攻撃は一対一ならともかく複数人居るとムスビが一人ずつ潰していくだけの隙が中々出来ない事だった。

(…何か魔法以外にも騎士達への対策を考えないと………ミレアの魔法もそう何度も使えるものじゃない)

二つ目はセブンス家の規模を今回ので何となくでも良いからより具体的に知りたかったと言う事…

アボーの戦力は傭兵や護衛騎士達合わせて五十人程はいった。そしてそれ以外にも戦いに関わりはしなかったがアボーの味方である人間は間違いなく居た。そいつらも合わせると町一つを実質支配するような奴で百人以上の味方が居ると今回でムスビは知れた。

問題はセブンス家の方は町どころか国一つの中枢に関わる超名門の家…

そしてその国に君臨する大商人の戦力は今回の比ではないことは言うまでもない…

三つ目は魔法と魔獣についてだ…

まず、魔法はどれぐらい使われていて、魔法についてはどれぐらい対策されるものなのか、相手はどのぐらい魔法を使ってくるのかを知りたかった。

だが実際にはミレア以外は魔法を一切使うような奴がいなかった上に、ミレアの魔法も防がれることもなかった。故に魔法を使う人間はアボー程度じゃ一人も味方につけれず、魔法がどれだけ対策されているのかと言う点に関しても今回は対策がなかったと言うことしか分からず一旦保留となるが…

魔獣については今まで皆恐れるばかりで、その強さを見る事はなかったが今回その片鱗を確認できた。

ムスビにとってセブンス家との戦いの上で知りたい要素だったので魔獣の強さを今回の騒動で少しだが確認出来た事は充分な収穫だった。

そして四つ目はムスビ自身の力についてだ…

ムスビはこれまでピンチには陥りながらもミサキやミレアの協力もあって何とか盗賊達を倒してきた。

ムスビ自身、今まで一対一ならまず勝てる相手ばかりであり複数人同時に相手をしても大してキツくはなかった。

だがセブンス家に立ち向かうなら、相手側に強い戦士が居てもおかしくない…

だからこそアボーの最高戦力と戦い今の自分でどこまで通用するか知りたかった。

そして館で相手した手練れは総合的に見たらムスビより少し弱い位の相手だった。アボーのところの手練れでこのレベルならセブンス家の戦力はその手練れより強い、あるいは今のムスビ以上の者が何人も居る可能性すら考えなければならない。

またムスビは自分の弱点を今回の戦いで知れた。

 ムスビの最大の強みはスピード…

それを活かした回避、素早い急所への攻撃、相手を翻弄して隙を作る事が今のムスビの戦い方…

他の身体能力も通常の子供より並外れているがハッキリ言ってしまえば攻撃力や防御力は大人と比べたらそこまで並外れてもいないのである。

だがそれでもスピードを維持したまま戦える体力やムスビの鋭い相手から攻撃に対する読みが最低限の動きで躱すことにつながり、ムスビの厄介な戦法を無理なく成り立たせている。そしてこれが成立する相手にはまるで苦にせず勝ってきていた。

逆にそのスピードを活かせないとムスビの強さは半減する。つまりはダメージを負うこと、一度でもまともな攻撃をくらうと負けが濃くなる。

盗賊の矢や護衛からの不意打ちがまさにそれだった…

そしてムスビの戦い方は一対一に向いているが複数を相手取ることになる対セブンス家においては間違いなく相性が悪かった。

相手に囲まれるのも…

相手に遠距離から矢を打たれまくるのも…

鎧で有効打が限られてる騎士達を相手にするのも…

挙げ句一対一でもムスビより強い奴が居るかもしれない事も…

 全てにおいて向かい風である…

(…参ったな………こりゃ勝てんぞ。思ったよりもきつい)


「ねえ、やっぱり雰囲気暗いよ…?ムスビちゃん何か悩み事?」

ミサキは考え込んでるムスビに再度声をかけるが…

「…なに心配するな、ちょっと昼ご飯に悩んでいただけだ」

そう言うムスビの声は少し明るい声を出した。

(…まあ悩んでも仕方ない、やるだけやってみるしか無いか)


 ムスビ達はコウゴー通りを進んでいたが、ムスビが途中地図とは違う道を進んでいった。どうやら動物達が沢山出て危険な森や山の中を進んだようだ。それにより本来十二日はかかる道中を四日で通り抜けたのだった。

道中盗賊が六十人程出たが今のムスビ達にとってはもはや敵ではなかった。

むしろミレアの魔法を実践で使う良い練習相手にされ、襲ってきた盗賊達の方が憐れであった…

コウゴー通りは勿論、その周辺は自然豊かな森や山の為、本来危険な動物も出てきておかしくないのだが、魔獣すら手懐けるムスビを襲う動物は一切出てこなかった。

(ムスビ色々と反則ね…)

おかげで助かってはいるが色々と規格外な目の前の少年にミレアはあきれて少し笑ってしまった。

 そして…次の町モクドラが見えてきた

次のモクドラ町に着けばカナウサギ村、ドリュー王国、そして港のあるヘビヅチ町へ続く道がある。(ちなみにカナウサギ村はショートカットしたので通り過ぎてしまっている。道なりに進んだ途中に村があったのである)

モクドラはドリュー王国の周りに点在する大きな町の一つであり、モクドラ、ヘビヅチ、マキンの三つがこの島で栄える二つの国の内一つ、ドリュー王国の発展に大いに貢献しているのである。

 モクドラは農産物に古くからの歴史の町

 ヘビヅチは海産物に交易の町

 マキンは鉱産物に職人、戦士の町

その一つ一つがヒネズミ町の倍の大きさを誇るスイギュー町の三倍以上の規模である。

その町の一つモクドラ町に一行はやっと辿りつくのであった。

「楽しみだな~久しぶりの町だよ」

「私もよ、贅沢だけど宿のベッドが恋しかったもの」

町を目の前にミサキとミレアはテンションが上がっていた。

ワンっ!

アズキもテンションが上がっているようだ。

「…」


 スイギュー町を出て、次の町モクドラへ着いた一行…、目指していた港町ヘビヅチまでもうすぐそこになるがこのまま順調に進んでしまって良いのだろうか…?

次回へ続く…


第七話 敗北アボー 目指すはモクドラ 終


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