第22話⁂恋敵⁈⁂


 実は…このエリ-ト軍人村上洋介は上司から厳しく言われて、致し方なく初枝と結婚したのだが、それではもう結婚適齢期もとっくに過ぎた31歳のエリ-ト軍人が、何故結婚を躊躇するのか?

 

 実は…秘密にしている離れる事の出来ない相手が居るのだ。

 上司に勧められて致し方なく形式上の夫婦となっただけの事。


 結婚したは良いが、夫婦生活を送った第二次世界大戦勃発までの3年間、何を文句を言うでもない優しい夫なのだが、夫婦になったと言うのに半年たっても1年経っても全く初枝に、指1本触れようともしない。


 

 そこで初枝の方から、夜そ~っと村上の布団の中に入ってみた。


すると………


「……疲れているから今日は眠らせてくれ」

 

 そんな寂しい、わびしい、言葉が返って来た。


「あなた……誰か良い人でもいらっしゃるの?」


「そんなものは、いる訳無い。疲れているだけだよ」


「こんな夫婦生活なんて有り得ない………私は……あなたとの………子供が欲しいの!お願い!良いでしょう」


 着物をはだけて豊かな肉体を洋介にすり寄せ抱き付いてみた初枝。

 するとその時洋介が、初枝の身体を跳ね除けて………。


「俺疲れているんだ」


 全く今までと同じ言葉の繰り返し。

 これでは夫婦の意味が無い。只の偽りの体裁だけの夫婦。

 初枝は悲しくてやりきれない思いで延々泣き続けた。


「何故?何故?ウウウウッ(´;ω;`)ウゥゥワァ~~ン😭ワァ~~ン😭」


 こんな美しい妻に何故、指一本触れようとしないのか?


 ◆▽◆

 25歳の洋介は、「三宅坂」にある陸軍省軍事課に陸軍砲兵大尉として勤務している。


 ある日の事である。

 2歳年上の同じ軍事課の大尉三ツ矢と昼食を取っていた。


 帝国陸軍については陸軍大臣(大臣)・参謀総長(総長)・教育総監(総監)が、天皇を除く最高位にあり、陸軍三長官と呼ばれた。


 その三長官補佐として、序列第2位の次席相当職として、陸軍次官(次官、陸軍省)参謀次長(次長、参謀本部)教育総監部本部長(本部長、教育総監部)が、それぞれ教育を担っていた。

 


 するとその時、何とも驚いた事に、寄りによって事務屋トップの陸軍次官(次官、陸軍省)が、洋介達の向かいで昼食を取り出した。


更には………キョロキョロ感じる視線に何か……?失敗でもしたのか不安でハラハラしていると、三ツ矢が不審に思い話しかけてきた。


「どうしたんだい?ソワソワして」


「何か……次官が見ている気がして?」


「俺の先輩が次官の遠縁らしい?一緒に先輩と仕事をしていたから次官が、俺の事も知っていると思うから、もし何かあったら言ってくると思うよ?」


 不安を抱えながら日にちは過ぎ去った。


 すると1週間ぐらいすると、三ツ矢の先輩が何か言って来た。

 どうも目立つイケメンが居たので認識票を見たら、村上洋介と書いてあり、軍人父建造に何処となく似ていた事から、調べて息子である事が分かり、現役時代散々お世話になったのでお礼がしたい。


「建造にお世話になったから1度食事でも」

 そういう話だった。


 もう現役を退いている父では有ったが、どこで繋がりが有るか分からないものだと、感心しきりの洋介。


(父の力は、借りたくないと言えども、なんといっても事務屋のトップと食事ができるなんて夢のまた夢、顔を覚えて貰い、これからも付き合いが続けば出世街道を突っ走れるかもしれない。何と言う好機!)


 野心家の洋介は、その日を今か今かと指折り数えて待っている。


 そしてその日はやって来た。

 早速、遠縁に当たる三ツ矢の友達が、陸軍省軍事課の洋介の職場にわざわざ足を運んで日にちを知らせに来てくれた。


 いくら何でも位が違い過ぎる2人だけの食事は反感を買うだろうと、わざわざこっそりと知らせに来てくれたのだった。


 ◆▽◆

 そしてその日はやって来た。

 立派な料亭〈泉水〉に招待された洋介は緊張してコチコチになって居る。


 まさか、仮にも事務屋のトップ次官が1人でやって来るとは思わなかったので、びっくり仰天。

 洋介は緊張で震えが止まらない。

(こんな夢のような事が現実に起きるなんて何かの間違い?………でもここで気に入って貰えたら同期に大きく差を付けられる)


 こうして豪華な料理に舌鼓を打ち、酒を酌み交わし、この日は終わった。

 だが、やがてこっそりとではあるが、何とも恐ろしい事に、次官の実務室に休日などに呼び出されて性愛(男色)の関係になる。


 最初はこんな軍人達の神様みたいな人が、自分だけを見つめてくれ唇を重ねて交わることが出来た喜びで一杯だったが、その反面凄い勢いで嫌悪感が襲って来た。


(陸軍大学まで卒業した俺が、例え神様と慕われる人であろうと、そんな卑劣な男の玩具になってまでして出世出来たとしても最低の話だ!)


 人一倍出世欲の強い洋介ではあるが、どんな事をしても出世して見せると思いながらも、何か釈然としない虚しさが押し寄せて来るのだった。


 だが、そう思ったのも束の間、また別の感情が襲って来て、やがて支配された。


(仮にも事務屋のトップ次官を、こんな身分の低い自分が独り占めできている喜びで胸が一杯になった。次官をどんな事をしても離さない為に性愛の奥義を必死になって勉強して、喜ばせていいこう)そう思うのだった。




 だが、いつものように次官に呼ばれて、休日のある日実務室に向かったのだが、入れ違いに同じ陸軍省で働く40歳の木村大佐とすれ違った。


(一体こんな場所に休日に何しに来たのだろう?)


 こうしていつもの様に次官に促されるままに男色を楽しんでいると、”ガタン”と音がした。

 こんな休日誰も居る筈が無いのに変だとは思ったが、丁度欲望が最頂点に差し掛かった一番いい時期に止めることが出来ずに、興奮した洋介は、尚も興奮状態で行為を続行しようとしている。


 すると次官が指を丸めて人差し指だけを立てて「シ——」とポ-ズを取った。

 何か……知られたくない様子で静かにドアを開けた。

 すると先程すれ違った木村大佐が”パタパタ”と駆け足で、走り去っていく後ろ姿が見えた。


 洋介は、次官は俺だけを性愛の対象としてくれている、こんな立派な人を自分だけが支配している自負と喜びがあっただけに{今の盗み見、盗み聞きは何……?}


 今まで自分だけに目が向けられている自負があっただけに、どんなえげつない交わりも耐えて来れたのに、それなのに別の相手がいたかもしれない? 体から力が抜けて、今まで抱いていた2人だけの秘密を共有できる喜び、そんな自信が粉々に打ち砕かれる感覚に囚われていた。


 そして…次官に問い質して何もかもハッキリと知りたくなった。


「次官どういう事ですか?僕だけじゃ無かったんですか?ウウウウッ(´;ω;`)ウゥゥ僕はこんなの嫌です………ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「………」


 次官は結局木村の事は一言も話さなかった。


 不審に思った洋介は、休日の何気ない1日に、木村先輩の後を付けて実態を探っていた。

 するとある日の休日、やはり次官の実務室に、消えていった。


 今度は洋介がこっそり聞き耳を立てていると、2人のやり取りが聞こえて来た。


「嗚呼~!僕だけの………僕だけの………ものでいて下さい。お願いです」


「………もう君とは終わりだ!」


「まさか………あの村上と言う若造に………心変わりですかワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「違うよ………そんなんじゃ無い………俺の先輩の息子さんだから親しくしているだけだ。もうこれ以上付きまとうと出世に響くよ。良いのかい?」


「僕は次官さえいれば何もいらない!」


「こんな事………いつまでも続けられる訳無いじゃないか?もう終わりだ!」


「ウウウウッ(´;ω;`)ウゥゥ」



 ◆▽◆

 洋介は、ある日の帰宅途中に、誰かに付けられている感覚に囚われている


 何か……小さな靴音が微かに聞こえる気がする。

 また後ろを振り返ると………何か感じる………影?


 するとその時何か………一瞬身体に熱い感覚を覚え………次にちくりと脇腹辺りに激しい痛みが………すると見る見る辺りに真っ赤な血が。


意識が薄れ行く感覚に襲われ、洋介はその場に倒れた。













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