第18話⁂雪乃と千代⁂


 月日は流れ————

 大学生になった洋介は、実母雪乃が、東京に〈ごはん処🍢🍛雪乃〉を出店して現在破竹の勢いで伸びているらしいと父建造から聞いて、本店の〈ごはん処🍢🍛雪乃・日本橋店〉に向かった。


 日本橋三越本店の威厳を感じるルネッサン様式の建物や、三井本館、日本銀行、日本橋などの、歴史的建造物が建ち並ぶ重厚感あふれる街並み。


 そんな街並みを通り越した先の繫華街に、夢にまで見た母雪乃の本店〈ごはん処🍢🍛雪乃〉が見えて来た。

 胸の高鳴りを押さえて店の中に入ると、店の中はビジネスマンや百貨店帰りのお客様で溢れ返っていた。


 席に着くなり周りを見渡し母の姿を探したが見当たらない。


 そこで不躾とは思ったが、どうしても会いたくて我慢が出来なかったので、店員さんに聞いてみた。


「あっあの~?社長の雪乃さんは……雪乃さんはお見えですか?」


「あっ?はっはい!少々お待ち下さい」


 暫く待っていると、キリっとした中年女性の姿がフ~ッと現れた。

(ああ!別れた時より幾分年は取っているが、あの優しそうな目元は紛れもなく母だ)嬉しくて自然と涙が溢れ出す洋介。


 キョロキョロ辺りを見渡して洋介の席近くに来た母雪乃は、ビックリしたのと嬉しさで一瞬立ち止まり、いつもの険しい社長の表情とは打って変わって、恥も外聞もかなぐり捨てて、人目もはばからず怒涛のごとく溢れ出す涙を拭いもせず、泣きながら洋介に抱き付いた。


「アッ?ひょっとして?エエ————ッ!………洋介?ウウウウッ(´;ω;`)ウゥゥワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


 それは洋介も同じ事。

 もう大人だと言うのに「お母様会いたかったワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


 人目もはばからず母雪乃に抱き付いて、10数年会えなかった温もりを今この胸に、焼き付けている洋介なのだった。


 こうして母雪乃と度々会う事になった洋介。


 だが残念な事にこんな劇的な再会を果たした2人だったが、この再会から僅か4ヶ月後に未曾有の大災害、1923年9月1日関東大震災が起こって、辺り一帯焼け野原と化した。


 日本橋本店〈ごはん処🍢🍛雪乃〉は全焼。

 大正12(1923)年9月1日午前11時58分、相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9の巨大地震が関東一円を襲った。

 お昼時と重なった事から多くの火災が起きて被害が拡大した。


 あいにく母と従業員達は逃げ切ることが出来て無事だった。


 ◆▽◆

 村上邸に引き取られた洋介はどの様な生活を送って来たのか?


 父親の愛情は異常な程の物だった。

 それはそうだろう、貧精子症の自分が子供を持てる事など夢のまた夢。そんな夢が叶ったのだから。

 父建造はどこに行くにも連れていってくれ、母雪乃との悲しい別れも乗り越えられそうだった。

 また一方の本妻の千代も最初のうちは、それはそれは慈しみ深い愛情で洋介を包んでくれた。


 だが、父建造は雪乃からあのような形で、無理矢理洋介を奪い去ってしまった事に、申し訳なさと理不尽さを感じ、自分の蒔いた種と分かっていながら、釈然としないわだかまりがある。


 子供を産んでくれたのは誰有ろう雪乃なのに、慰謝料をよこせだ何だとイチャモンを付けて、貧乏人の雪乃が、ぐうの音も出せない卑劣なやり口で、洋介を奪い取った千代のやり方に、いくら洋介を跡取り息子として迎え入れることが出来たとしても、あの悲しみで胸が張り裂けそうな辛い表情の雪乃を目の前に、何も出来なかった自分の不甲斐なさと、千代に対する行き場のない怒りで、千代に触れる事をためらう建造なのだ。


 そして…その気持ちは、あの可哀想な雪乃に向かうのだった。


「あなた……何故私に指一本触れようとしないのですか?………どうして?ウウウウッ(´;ω;`)ウゥゥワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


 ◆▽◆

 建造は妻千代の目を盗んでは、雪乃の元に足蹴く通って逢瀬を重ねている。


 こんな蜜月の中、やがて〈ごはん処🍢🍛雪乃〉のオ—プンの日がやって来た。


 最初こそお客はまばらだったが、日本橋は江戸時代初期からの歴史と伝統を持つ数少ない地域で、近代以降も重要な地として栄えた。


 日本銀行本店本館や三井本館、日本橋三越本店本館といった重要文化財に指定されている建築物が多く集積している為、富裕層の人達も多く、お金を落としてくれるサラリ―マンやOLさん達の口コミと共に繫盛店に上り詰めていった。


 洋介が旧姓中学に上がる頃には、雪乃は男にも引けを取らない一端の、経営者に急成長していた。

 30過ぎの若きヤリ手独身女経営者の周りには、いろんな男達がハイエナの如く寄って来た。

 一方の建造は確かにエリ-ト軍人では有るが、もう60に手の届きそうな年老いた男。

 30過ぎの若きヤリ手独身女経営者の雪乃は、生え抜きの男達からも引っ張りだこ。

 益々女に磨きのかかった雪乃に言い寄る男達を、尻目に誰かに奪われるのではと不安と嫉妬で最近は殆ど家に帰らず仕舞い。


「お前男でも出来たのか?」

 この様な調子で、誰かに取られるのではと心配で心配で、付きまとう60近い魅力も半減した建造に雪乃は最近うんざりしている。


 ◆▽◆

 村上家では、建造と千代は夫婦生活といっても正月とお盆位に、仕方なく義理でセックスをする関係になっている。


 それも千代が言い寄ってやっとの事成立する夫婦関係。

(あんな素性の悪い女なんか、到底ライバルにならないと蔑んでいたが、とんでもないヤリ手女経営者に急成長したらしい。だが、あんな芋娘なんか相手にならない!)


 そう思っては見たが、最近の夫の御執心ぶりは異常。


 そこで相手にはならないと思いつつも、余りにもセックスを拒む夫に、自分の方が家柄、美貌、魅力で絶対に勝っていると思いながらも、用心には用心に越した事はないと思い、早速雪乃が働いている本店に食事がてら顔を出してみた。


 お店に入っては見たが、雪乃はどこにもいない。

 そこで店員さんに雪乃を呼んでもらった。


 暫く待っていると、昔とは大違いの薄っすらと化粧を施した垢抜けた、何とも知的でシャキッとした、千代よりも20歳も年下の一番女として輝いている30代前半の、美しい女性が目の前に現れた。


(もう50代中盤の魅力も半減してしまった……私とは……もう勝ち目が無い……ああああ!………私は………私は……この女に手も足も出ない………もう完全に私の負け!あぁ~)

 挨拶もそこそこに逃げるように帰った千代だった。


 あの美しく、ヤリ手の雪乃を見てからと言うもの、危機感で一杯の千代は、夫の一挙手一投足に過敏に反応して、出歩く事に異様に拒否反応を起こすようになって来ている。


 夫にしてみれば(雪乃に男が出来るのでは?)と心配で心配で仕方がない。

 それなのに出歩く事を阻止する雪乃に、イライラを通り越して憎しみまで湧く有様。


 そして、とうとう言ってはならない言葉を吐いてしまった。


「あなた……そんなに雪乃に会いたかったら、今すぐ私を殺してから、会いに行って!」


「何をバカな事を言っているんだい?雪乃とは会っていないよ」


「噓だ!噓!噓!私は……雪乃があんまり綺麗になったので、嫉妬で気が狂いそうになって………よく出歩くあなたの跡を付けたの。するとあなたは雪乃の店に消えていった。ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「もういい加減にしてくれ!俺は雪乃を愛している!」


「あなたなんて事を………あなた……酷いワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


(こっちには洋介もいると言うのに………それなのに………もう気持ちは完全に雪乃のもの!)


 こうしてある日、千代はとんでもない行動に出る。


 帰って来る当てのない夫に、ある夜とうとうとんでもない事件が………?

 もう15歳になった危険な年頃に差し掛かった洋介が、お風呂に入っている所に、なんと千代が裸でお風呂の中に・・・


 これはとんでもない事に⁈










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