第2話


「…………」


 あれから一時間ほど経過したものの、俺のいる3-Aの教室に担任の教師がやって来ることはなかった。


 そりゃそうか。学校が狭間に閉じ込められてしまった状況では先生も授業どころじゃないだろうし、生徒のことを思いやる余裕もないよな。


 外部との連絡も一切できなくなってるわけで、今のところ時空の番人だと名乗る人物の言う通りに事が運んでいた。


 一方で、生徒たちに関してはまさに悲喜こもごもといった様相だったが、悲観的なやつはそこまで目立ってなくて、不安よりも異世界の素材を貰えることの希望が上回ってる感じだった。


『――お前たちに知らせることがある』


 まもなく、時空の番人の声がしたことで、ざわめきがピタッと止まった。固唾を呑んで次の言葉を今か今かと待っている、そんな空気だ。


『あと5分ほど経てば、一日の中で次元の歪みが最大値に達して穴が開き、そこからモンスターが発生するはずだ。だが、それは異世界の素材を獲得できる機会でもあるゆえ、今すぐ端末の準備をしてもらいたい』


 こういうとき、端末をすんなり出せるやつは意外と少ないらしく、みんなお互いの顔を窺いながら恐る恐るスマホやタブレットを取り出している様子だった。


 ちなみに俺に関しては、高校生の皮を被ったおっさんだからか、他人になんと思われようがどうでもいいしすぐに用意できたが。


『今回選べるのはスキルだ。それについて軽く説明させてもらうと、仮に【魔術師】というスキルを得た場合、その人物に合ったなんらかの魔法が使えるようになる。【俊敏】であれば、常にスピードが速くなる』


 なるほどなあ……ん、5分経ったら番人の言うとおり、スマホに様々なスキル名が書かれたアイコンが表示された。この中から選ぶだけでいいんだな。


 うーん、なんにしよう。これなんかがいいんじゃないかってことで、俺が選んだのは【飛躍】とかいうスキルだった。実際の効果はわからないが、なんか空も飛べそうな感じに見えるからな。こんな圧迫感のある状況では一層魅力的に映った。


 選択するとほぼ間を置かず、『【飛躍】スキルを獲得しました』とメッセージが表示される。空を飛べるならいいが、跳躍力が上がるだけだとしたら微妙だな……。


 ほかにいいのがあったら変更しようかと思ったものの、既に選べる画面はなくなってしまっていた。まあいいや。スキルを手に入れるチャンスは今回だけとは限らないし。


 アイコンをタッチしてみるも、何も起きなくてどんな効果なのかはわからなかった。はてさて、当たりなのか外れなのか、現時点では不明だ。


『お前たちが望むスキルは獲得できただろうか。どんな効果かという説明までは用意できなかったゆえ、スキル名で察してもらいたい。それと各自、端末で自身の情報を見られるようにしたので確認してほしい。ステータスの頭文字を取ったアイコンだ』


 お、ステータスも見られるのかと思ったら、番人が言う通りちゃんとSの記号がついたアイコンがあった。早速タッチして覗いてみよう。


___________________________


 名前 浦間 透

 性別 男

 年齢 17

 レベル 1


 生命 1

 身体 1

 精神 1

 技能 1


 所持スキル

【飛躍】


___________________________


 俺が想像していたステータスとは、ちょっと違う感じだった。これから説明があるんだるろうか。


『生命とは命の数であり、1なら今まで通りだが、2なら一日のうち一度命を落としても即座に復活できる。身体はそのまま身体能力で、スピードやスタミナ、攻撃力や防御力が関係する。精神は魔法の威力、魔法耐性、状態異常耐性に影響する。最後の技能は、物理や魔法における命中力や詠唱速度、スキルの維持力だ。レベル10ごとにステータスポイントを1だけいずれかに振ることが可能になっている。私からの説明は以上だ。また何かあれば連絡する』


「…………」


 レベルを10も上げてようやく1ポイントのみ獲得できるのか。俺なら一回は死ねるからって理由ですぐに生命を上げてしまいそうだが、強力なモンスターと戦えば命なんて幾つあっても足りなさそうだし難しいところだな……。

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