3-5

 夏休みになって、私達のグループの何人かがいつも駅の近くの公園でたむろしていた。そして、久美を頼って1年生の子も時々顔を見せていた。私に、紹介していたけが、申し訳ないけど、私はあんまり興味がなかったのだ。それよりも、このグループのこと いつまでもこのままじゃぁいけないと感じ始めていたから・・。


 8月になって、お母さんが


「紗奈 お盆休み取ったから 宮津に行こうね」


「えー あんまり行きたくないなー だって 今年も、花火も中止なんでしょ つまんない」


「そんなこと言わないでよー もう ずーと行ってないし おばあちゃんも紗奈に会いたいって・・だから、今年は行こうよ」


「うーん おばぁちゃんかー・・ 元気かなー」


 宮津はお母さんの実家なんだ。もう、最後に行ったのは、私が小学校の6年の時だから、5年も経つ。おじいちゃんの初盆の時だ。用水路で朝になって発見されて、多分、酔っぱらって落こっちゃって、そのままだったんじゃぁないかと・・突然だった。


「そうよ あの人も いつまでも元気かどうかわからないわよ」


 前の日の夜、小さめのトランク型バスケットに、用意をしていると


「紗奈 その短いショートパンツで行くの? 久しぶりなのに、もっと、女の子らしい恰好にすればー」と、お風呂あがりのお母さんが言ってきた。


「うーん 旅行中はこのほうが楽やん 脚も広げられるしね でも、ワンピースは入れたよ 向こうで着る」


「じゃぁ せめて帽子はストローハットのものにね 野球帽は嫌よ」


「そうかなー この方が恰好良いと思うけどなー」


「恰好良いと思ってるのは本人だけよ ストローハットの方がリボンも付いているし可愛らしいわよ 一応 それでも女の子なんだからー」 お母さん! 娘に対して一言多いんだよー


 私達は京都から特急に乗って、宮津に着いた。お父さんは何だかんだと理由をつけて、来なかった。おそらく、何日かはゴルフなんだろう。私は、着いたらタンシチューを食べさせてねという条件で了承したのだ。市内の洋食屋さんで、昔、お父さんに食べさせてもらって、とってもおいしかったのを、思い出していたのだ。


 少し、歩いてお店の前まで行くと・・あぁ そうだ こんな、いかにもって感じの洋食のお店。幸い、2階の道路側の席に案内してくれた。おいしい・・思い出した・・この味。あの時、あんまりおいしいと言う私をみて、お父さんも満足そうな顔をしていた。今は、お母さんが、珍しく、柔らかな微笑みを私に向けていた。その時、私もおいしそうに喜んでいたのだろう。こんな素直な私をお母さんに見せるのはひさしぶりなんだ。


「サダちゃん まぁ 大きくなって・・」と、私を見るなりおばぁちゃんに抱き寄せられてしまった。


「おばぁちゃん 元気そうで良かった・・ ねぇ ウチ 汗くさいから・・もう・・ 離して」


「そうかい そうかい 外は 暑いからね こっち来な 裏の縁側なら、涼しい風が通るよ 冷えたスイカもあるだで」


 お母さんの実家は、市街地から少し、離れていて、歩くと30分くらいかかる。タクシーには中途半端に近い。お母さんは2人姉弟で、3つ下の弟さんが実家の農業を継いで、結婚していて、確か私より4つ下の女の子と、また、2つ離れて男の子が居る。


「やぁ サダちゃん ようきんしゃった 姉貴も・・」と、日焼したお母さんの弟さんが声を掛けてきた。「田んぼの空いたところでモロコの養殖をやっとるでな、ちょっと行っとった」


「あっ おじさん お久しぶりです」


「おぉー 大きいなったな ワー 脚長いのー スラーとしとる ウチの子等と やっぱー 都会の子は、違うのー」


 確かに、おじさんのところの子供たちは、日焼けしてるんだけど、ぽっちゃり気味で、栄養満点なんだろうか、運動不足なんだろうか。


 一息ついたところで、おばあちゃんが


「サダちゃん お風呂で汗流しといで 浴衣を用意したんじゃ サダのを 着替えなさい」

 

 出てくると、おばぁちゃんが待ってくれていて、扇風機のある座敷に連れて行ってくれて、髪の毛を拭いてくれていた。


「サダちゃん すまんのー ワシがこんなじゃから・・あんたに、継がれてしもたんじゃな」


 おばぁちゃんも髪の毛がチリチリで今は、短くして坊主頭みたいにしている。やっぱり、小さい頃はみんなからからかわれたみたいだった。私が生まれて、まもなくして髪の毛がチリチリになりだして、おばぁちゃんは、そのことを気にしていたと、お母さんから聞いたことがあった。そして、詳しいことはわからないが、おばぁちゃんのおばぁちゃんは外国の人だったらしいのだ。私も、何分の一かは外国人なんだろうか。お庭からは、扇風機の風とは違う樹の香りと共にそよ風が入ってきていた。お母さんが生まれ育った家の風なんだ。


「おばぁちゃん ウチ そんなん気にしてへんでー お父さんも、フランス人形みたいで可愛いって言ってくれてるし・・」


「そう フランス人形ね 確かに 眼も大きくて お人形さんみたいね」


「ウチ おばぁちゃんの団子汁 食べたい」


「そうかぇ 覚えていてくれたんか じゃぁ 明日 アゴ 買ってきて、作るね」


 汗もおさまったところで、紺地に菖蒲の絵柄の浴衣を着せてくれた。私、初めてだった。浴衣着たの! 髪の毛も普段は纏めているんだけど、久々に、横を少しだけリボンで結んだままだった。乾いてくると髪の毛がチリチリになってくるんだけど、誰にも、遠慮は要らなかったのだ。


 その夜は海のものが並んでいて、私の好きな白イカとかトリ貝なんかもいっぱいあった。そして、街の花火が中止になったからと、庭で色んな花火を・・もっとも、おじさんの子供たちを喜ばせるためだったんだろうけど・・。


 上の子の百合子ちゃんが、私に懐いてくれて、ずーと傍から離れなかった。やっぱり、白地に朝顔の絵柄の浴衣を着せてもらっていた。下の勇作君は、まだ、恥ずかしいのか、あんまり、寄ってこない。この前、会ったときは、まだ、小さかったから、一緒に遊んだ記憶が曖昧なのだろう。


 次の日、橋立の海水浴場に皆で出掛けた。海に入っても、百合子ちゃんと一緒に浮き輪で泳いでいたけど、だんだんと慣れてきたのか、勇作君とも泳ぐようになってきて・・そのうち、平気で触れ合うようになっていた。私も、年下の子達だから、普段の男とか女のことも忘れて、気負いもなく、子供の気持ちに返っていた。


 その夜は、おばぁちゃんが港の広場に私達子供を連れて行ってくれて、少しばかりの夜店が出ていたのだ。ヨーヨー釣りとかたこ焼きで楽しませてくれて


「サダちゃん あんたが素直な優しい子に育ってくれていて、安心したよ 毎年、ワシに絵を描いて年賀状も送ってくれてな ありがとうな」


「おばぁちゃん そんなー ウチも おばぁちゃんのこと 大好きやでー いつまでも元気でな」


 私、少し、ゆがみ始めているような、今の生活。友達も少ないねんとは・・言えなかった。私、何を目標に生きているんやろー。だけど、おばあちゃんと接していると、こころが洗われたような気になって来る。



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