第32話 時空間歪曲領域発生型超光速推進航法

 俺が反応する間もなく、全員が光の柱に呑み込まれてしまった。


 惚けている場合じゃない!



(みんな無事か!?)


(大丈夫ですよ。広域殲滅魔法を撃つ際は影響を抑える為に必ずアンチマテリアルフィールドを張っていますので、それで防げています。)



 光に呑み込まれてしまった全員が無傷でディスプレイに映り込む。



(良く考えてみれば全員強いんだから、食らっても案外大した事なかったかもな。)


(いえ……先程のエネルギー照射をまともに浴びれば死ぬことはありませんが、全員無傷では済みません。)


(マジか……。)


(マジです。ダイくんはちょっぴり痛いで済みますが、その他は日焼け後にお風呂入ってしみちゃった……くらいには痛いと思います。)



 思った程大した事ないじゃん。


 いや、日焼け後のお風呂は結構痛いな。大した事だった。



(神様! 1時の方向より空飛ぶ戦艦と思わしき物体が多数出現! これは……300隻以上の大艦隊です!!)



 出現した艦隊は綺麗に陣形を組み、こちらへ船首を向けている。



 サリリってSFのノリも分かってるよな……。まるでオペレーターみたいだ。驚き方とかサマになってんじゃん。


 なんかスゲー楽しくなってきたんですけど。



(続々とワープアウトしてきます! 更に10時の方向より100隻の艦隊の出現を確認!)



 え?



(更に5時、8時の方向よりそれぞれ100隻の艦隊出現!!)



 ちょっ!!



(更に上空より200隻の艦隊出現! ダメです!! 完全に囲まれています!)



 ちょ待てよ!


 サリリの示した方向には多数の艦隊が出現していた。


 もの凄い数に囲まれている。これ、本当に大丈夫なのか!?



(転移魔法起動……)



 そうそれだよ。囲まれてんだから転移しちゃば良いじゃん。


 それ程焦る必要なかったな。



(……次元の異常を感知。空間に干渉する魔法が何らかの手段で封じられています!)



 サリリの表情には明らかな焦りが見える。


 彼女が戦闘中に焦る顔など見た事が無い。相当ヤバイ事態に直面しているのだとハッキリと自覚した。


 最悪、降参も視野に入れるか?



「これって本当にピンチなんじゃない?!」


「マズいかも……」



(全敵艦より高エネルギー反応! エネルギー波来ます!)



 先程の比ではない程の光に全員が一瞬にして呑み込まれる。



(アンチマテリアルフィールド10%の減衰を確認。)



 どうやら無事だったようだ。



(元素固定魔法起動。周囲の炭素原子から直径10㎝のダイヤを500個生成。)



「ダイヤモンド生成!」



 大量のダイヤが空中に浮かんでいる。



「ダイ君! さっきみたいにこれを敵に投げて!」


「任せてくれっ!」



 ダイは先程同様、連続でダイヤを敵艦にぶつけていく。


 都市を丸ごと瓦礫に変えてしまう程の威力だ。敵艦は次々と装甲を貫通され、大きな爆発とともに沈んでいる。


 何とか巻き返せそうで良かった。


 そうして俺は一息つく……が安心したのも束の間、全方位より連続で轟音が響き渡り、ダイやサリリ達の居る場所が爆炎に包まれる。



(敵はエネルギー波の効きが悪いと見るや、実体弾に切り替えたようです! このままではアンチマテリアルフィールドが持ちません!! 神様! ご指示を!)



 ちょっ、指示ったって……ヤバイ、どうしよう! ヤバイって。


 そうだ!



(空間魔法で外界と切り離したらどうだ!?)


(空間魔法は転移同様封じられています!)



 考えている間にも次々と爆炎が巻き起こり、みるみるうちにフィールドが削られていく。このペースで攻撃され続けるのがマズい事なのだと、魔法を碌に理解していない俺にも分かる。



(それなら、俺が一旦全員をこちらに召喚する!)


(っ!? お願いします!)



「魔神軍と獣神全員をここに召喚!」



 俺の声に応え指輪が輝きだす。


 早く! まだか?!



(ダメ!! フィールドが……神様………)



 マズい!



「間に合えー!!」



 全員が俺の目の前に召喚される。


 ディスプレイを見れば、サリリの張ったアンチマテリアルフィールドが消失していた。


 ギリギリのところで間に合ったようだ。



「間に合って良かったよ!」



 久満子ちゃんがみんなに声を掛けている。


 今回ばかりは本当に危なかった。



「申し訳ありません。神様。」


 サリリがシュンとしている。珍しいものを見た。


「仕方ないって。敵が思った以上に強かった。」


 みんなウンウンと頷いている。


「そうだよ。サリリちゃんの魔法が無かったら危なかったさ!」


 ダイは落ち込んでいるサリリを慰めた。


「何か作戦を考えないとな。ちなみにさっきの攻撃は何発なら耐えられる?」


 そう聞かれたサリリは不思議そうに首を傾けていた。


 俺、変な事言った? もしかして一発も耐えられない程強い攻撃だったのか?



「? 何発でも耐えられますけど……?」


「え? さっきは大分危なかったじゃないか。」


「はい。危うく全身が痒くなるところでした。」



 何言ってんの?


 みんなぽかーんと口を開いている。



「どういう事?」


「先程の実体弾くらいの威力だと、食らったら痒くなっちゃいますよ。全方位から攻撃されていましたので、全身が痒くなりますね。」


「え? じゃあさっきの攻撃は効かないって事?」


「神様ってば……私言ったじゃないですか。全身が痒くなっちゃうんですよ? 十分効くじゃないですかぁ。」





 ……。


 心配して損した。

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