彼女たちとの夏休み前のある日

第31話 真美ちゃんとの夏休み前のある日

 一学期最後のテストは勉強を教えてもらったという事もあっていつもよりは点数が高かったのだ。クラス平均点はいつもより少し低かったこともあって順位もいつもより高くはなっていたのだが、学年順位はそれほど上がっていなかったのだ。

 先生はクラス平均点が下がっていたことを嘆いていたのだが、僕自身は点数が高くなっていたという事もあってそこまで気にしてはいなかった。もともと、他人の点数に興味を持っていなかったという事もあるのだが、ちゃんと結果を出せたという事に満足はしていた。

 オカ研の会長には色々と勉強も教えてもらえたし、後輩の陽菜ちゃんからも僕の苦手なところを教えてもらう事が出来た。愛ちゃんと真美ちゃんとも一緒に勉強はしたのだけれど、意外なことに一緒に勉強して一番理解出来たのは妹の朱音とした時だった。

 人に教えることで学ぶこともたくさんあるのだと知ったのであった。


 夏休みまであと数日だったと思うのだが、僕はいつものように真美ちゃんに呼ばれて休み時間のオカ研の部室へと足を延ばしていた。

 いつもであれば会長が一人でご飯を食べている時間帯ではあったのだが、夏休み前にやらなくてはいけないことがあるとのことで会長はテストが終わってから忙しそうにしていたのだ。その為か、今日も会長は放課後までここにはやってくることは無いのだ。

「まー君はさ、今回のテストどうだった?」

「みんなのお陰でいつもよりも点数が良かったよ」

「それは良かった。でもさ、私はそこまで良くはならなかったな。愛ちゃんと三人でやったところは出来たんだけどさ、それ以外はいつも通りかちょっと悪くなってたな。そんな結果になるって知ってたんだったらさ、他の教科も三人でやっとけばよかったなって思ったよ」

「真美ちゃんは愛ちゃんと一緒に勉強してたんじゃないの?」

「愛ちゃんと一緒にやったのはまー君と三人でやった時だけだよ。家に帰るとお互いに忙しかったりするんだよ。本当はもっと愛ちゃんと遊んだりしたいんだけどさ、愛ちゃんも夏休み前半は忙しくなっちゃうからその準備をしなくちゃいけないみたいでね。私も手伝えることがあれば何でもするつもりなんだけど、手伝えることなんてないんだよね」

「愛ちゃんは夏休み前半に家族旅行をするって言ってたもんね。八月から親の仕事が忙しくなるって言ってたし、遊べるうちに遊んで送って言ってたけど、そんなに忙しいの?」

「凄く忙しくなるみたいだよ。家に帰ってもお風呂に入って寝るだけでご飯を食べる時間も惜しいみたいだって聞いたことあるし。愛ちゃんも色々とサポートしようとしたりするみたいなんだけどさ、忙しい期間は家政婦さんを雇うから出来ることも無いんだってさ。だから、八月になったら私みたいにまー君も愛ちゃんを誘うといいよ。きっと喜んであってくれると思うからさ」

「そうしたいとは思うけど、どうやって誘ったらいいかわかんないんだよね」

「普通に誘えばいいじゃない。夏休みなんだし会いたいって言えば愛ちゃんだって会いたいって返してくれると思うよ。愛ちゃんの家の近くに公園があるんだけど、そこでデートしたらいいんじゃないかな。私の家からもその公園は近いんだけどね」

 愛ちゃんから事前に八月になるまではあまり連絡も出来ないかもしれないという事は聞いていた。八月になれば大丈夫だという事も聞いているのだが、僕は待っているだけの受け身の姿勢で良いのだろうか。もっと積極的になった方が愛ちゃんにも喜ばれるのだろうか。でも、あまりしつこくすると嫌われてしまうのではないかという恐れもあったりするのだ。

「愛ちゃんはさ、普段はそうでもないんだけど、夏から冬までにかけては寂しそうに見えることもあるんだよね。私はいつも以上に愛ちゃんと一緒にいたいとは思うんだけど、毎回一緒にいてあげられるわけでもないんだ。だからさ、まー君にはもっと愛ちゃんと一緒にいてもらいたいって思うんだよ。まー君がどれだけ愛ちゃんの事を好きなのかは私にはわからないけどさ、愛ちゃんがまー君の事を好きなのは私は知ってるよ。だから、まー君にも愛ちゃんと一緒に過ごして欲しいなって思うんだ。本当だったらさ、こうして私と一緒にいる時間も愛ちゃんの為に使って欲しいって思うけど、私もまー君と一緒にいたいって思っちゃうから。これは愛ちゃんにも言ってるから大丈夫だからね」

「ありがとう。真美ちゃんのお陰で愛ちゃんに連絡する勇気をもてそうだよ。でも、真美ちゃんに言われなくても愛ちゃんには連絡しようと思ってたんだよ。今月は忙しそうだからあまり負担をかけたくないって思ってたんだけど、連絡くらいだったら大丈夫かな?」

「どうだろうね。私も七月中は自分から連絡とる事ないんだけど、まー君だったら大丈夫かもよ。私はいつでも大丈夫だけどね」

「真美ちゃんはいつでも連絡くれてるじゃないか。愛ちゃんより真美ちゃんとやり取りしてる方が回数多いと思うよ」

 僕は自分から連絡をするという事が得意ではない。愛ちゃんと付き合う前は妹の朱音とやり取りをするくらいで、他に誰かと連絡を取り合うという事はしてこなかった。

 オカ研の活動で会長と連絡を取り合ったことも何度かはあったが、それも極めて業務的な内容でプライベートの話題は一度も出したことが無かったと思う。陽菜ちゃんにいたっては連絡先すら知らなかったのだ。

 しかし、僕が愛ちゃんと付き合ってからはその状況も一変し、会長と一緒に観覧車に乗った日からプライベートのやり取りの方が多くなっていたし、陽菜ちゃんとも連絡先を交換してから定期的にやり取りをするようになった。真美ちゃんも頻繁に連絡をくれるようになったのだが、今回のような呼び出しだけではなく好きなモノの話やペットの写真を見せれくれたりもしていたのだ。

 愛ちゃんと付き合ったことで変わったことはいくつもあるのだけれど、一番の変化は交友関係が広がったという事なのだろう。僕は内向的で社交性も無い人間だと思っていたのだけれど、案外社交的な性格なのかもしれない。彼女たちがそうであるから勘違いしているだけなのかもしれないが、僕は愛ちゃんと付き合ったことで自分の見ている世界が広がっていったという事だけは間違いない事だと思う。

「こうしてさ、まー君にお弁当を食べてもらうってのも私にとっては幸せな事なんだよ」

「真美ちゃんの作ってくれるお弁当は美味しいからね」

 昼休みは基本的に真美ちゃんに呼び出されるのだが、いつからか月曜日に限っては真美ちゃんがお弁当を作ってくれるようになっていた。

 教室で二人で食べるということは無いのだが、空き教室や校舎裏など人目のないところでお弁当をいただく事が多かったのだが、オカ研の部室を使える時には遠慮なく使うことにしている。

 いつからか忘れたのだが、会長は月曜日に何か用事があることが増えているような気もしていたのだ。

「毎週お弁当を貰ってるけどさ、そのお礼をしたいと思うんだけど、何か欲しいものとかあったりするかな?」

「お礼なんて気にしなくていいよ。前にも言ったけどさ、月曜日は私がお弁当を作る日なんで一個くらい増えても何の負担も無いからね。家族の分と愛ちゃんの分とまー君の分を作ってるんだけど、それだけ作ってたら一個減らしたところで何も変わらないからね。むしろ、まー君の分を減らしても私の食べる量が増えるだけだし」

「負担になってないんだったらいいけどさ、それでも貰ってばかりだったら悪いと思うんだよ。何か出来ることがあれば何でも言ってくれていいからね」

「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でもね、本当にお礼とかは良いの。だって、まー君が美味しそうに食べてくれるのを見てるだけで私は満足だからね。美味しくないって言われたらさ、愛ちゃんもそう思ってるのかなって考えちゃうから。愛ちゃんにも美味しいものを食べてもらいたいって思うからね」

「真美ちゃんは料理も上手だし、服も作れるって言ってたじゃない。きっと、いいお嫁さんになれるね」

「ちょっと、変なこと言わないでよ。そんな事ないって」

「そんなことあると思うけどな。真美ちゃんって美人だし料理も上手だからさ、旦那さんになる人が羨ましいよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ、私は結婚とか無理だと思うな。家族以外ではこうやって普通に話せるのもまー君くらいだし、他の人と話すの楽しくないんだよね」

「でもさ、なんで僕だと普通に話せるのかな?」

「気を悪くしたらごめんなさい。たぶん、まー君が愛ちゃんの彼氏だからだと思う。まー君が良い人ってのが大前提の話だけど、いい人なら他にもたくさんいると思うのよね。でも、愛ちゃんの彼氏となると一人しかいないじゃない。他の人達とまー君の違いってなんだろうって思うと、一番大きい違いがそこなのよ。でも、まー君は他の人と違う良い面が沢山あるって知れたんだ。知れたんだけどさ、やっぱりそれを知るきっかけって愛ちゃんの彼氏だから知りたいって思ったんだと思うよ。私は愛ちゃん以外の女子とも仲良く出来てないし、仲良くするつもりもないんだけど、愛ちゃんの好きな人だったら知りたいなって思ったりもしているのよ。この部室を快く貸してくれている会長さんにも感謝はしているけどね、好きかどうかって言われたらわからないの。そもそも、会長さんに興味があるかどうかも私にはわからないのよね。だけど、会長さんはまー君だけじゃなく愛ちゃんにも優しくしてくれているし、私にも優しくしてくれているの。どうしよう。私は会長さんと仲良くなりたいって思ってもいいのかな」

「会長と仲良くなりたいんだったらその気持ちを抑える必要は無いと思うよ。会長だって真美ちゃんの事を嫌いだって思ってないし、素直ないい子だってこの前言ってたからね。僕がなんで昼休みにこの部室を貸してくれるの聞いた時にさ、会長は知り合いが困ってたら助けるもんだって言ってたよ。友達ではなく知り合いって言ってたけど、お互いにちゃんと理解し合えば仲良くなれるんじゃないかな。きっと会長も真美ちゃんと仲良くなりたいって思ってるんだと思うけどな」

 真美ちゃんの気持ちはなんとなくだけど理解できる。僕もクラスに気軽に話せるような友達はいないし、愛ちゃんと付き合いだしてから人とまともに話すことが出来るようになったのだ。

 僕は自分の事を人見知りではないと思うのだけれど、あまり人と話す機会が多くなかった。人と話すことが出来ればそれなりに話も出来るとは思うのだけれど、今まではそれを確かめる場面が少なかっただけなのだ。

 きっと真美ちゃんも僕と同じようなタイプなんだろう。こうして一緒に過ごしている時間を思えばそうとしか考えられないのだ。だって、真美ちゃんは僕と話をしている時も普通に笑ってくれるのだから。

「じゃあ、まー君に頼み事でもしようかな。まー君もお礼をしたいって言ってくれたし、甘えるのも悪くないよね」

「僕に出来ることだったら何でも言ってよ。真美ちゃんの為に頑張るからさ」

「そう言ってくれるのは嬉しいな。では、私と愛ちゃんをちゃんと会長さんに紹介してね。出来れば、今以上に仲良くなれるようにしてくれたら嬉しいな」

「それくらいだったらお安い御用だよ。でも、それは僕にとってはお礼をしたことに含まれないんだけどな。いつだって紹介することが出来るし。そうだ、八月にオカ研メンバーで肝試しをするんだけど、真美ちゃんも一緒にどうかな。もちろん、愛ちゃんも誘うからさ。その時に会長と一緒にいれば仲良くなれると思うんだけど」

 さっきまで嬉しそうにしていた真美ちゃんの顔が一瞬で雲ってしまったのだけれど、僕は何か良くない事をしてしまったのだろうか。

 真美ちゃんの表情は相変わらず曇ったまま嫌そうな表情に見えたのだが、心なしかその両目には涙がたまっているようにも見える。

「あれ、何か嫌なことを言っちゃったかな。八月までは待てないよね、ごめん。出来るだけ早い時期にしたいと思うけど、そうなると愛ちゃんが忙しそうだし」

「違うの、そうじゃないの。誘ってもらえるのは嬉しいんだけど、怖いの」

「大丈夫だよ。会長も陽菜ちゃんも怖くないから。みんないい人だからさ。むしろ、真美ちゃんと仲良くなりたいって陽菜ちゃんも妹の朱音も言ってるからさ、みんな二人の事を歓迎してくれるよ」

「そうじゃなくて、私はね、お化けとか苦手なの。肝試しが怖いの」

「え、そうなの?」

 僕は真美ちゃんの事を一人で何でも出来る強い人だと思っていた。休みの日は一人でどこにでも行けると言っていた真美ちゃんではあったが、怖いものがあるとは想像もつかなかった。

 空手や剣道も嗜んでいるそうなので力という面でも怖いものは無さそうなのだが、お化けが怖いというのは意外な事実であった。

「お化けが怖いって、この部屋は大丈夫?」

「ここは大丈夫だよ。何度確認してもらったけど、お化けとかいないって言ってたし、ここにあるのは本物じゃないからね」

「でもさ、肝試しの会場も心霊スポットってわけじゃないんだよ。僕が小学生の時に遠足で言った普通の池だからさ、その周りを夜に一周するだけなんだよ。何の怖いことも無いから平気だよ」

「それは分かってるんだけどね、夜の闇が怖いの。見えないところがあると怖くなっちゃうの。だから、肝試しは怖いなって思っちゃうの。幽霊がいるとかいないとか関係なく、怖いの」

「真美ちゃんがそんなに怖がるんだったら他の機会にした方がいいかもね。でも、そうなるとみんな忙しくなっちゃうと思うし、すぐには無理かもしれないよ」

「わかった。わかったよ。その肝試しに私も参加したいと思うよ。でも、まだその勇気がモテないの。あのね、参加するかどうかはその時まで待ってもらってもいいかな?」

「待つのは構わないと思うよ。当日に参加する人もいると思うし、都合がつかなくなる人もいると思うからね。無理に参加して欲しいとは言わないからさ、大丈夫そうだったら参加して欲しいな」

「うん、愛ちゃんと相談してみる」

 真美ちゃんが心霊系が苦手なのは意外だった。真美ちゃんの事をよく知らない人も僕と同じような感じで真美ちゃんを見てしまうと思う。それくらい、真美ちゃんは強そうに見えるのだ。

 でも、そんな真美ちゃんにも弱点があるんだと思うといつもよりも可愛く見えてしまった。

「ちょっとまー君。私が怖がってるのを見て笑ってるでしょ。そう言うのって良くないと思うんだけど」

「ごめんごめん。意外だったから驚いちゃってさ、そう言うの苦手だとは思ってなかったんだよ」

「もう、誰だって苦手なモノはあるでしょ。そう言うまー君だって苦手なものあるんじゃないの?」

 真美ちゃんはお弁当箱を片付けながら僕の事を見ていた。僕にも苦手なものはたくさんあるし弱点だってあるのだ。でも、それは高いところであったり暑い場所だったりするのでここでそれを見せられるという事もないのだ。


「そう言えば、まー君の弱点を一つだけ私は知ってるんだった。」

「僕の弱点?」

「そう、まー君の弱点」

 真美ちゃんは席を立って入口の鍵を閉めたのだが、どうしてそんな事をするのだろう。鍵を閉めたところでここの扉は中から簡単に開けることが出来るのだ。鍵をかけたところで僕が簡単にこの部屋から逃げ出すことは出来るのだ。

「まー君ってさ、あんまり人に対して強気になるのは似合わないよ」

「そうかもしれないね。でも、真美ちゃんはそう言うの似合うかも」

「それは誉め言葉として受け取って良いのかな。一応お礼は言っておくけどさ、まー君にも弱いところを見せてもらっちゃおうかな」

 僕は真美ちゃんの圧におされてじりじりと後退していたのだが、狭い部室であるためあっという間に壁際まで追い詰められてしまった。

 僕を見ている真美ちゃんの表情は獲物を見付けた狩人のように鋭く冷静であるのだが、口元には不気味な笑みを浮かべているのである。その表情は僕に恐怖を感じさせるには十分なモノであった。

「じゃあ、まー君の弱点を責めちゃうね。怖くても目を逸らしたらダメだからね」

 真美ちゃんは僕の前に立ってスカートを持ち上げたのだ。

 綺麗な足はいつも通りなのだが、今日の真美ちゃんのパンツは大人っぽいレースが編み込まれた黒くてセクシーなモノであった。

 白い足とスカートで周りを遮られていることもあり、真美ちゃんの履いている黒くてセクシーなパンツは何も無い空間にポツンと置いてある一輪の花のように際立っていた。それくらい妖艶な魅力を放っていたのだ。

 僕は真美ちゃんのパンツに見惚れていたのだが、これが僕の弱点だという事なのだろうか。


「そんなに真剣に見られるのはちょっと恥ずかしいけど、まー君は私のパンツしか見てないよね。そんなまー君に、今だったら何でも出来そうだなって思っちゃうよ」

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