第26話 会長の夏休みの宿題

 夏休みと言えばオカ研の活動が活発になっても良いように思えるのだが、肝試しをやることが決まっている以外は特に何もすることも無いのだ。

 唯一の活動と言っていい肝試しも、会場の確保などの準備は去年の段階で会長が済ませていたようで、後は前日に軽く下見をするくらいでやることも無いのである。肝試しの後に行われる怪談があるようなのだが、僕はそう言った話をすることは出来ないのでコレも会場の準備を当日にするくらいしかやることも無いのだ。

 学校も無いしオカ研の活動も無いので夏休みの期間中に会長と会えるのは肝試しの前日と当日だけなのだろうと思っていた。

 しかし、そんな僕の予想を裏切るかのように会長は頻繁に僕を遊びに誘ってきたのであった。もちろん、僕と会長の二人だけでという事ではなく、愛ちゃんも一緒に誘ってきていたり、陽菜ちゃんも一緒だったりしたのだ。

 なぜ会長が僕たちを誘っていたのかというと、一人で寂しいという事もあったのかもしれないが、会長の宿題を手伝うためという目的があったのだ。


 陽菜ちゃんと待ち合わせをして会長の家に向かったのだが、前回あった時よりも陽菜ちゃんは肌の露出を控えた格好をしていた。

 今日はまだそこまで暑くないとはいえ、肌はほとんど隠されているので少し暑そうに見えていた。ただ、日焼け対策という意味ではそれも正しい選択なのだろうと思えていた。

 会長の家に着くと真っすぐに部屋に案内されたのだが、可愛らしい服装の陽菜ちゃんとは対照的に会長はとてもラフな格好でとても短いミニスカートと小さめのTシャツで体のラインが強調され手足の長さもいつも以上に感じていた。

「まー君も陽菜ちゃんも今日はありがとうね。愛ちゃんも誘ったんだけど、今日も家族で出かけているそうなので来ることは出来ないみたいだね」

 今日は僕と陽菜ちゃんが会長の家に呼ばれたのだ。会長の部屋はいたって普通の部屋であり、どこを見てもオカルト好きだという事はわからない感じになっている。

 僕も朱音以外の女子の部屋に入るのは久しぶりなので緊張しているのだが、なぜか陽菜ちゃんは僕以上に緊張しているように見えた。

「陽菜も来て良かったんですか。お邪魔じゃないかなって思うんですけど」

「邪魔なんてことは無いよ。陽菜ちゃんは私とまー君以外でちゃんと活動に参加してくれている数少ないオカ研のメンバーでもあるからね。愛ちゃんと真美ちゃんもオカ研に誘ってはいるんだけどさ、なかなかいい返事を貰えないので困ってるんだよ。まー君からも二人にオカ研に入ってくれるように頼んでもらえると嬉しいんだけどな」

「二人を誘うのは賛成ですけど、入ってくれたとしても積極的に参加してくれるかはわかりませんよ」

「それは別にいいんだよ。入ってくれさえすればいいんだからね。正式な部活でもないから活動するのは自由だし、学校側からも活動報告を求められたりしてないからね。まあ、私は会長として夏休みの宿題でオカ研の活動をしようと思ってはいるんだけどさ」

「それって、陽菜のやろうとしてる宿題と一緒かもしれません。陽菜は日本の都市伝説を調べようって思ってるんですよ。でも、まだ何も初めて無いんで会長の真似をしちゃおうかな」

「真似をするくらいだったらさ、一緒に宿題をやろうよ。私と陽菜ちゃんの宿題はテーマも同じようなものだし、お互いにデータを共有すればいいんじゃないかな。で、まー君はどんな宿題をやるつもりなのかな?」

 僕は宿題をどうするか決めかねていた。ここで会長と陽菜ちゃんと一緒にやるのもいいと思うのだけれど、そうしてしまうと僕はこの夏休み期間中に愛ちゃんと会うよりも会長と陽菜ちゃんと会う時間の方が長くなってしまうような気がしていた。陽菜ちゃんに関しては、朱音と一緒にお菓子作りをしにウチに来ることも多くなりそうなので会う機会も多くなると思うので、何となく一緒にいる時間が増えすぎてしまうと思ってしまった。

「僕は、まだ何も考えてないんですよ。一応やろうと思ってることはあるんですけど、もしかしたら違う事をやるかもしれないです」

「それって、まー君先輩が愛ちゃん先輩と一緒に何かしたいって事ですよね。でも、愛ちゃん先輩はまー君先輩と一緒じゃなくて一人で宿題をやるかもしれないですよ」

「そう言えば、愛ちゃんは旅行の事を宿題にするとか言ってたような気がするな。結構家族で出かけているみたいだし、まー君も愛ちゃんと一緒に旅行に行ってみるってのもいいんじゃないかな」

「旅行についていくとか無理じゃないですか。それに、二人で旅行に行くにしても僕はお金ないですからね。うちの学校じゃアルバイトも出来ないし、どうやったって無理な話ですよ」

 正直に言うと、僕も愛ちゃんと旅行に行きたい。行きたくないと思うわけがないのだ。でも、僕には愛ちゃんを旅行に誘うなんてことは出来ない。お金が無いというのも理由の一つではあるが、一番の問題は僕が愛ちゃんを誘う勇気がないのだ。

 オカ研の肝試しは何とか誘うことも出来てはいたのだが、それ以外に遊びに誘ったりすることは出来ずにいたのだ。せっかくの夏休みなので思い出の一つも作りたいとは思うのだけれど、僕は愛ちゃんを誘い出す勇気を持ち合わせていなかったという事なのである。

 だからと言って、何の連絡も取りあっていないという事もなく、電話やメールなんかのやり取りは頻繁に行っているのだ。学校で会えない分もそこで補完しているといういると思うのだが、ここでも僕から発信するのではなく愛ちゃんからの連絡を待っているような状態になっているのだ。

「そうだよな。ウチの学校は基本的にアルバイトの許可を出さないもんな。許可をもらったとしても、家の近くでは出来ることも限られているし、こればっかりはどうしようもないもんだよ」

「陽菜も可愛い服とか買いたいからお金欲しいんですけど、アルバイトできないって聞いて諦めましたもん。おじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれたりもするんですけど、やっぱり自分でじっくり見て選びたいですよね。そうだ、まー君先輩の宿題は陽菜の似合う服を探すってのはどうですか?」

「いや、それはおかしいでしょ。クラスで発表する時にどんな顔をすればいいんだよ。愛ちゃんだって変な気持ちになるでしょ」

「それは大丈夫じゃないですかね。愛ちゃん先輩は陽菜とまー君が仲良くしても良いって言ってくれましたからね。陽菜はその言葉に甘えることにしたんですけど、まー君先輩がその気になってくれないから物足りないんですけどね」

「あれ、陽菜ちゃんも愛ちゃんからまー君と仲良くして良いって言われているんだ。私も言われたんだけど、私の場合はオカ研のメンバーとしてまー君をよろしくって感じだったかも。オカ研の活動なんてあってないようなものではあるけど、一応今日もオカ研の活動として来てもらっているからね。次からは陽菜ちゃんを抜きでまー君を誘っちゃおうかな」

「ちょっと会長。陽菜を誘ってくれなかったら宿題できないじゃないですか。それに、まー君先輩を独り占めしようとするなんてダメですよ」

 陽菜ちゃんは僕を独り占めしていたような気がするのだけれど、自分の事は棚に上げているのかな。だからと言って、ここでそれを言っても仕方ないし、そんなことを言うと本当に会長と二人だけで会うことになってしまうかもしれない。

 別に会長と二人だけで会うことは嫌ではないのだけれど、何となく美人の会長と二人だけで私服で会うというのは気まずいのである。

 そんな会長に視線を向けると、僕と目が合った会長が陽菜ちゃんに気付かれないように何度も何度も座る体制を変えていたのだ。

「すいません。ちょっと陽菜はお手洗いに行ってきます。場所ってどこですか?」

「場所ね、案内するからついて来てね。そうだ、私が座ってたとこの後ろにある引き出しは開けちゃダメだからね。中には私の下着が入っているんだけど、まー君はそれを見ちゃダメだからね」

「そんなの見ないですって。早く行ってきてください」

 僕はオカ研の活動の時に何度も会長のパンツは見ているのだ。見るたびに違うパンツを履いている会長だったのだが、この引き出しの中にまだ見たことが無いパンツがあるのかもしれないと思うと、僕はちょっとだけ見てみたいという欲望が出てしまっていた。

 見るなと言われた人間はそれを見たくなってしまうというものなのだが、僕はその見たい衝動をぐっとこらえて二人が戻ってくるのを待っていたのだ。

 待ってはいたのだけれど、いつまでたっても二人が戻ってくる気配がしなかった。

 永遠とも思える時間を過ごしていたのだけれど、僕は引き出しを開けて中を見たいという欲求に押し潰されそうになりながらも、必死に耐えていたのだ。

 どうしても僕はその引き出しから視線を外すことが出来なくなってしまっていたのだけれど、ふと視界に入ってきたベッドを見てみると、会長がいつも使っているであろう枕が僕の視線を独占してしまっていた。

 会長が毎日使っている枕にも触れてみたいと思っていたのだが、こんな感情を抱いたのは生まれて初めての事であり、僕はいったいどうしたのだろうと自分でも思ってしまっていた。人の枕に興味を持つなんて今まで無かったのだけれど、引き出しの中にある下着よりも会長が普段から使っている枕の方が僕の興味を引いたのだ。

 ほんの少しだけなら触ってもいいのかなと思っていた時に会長が戻ってきた。

 もう少し遅く会長が戻ってきたのであれば、僕はきっと枕を抱きしめていたに違いない。それくらいに僕は会長の使っている枕に魅了されていたのだ。

「あ、本当に引き出しの中は見なかったみたいだね。まー君なら見ても良かったんだけどさ」

「いや、勝手に見たりなんてしないですよ。見ていいよって言われても見ないと思いますけど」

「まー君はそういう人だもんね。じゃあ、特別に今履いているのを見せてあげるよ」

 会長は僕の前に立つと、ゆっくりとスカートを上げていったのだ。もともと短いスカートだったのであっという間にパンツは見えてきたのだが、鮮やかな黄色いパンツが何となく夏っぽいなと思ってしまった。

 学校で見る会長のパンツとは違って私服姿の会長のパンツはどこか爽やかさを感じてしまっていた。制服を着ているのに見えてしまうパンツとは違い、会長のラフな格好で見えるパンツはエロさよりも芸術性を感じていたのである。

「陽菜ちゃんなら紅茶を淹れてくれるって言ってたよ。持ってきたお菓子に合う紅茶を持ってきてくれたみたいんだ。だから、もう少しそうやって見てても平気だと思うよ」

 どれくらいの時間があるのかわからないが、僕はその会長の言葉を信じてじっくりパンツを見ていたのだ。

 いつもよりも少し小さめのパンツではあったけれど、いつも以上に刺繍も細かく施されていたのだ。僕はその一つ一つをじっくりと見たいと思っていたのだが、陽菜ちゃんがドアを開けて欲しいと呼びかけてきた事で僕も会長も一瞬で現実に引き戻されてしまっていた。


「また今度皆には内緒で見せてあげるからね。二人だけで会ってない時でもね」 

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