僕と彼女たちと肝試し

第19話 彼女たちの気持ち

 オカ研の活動は週に三回しかないのだ。陽菜ちゃんが頻繁に顔を出してくれるようになったので以前よりは活気も出てきているはずなのだが、活動内容が本を読んだり調べものをしたりするだけなので人数が増えたところで何も変わらないのだ。むしろ、三人になったことで会話自体も減った気がしていたのだ。僕から会長に話しかけることも少なくなったし、会長から話しかけられることも少なくなっていたのだ。


「もしかしてですけど、陽菜が来るのって迷惑でした?」

「そんな事ないよ。陽菜ちゃんがきてくれるのは嬉しいよ。今まであんまり来てくれなかったのに、最近はよく来てくれるから嬉しいし」

「でも、何となくですけど陽菜は歓迎されてないような気がするんですよね。陽菜の気のせいだったらいいんですけど、なんだかまー君先輩が陽菜と会長に対してよそよそしい感じなんですよね」

「それは私も思ってたんだよね。まー君って、陽菜ちゃんがいる時は大人しいような気がするんだけど、もしかして、陽菜ちゃんの事を怖がってたりするのかな?」

「ちょっと、会長。なんてこと言うんですか。まー君先輩が陽菜の事怖がってるってどういう意味ですか。会長でもそんなこと言うと怒りますよ」

「だって、陽菜ちゃんって完全に陽キャだもん。私からしたら別の世界の人みたいに感じちゃうから」

「それは会長だけですよ。まー君先輩はそんなこと思ってないですよね?」

 会長と陽菜ちゃんは僕をじっと見つめて答えを待っているようなのだが、僕はその答えを出すことが出来なかった。

 陽菜ちゃんの事は可愛い後輩だと思ってはいるけれど、時々怖いなと思うことはある。それは会長に対しても優しいいい先輩だと思う反面怖いと思う一面もあったりするのだ。

 お互いに対して怖いと思う面がある以上、陽菜ちゃんの事だけを怖いと思っているわけではないので怖くないということは出来ずにいた。

「もう、そんな顔で黙ってるなんて怖いって言ってるようなもんじゃないですか。陽菜のどこが怖いって言うんですか」

「そう言うところじゃないかな。そう言う風にグイグイ来られると怖いって思う人も多いと思うよ。陽菜ちゃんは可愛らしい女の子なんだから普通にしていればいいと思うんだけどな」

「これが陽菜の普通なんです。でも、好きな人に対してはグイグイ行かなきゃもったいないじゃないですか。振り向いてもらえないって知ってても、気持ちは伝えたいって思うんですよ」

「好きな人って、まー君には彼女いるんだよ。そんなに積極的にして、奪い取ろうって思ってるの?」

「奪い取るって間では思ってないですけど、もしもまー君先輩が彼女と別れて一人になったらすぐに行けるように種を蒔いているんです。それが実らない事は知ってるんですけど、それでも種は蒔いておいた方がいいと思うんですよ。会長はそういう事しない人ですよね。ただ、黙って自分の番が来るのを待ってるだけって感じがしますもん」

「そんな事ないよ。私だって積極的に行く時はそうするし。ねえ、まー君ならわかってくれるよね?」

 確かに、会長は大人しい感じで積極性とは皆無のような気はするのだが、あの観覧車でパンツを見せてくれたことを考えてもやる時はやる人なのだと思う。それが良いことなのか良くない事なのかはわからないけれど、ここ一番での積極性は陽菜ちゃんよりも強いのだとは感じていた。

「まー君先輩は、愛ちゃん先輩と別れたとして、陽菜と会長ならどっちと付き合いたいって思いますか?」

 陽菜ちゃんの積極性を象徴するような質問をぶつけられたのだが、僕はその質問にも答えることが出来なかった。

 会長と陽菜ちゃんは大きな胸を弾ませながら僕に問いかけてきているのだけれど、僕は揺れるその大きな胸から目を逸らして読みかけの本に視線を移して何とも言えないような答えを返したのだ。


「そう言うところはまー君先輩の優しさだとは思いますけど、そんな答えでいつまでも納得するわけじゃないですからね」

「そうね。私も陽菜ちゃんにつられて言っちゃったけど、そんな答えじゃ納得できないかも」


 翌日、僕は何事も無かったかのように登校した。

 会長も陽菜ちゃんも学年が違うので会うことは無かったので気まずい思いはせずに済んだのだが、僕は登校途中に真美ちゃんに呼ばれて駐輪場脇の人気の少ない場所へと連れて行かれた。

 愛ちゃんは病院に行ってから学校に来るという事は聞いていたのだけれど、真美ちゃんに話しかけられるという事は思ってもいなかった。

「あのさ、愛ちゃんがいないから言えることなんだけど、私はまー君に伝えなきゃいけないことがあるんだ。その、私はさ、愛ちゃんの事が好きだよ。好きなんだけどさ、それとは関係なく、まー君の事が好きになっちゃったんだよ。最初はどんなやつか確かめてやろうって気持ちで近付いたんだけどさ、私の趣味とかも受け入れてくれたし、愛ちゃんがまー君の事を好きになるってのもわかる気がしてきてさ、あの日以来ずっとまー君の事を考えてたんだけど、それって私がまー君の事を好きだってことなんじゃないかなって思ってて、どうしていいかわからなくなっちゃったんだ。まー君が私の気持ちに応えてくれるとは思ってないし、気持ちに応えて欲しいとも思ってない。でも、私はその気持ちを隠すことが出来なくなってしまったんだよ。愛ちゃんにもこの事は言ってあるんだけど、まー君にその気持ちを伝えても平気だからね。って言ってくれたんだ。そんな事を言ってくれる優しい愛ちゃんの事を裏切るなんて出来ないからさ、私の気持ちは伝えるけど私の想いには応えないで欲しい。それだけだからさ、呼び止めてごめんな」

 真美ちゃんは僕の答えなんて聞かずにそれだけを言うと走り去っていってしまった。

 正面で向き合って見てあらためて思い知らされたのだが、真美ちゃんは顔も整っているのだがそれ以上にスタイルが凄い。モデルの中でも通用するのではないかと思うくらい等身も高く、出ているところはちゃんと出ている。大きさ自体はそこまで大きい方ではないと思うのだが、体全体のバランスを考えると胸も大きいんだなと思えてしまったのだ。


 急に到来したモテ期が僕にいらないストレスを与えてくれているような気もしていたのだが、そのストレスは嫌なものではなかった。

 一応、彼女たちの事は愛ちゃんに報告してあるのだが、愛ちゃんはそれをちゃんと報告した僕の事を信用してくれているようだ。

「彼氏がモテてるなんて自慢だよ。そんなモテてるまー君が私の事を選んでくれるなんて嬉しいな」

 愛ちゃんは怒ることも無く僕がモテていることを喜んでくれているようだった。

 オカ研の活動に参加しにくいと言ったのだが、愛ちゃんは今まで通り変わらずに活動するのも大事だと思うと言ってくれたし、会長と陽菜ちゃんも僕が参加しなくなると逆に気まずくなると言っていた。

 真美ちゃんは以前に増して僕に話しかけてくれるようになったのだが、今まで見たいに近い距離まで寄ってくるのではなく一歩引いているような感じもしていた。


「ねえ、最近のお兄ちゃんってなんか変だよ。学校で変わった事でもあったの?」

 いつもであればすぐに制服から着替えてくる朱音が今日に限っては部屋に戻らずにリビングへと入ってきた。

 僕は部屋着に着替えてソファに寝転んでテレビを見ていたのだ。昨日録画しておいた深夜番組なのだが、僕以外にこの番組をちゃんと見ている人がいないので、誰もテレビを見ている人がいないこの時間帯にしか見ることが出来ないのだ。

「別に何もないけど、お前こそ今日はすぐに着替えないんだな」

「そんなことも無いけど。お兄ちゃんの靴があったからこっちにいるのかなって見に来ただけだよ。可愛い妹に挨拶されてお兄ちゃんも嬉しいでしょ?」

「嬉しいとか嬉しくないとかは思ってないけど」

「そうなんだ。可愛いって事は認めてくれてるんだね。それなら良かった」

「まあ、可愛いか可愛くないかで言えば可愛い方だとは思うけどな」

「もう、そんな風に言わないで素直に褒めてよ。私はお兄ちゃんの事が好きなのにな」

「はいはい、俺もお前の事が好きだよ」

「違うの、そういう好きじゃないの。朱音は、お兄ちゃんの事が本当に好きになっちゃったんだよ」

 朱音は僕の上に覆いかぶさるくらいに近付いてきたのだが、その瞳は今までに見た朱音のものとは違って恋する乙女のように見えたのだ。そう思った理由なのだが、会長も陽菜ちゃんも真美ちゃんも今の朱音と同じように潤んだ瞳で僕の事を見ていたからだ。

「朱音はお兄ちゃんの事が好きなんだけど、愛さんの事も好きだよ。二人がいつまでも仲良くしてくれたらいいなって思うけど、いつかはお兄ちゃんが朱音の所に戻ってきてくれるといいなって思うんだ。でも、お兄ちゃんには愛さんと幸せになってほしいからその日がやってきてほしくないとも思ってるんだよ。ねえ、お兄ちゃんは朱音のお兄ちゃんだけど、今よりも好きになっちゃってもいいのかな?」

 僕はあくまで冗談だと受け取ることにしたのだが、朱音の表情、特に目を見ていると冗談ではないという事は分かっている。でも、僕たちは兄妹なんだからそんな感情を抱くなんて普通ではないと思うのだ。

 朱音は僕がちゃんと答えないという事をわかっているのか、答えを聞かずにリビングを出て行ったのだ。

 戻ってきた朱音はいつもとは違ってパンツの上に短パンを履いているのだが、僕のすぐ前に座って離れようとしなかった。

 いつもは一人で見ている番組なので集中して見ることが出来ていたのだが、今回に限っては目の前にいる朱音の事が気になって番組の内容を覚えることが出来なかったのだった。


「そうなんだ。真美ちゃんだけじゃなく、会長さんに陽菜ちゃんに朱音ちゃんまでまー君の事を好きになって告白されたんだね。それで、まー君は四人の事を好きなの?」

 僕は愛ちゃんの質問に間をあけずに答えた。四人からされた質問や告白にはこたえることが出来なかったけれど、愛ちゃんからの質問には即答できたのだ。

「好きって気持ちはあるけど、それは愛ちゃんに対する恋愛の好きとは違うものだと思う。会長も陽菜ちゃんも真美ちゃんも好きだけど、恋愛感情の好きって事ではない。朱音は妹だからもともと恋愛感情なんて無いわけだけど、兄妹としての好きって気持ちはあるよ」

「良かった。まー君の気持ちが少しでも揺れてたらどうしようかなって思ってたんだけど、そんなことは無いみたいね。でも、少しだけ心配だからさ、安心させてほしいな」

 愛ちゃんは珍しく僕に何かを求めてきた。僕はそれに対してどう答えればいいのかわからなかったのだが、ただ愛ちゃんの事を黙てみている事しか出来なかった。

 たぶん、僕むけられていた彼女たちの瞳のように僕の瞳も潤んでいたと思うのだが、それだけではない何かも一緒に見せられているような気もしていた。

「今日はね、久しぶりに制服姿で見せてあげられるよ。まー君は前と後ろなら、どっちから見たいのかな?」

「どっちもって言ったら愛ちゃんは怒るかな?」

「怒りはしないよ。でも、今日はそんなワガママ言っちゃダメだよ。まー君が告白されるくらい魅力的なのは嬉しいけど、告白されるほど好きにさせたのはダメだからね。少しは罰を与えないといけないよね。だから、前から見たいか後ろから見たいか決めていいよ」

 正直に言うと、僕は前からも後ろからも見たい。彼女のパンツを見たくない男なんているわけないのだ。それに、愛ちゃんみたいな可愛らしい彼女であればどっちかだけで我慢できるはずなんてないのだ。

「まー君はどっちか決めたかな?」

「うん、決めたよ」

「じゃあ、前から見たのかな?」

「違うよ」

 スカートの端を持ち上げていた愛ちゃんの手が止まると、愛ちゃんは僕に背を向けてお尻を突き出してきた。

「じゃあ、後ろから見たいって事だね」

「違うよ」

 愛ちゃんの手が腰からゆっくりとスカートの裾へと伸びていたのだが、僕の言葉を聞いてその手も止まってしまった。

「違うって、どういうこと?」

「下から。下から見たい」

「え、下から?」

 愛ちゃんは驚いて僕の方を振り向くと、慌てたようにスカートを押さえていた。この位置から中が見えるわけではないのだけれど愛ちゃんは僕が真下にいるかのように思ってスカートを押さえていたのだ。

「下から見るって、どうすればいいの?」

「僕が横になるんで、愛ちゃんは僕の顔を跨いでくれればいいよ」

「ちょっと、さすがにそれは恥ずかしいかも」

 愛ちゃんは躊躇しているようなのだが、言っている僕も少しは恥ずかしいのだ。

 横になるのは構わないのだが、下から見上げると愛ちゃんの顔が見えなくなってしまうという最大の欠点があることに気付いてしまった。愛ちゃんはその事に気付いていないようなのだが、僕は恥ずかしがる愛ちゃんに一つの妥協案を出すことにした。


 僕が座っている椅子の前に当然机があるわけなのだが、愛ちゃんをその机に座らせると両ひざをたてさせていた。スカートを履いている状態で足を広げてひざをたてているのでその中が見えてしまうのだが、今日の愛ちゃんのパンツはシンプルな白いパンツに小さな赤いリボンがついているものであった。

 白い素肌が少しだけ赤くなっているのでより白いパンツが際立っているのだが、手を伸ばせば簡単に触れるような距離にあるパンツから目を逸らすことが出来なかった。

「ねえ、この体勢も恥ずかしいよ。もういいかな?」

 僕はしっかりと脳内に焼き付けることが成功したのだが、パンツ自体よりも恥ずかしがっている愛ちゃんの表情の方が僕の脳内に強く残ってしまっていたのだ。

「やっぱり、まー君に選ばせるのはやめにしようかな。まー君が選んでくれたのは嬉しいけど、まー君に選択肢なんて上げないからね」

 愛ちゃんが机から降りながらそう言っていたのだが、机の角にスカートが少しだけ引っかかってお尻の部分もちゃんと見えたのは幸運だなと感じていた。

 もちろん、愛ちゃんはそんな事には気付いていないようではあったが、僕にとってはとても嬉しい出来事が一つ増えていたのであった。

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