第42話 エンディング 1


 波留の父親、有瀬冬彦が風呂から上がると、妻である夏樹が冷蔵庫から缶ビールを出してくれた。冬彦がプルタブをぷしゅっと引くと、妻の夏樹も自分の分の缶ビールを出し、二人してテーブルに着く。


「明日から、コペンハーゲンに行くよ」

「あら、急ね」

「超高エネルギー物質ギガニウムを追跡する」

「インターポールの仕事も大変ね」

「楽な仕事なんて、この世にはないさ」

「で、あなた。どうでした? 美少女怪盗アルセーヌ・ルパ子の活躍は? すぐそばで見たんでしょ?」


 ぐびぐびってビールを飲んでから、冬彦はこたえた。

「あきれたもんだ」

 ちなみに彼はいま、家用の、太った男の変装をしている。素顔も、本当の体形も、彼は家族にすら見せないのだ。

「親父に生き写しだよ。やることなすこと、怪盗術までも」

「さすが、お義父さんね。怪盗の才能があるかないか、ちゃんと見抜いていたんですね。あなたには、教えてくれなかったのでしょ? 怪盗術」

「教えてもらっても、あんなの無理だ」

 冬彦は肩をすくめた。

「お母さん、波留のことを頼むね」

「無理よ。あの子の足には、あたしでは追いつけないわ」

「さすがは親父の孫ってところか」

「あなたの娘でもあるけどね」

「きみの娘でもある」

「なら、きっと、だいじょうぶじゃないの? あたしたちにはもう、見守ることしかでいなきわ。雛はもう大空へ飛び立ったから。翼のないあたしたちには、あの子の幸運を祈ることしかできないのよ」

 冬彦はちいさく肩をすくめた。

「ちょっと寂しいな」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る