5 花林と茉鈴とエネルギーチャージ

「ありがとうございましたっ」


 神無月高の部員の殆どが、高校からバドを始めたらしい。とは言え相手は先輩だ。勝てて良かった。

 うんうん、初戦から幸先いいぞっ。


 ステージの上で神無月高の先生にアドバイスをもらった後、私と美鳥はいそいそとコートへ向かう。

 もちろん、かりん・まりんペアの試合を観るためにである。

 審判もしないといけないけれど、先に休憩をくれたからその間だけ。


「アウト。サービスオーバー7‐1セブン・ワン


 パイプ椅子に座って線審をする凜々果が両腕を広げると、ネットの紐を留めたポールの前で、主審を務める神無月高の1年生部員がそう言った。


「ラッキー」

「花林ナイスジャッジー」


 コートの一番奥に引かれた二本線の手前側、ダブルスのロングサービスラインからはみ出たシャトルを、花林はラケットの縁でひょいっと拾い上げる。

 どうやら相手選手がロングサーブをミスして、花林たちにサーブ権が移ったところらしい。

 第1セット目。ファーストゲームは、かりん・まりんペアのリードで試合が進んでいた。


「6点リードだなんて凄いですね。相手は部長の十夜さんたちですよ? 全国区ではないものの県大の常連のペアなんだそうです」

「そうだったんだ! 次、私たちも試合させてもらえるんだよね? ……うう、急に身震いしてきたぁ」

「私もです――と普段なら言うところでしたが、さっきの実戦で自信がつきましたし、練習試合なのですから負けもありです」

「……確かに」


 美鳥って、もっとプレッシャーに弱いと思ってた。


「なんです? ほら、花林さんがサーブしますよ。集中して観ましょう」

「う、うん」


 そう言えば今の神無月高のサーブ、ロングサーブだった。きっとこの流れを断つために、えて打ったものだろう。ダブルスのサーブと言えば、ショートサーブが基本だもん。


1本いっぽーん

「サーブ慎重しんちょー


 タンッ。


「茉鈴」

「花林」


 一度ひとたび相手選手からレシーブが返されると、花林と茉鈴のペースで試合が展開されていく。

 冷静に互いの名前を呼ぶ掛け声が特徴的だ。


「本当、お二人とも別人ですよね」

「うん。かっこいい……」


 二人がするプレーの魅力の1つに、まるで双子のような息の合ったローテーションがある。

 けれど十夜さんたち相手だと、先程の私たちのようにコートの中を振られることがないので、ホームポジションのままシャトルを捕まえられていた。

 囲碁や将棋の手数ではないけれど、足を運ぶ数が少ないのだ。それに二人の打球は常に弾道が低く、十夜さんたちは攻撃に転換出来ない。レシーブで返球するしかなく、点が取れずにいるようだった。かりん・まりんペアを前に、苦戦をいられていた。


「眩しいなぁ。二人がチームメイトだなんて夢みたいだよ……」

「ええ、本当そうですね……」


 睦高で出会った二人は、自由奔放で、だけれどどこか飄々ひょうひょうとしている。

 でも同世代でバド部に所属をしている人からすると、コートに立つこの姿こそが、かりん・まりんなんだ。私もそうだった。


「花林。……――ナイスショー!」


 あっという間に11点。失点は3点のみだ。

 凄い。私たちだったら、接戦でも嬉しいかも。

 そんな風に憧憬どうけいの念を抱く私たちの元へ、水分補給をしに花林と茉鈴がやって来た。私たちは一本ずつスクイズボトルとタオルを差し出す。


「お疲れさま。はい……って、ちょお!」


 二人はボトルもタオルも受け取らずに、むんずと私の胸とお尻を鷲掴みした。


「こ、こらぁ、試合中でしょ……? んあっ、しゅ、集中だってぇ……!」

「うしし。エネルギーチャージだよん♪」

「指、気持ち~♪」


 うう。まさかこんな子たちだったなんて、全く夢にも思わなかったんですけれどぉぉ……!

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