君を不幸にした僕は二度と彼女を作らないと決めた。←ご心配なく、最強ヒロインになって戻ってきたのでまた彼女にして下さい。

斜偲泳(ななしの えい)

第1話 最速のタイトル回収

「……椿ちゃん。僕達もう、別れた方がいいと思うんだ」


 あの日の事を、花巻風太はなまき ふうたは今でも覚えている。

 十一月。小学五年生の頃の話だ。


 寒空の下、幼馴染の月島椿つきしま つばきと歩いていた。

 あんなに明るかった椿が、今では別人のように暗い人間になってしまった。

 二人で歩く帰り道も、以前のようには楽しくない。

 ただただ気まずいだけで、重苦しい時間に変わり果ててしまった。


「……風太君。私の事、嫌いになっちゃった?」


 俯いたまま、沈んだ表情で椿が呟く。


「違うよ! 僕は今でも椿ちゃんが大好きだよ! ……だから、これ以上僕のせいで椿ちゃんがイジメられるのは嫌なんだ!」


 風太はモテる男の子だった。

 休み時間には女子が群がり、廊下を歩いているだけでキャーキャー言われる。

 でも、嬉しいなんて思った事は一度もない。

 そのせいで男子には嫌われ、友達が全然出来ないのだ。


 そんな風太にとって、幼馴染の椿はたった一人の親友だった。

 家が近い事もあり、小さい頃は椿の後ろを追いかけて、弟のように慕っていた。

 歳を取るにつれてその関係は少しずつ変わっていき、ある時風太は椿に対する恋心を自覚した。


 告白するには勇気が必要だった。

 もしフラれたら、たった一人の親友すらも失う事になってしまう。

 それでも風太は椿に対する想いを抑えきれず、ある日とうとう告白した。


『……嬉しい。私もずっと同じ気持ちだったから』


 大好きな親友が恋人に変わった瞬間だった。

 風太は天にも昇る気持ちだった。

 きっと僕は、世界一幸せな男の子に違いないと思った。


 生憎、幸せな時間は長続きしなかった。

 風太と付き合った事で、クラスの女子が椿を目の敵にしだしたのだ。


 靴がなくなり、机には落書き、教室ではこれ見よがしに陰口が囁かれた。

 勿論風太は椿を庇った。気が付く範囲でいじめを行っている女子を注意し、一緒になって靴を探して落書きを消した。


 それが余計に女子の反感を買った。


 その日、椿は教室でお漏らしをした。

 嫌がらせを受けて、トイレを使わせて貰えなかったのだ。

 風太は怒った。犯人を聞きだして漏らすまで殴ってやりたかった。

 けれど椿は犯人を教えてくれなかった。


 光を失った目が言っていた。

 余計な事をしないで。もっとイジメられるだけだから、と。


 それで風太は悟った。

 椿を苦しめているのは自分なのだ。

 だから別れる事にしたのである。


「……ごめんね、風太君。私がもっと強かったら、イジメられずにすんだのに……」

「違う! 違うよ! 悪いのは僕だ! 椿ちゃんは、これっぽっちも悪くないじゃないか! 僕が守ってあげられなかったから……」


 泣いて謝る椿を見て、風太も堪えきれずに涙を流した。

 別れの挨拶はなかった。

 それっきり無言で帰り、一緒に帰宅する事はなくなった。


 風太は椿と別れた事を宣言し、二度と彼女に話しかけず、目も合わせず、近寄らなかった。椿に対するいじめは、とりあえずそれで落ち着いたかのように思えた。


 いや、風太に見えない所でいじめは続いていたのかもしれない。

 冬休みが終わると、椿は家の事情で転校していた。


『お別れを言えなくてごめんなさい。風太君のせいじゃありません』


 少ししてそんな手紙が届いても、風太は信じる気にはなれなかった。

 僕のせいだ。全部、僕のせいなんだ。

 そう思って内にこもった。


 女子が話しかけてきても全部無視した。

 告白なんて冗談じゃない。


 椿ちゃんをイジメていたかもしれない奴らと付き合えるわけがない。

 中学生になり、風太は相変わらずモテたが、ほとんど女の子と関わることはなかった。

 同じ学校の女子はそれほど多くなかったが、問題はそこではなかった。


 大好きな椿ちゃんを不幸にした自分には彼女を作る資格なんてない。

 そんな風に思っていた。

 それに、もし別の誰かと付き合っても、同じように不幸にしてしまうかもしれない。


 だから僕は、一生彼女は作らない。

 そう思っていたのだが。


 †


「皆さん初めまして。転校生の月島椿です」


 高校二年生の頭、風太のクラスに引っ越したはずの椿が転校してきた。


「じゃあ、月島さんの席は花巻君の隣ね。花巻君、仲良くしてあげてね」

「……はひ」


 狐につままれたような心地で風太は返事をした。

 あの頃よりも百万倍可愛くなった椿は、素知らぬ顔で隣に座った。

 ……もしかして、同姓同名の別人?

 そんな風に疑う風太に、無表情で椿は言った。


「強くなって帰ってきました。もう誰にも負けませんので、もう一度風太君の彼女にして下さい」

「……はい」


 うっかり風太は言ってしまった。

 クラス中の女子が悲鳴をあげた。










―――――――――――――――――――


本作は現在連載中の【訳ありイケメンが彼女を作ったら、あたしも好きだったのにと美少女達が修羅ばりました。】のリメイク作品になります。同作と似た展開、似たキャラクターが登場しますがご了承下さい。

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