アデライン達

 僕は爆発と揺れに起こされて目を覚ました。すぐに身に危険が及んでいることを感じとって、飛び起きる。

 椅子に掛けてあった新しく用意してくれていたジャケットを羽織り、枕元に置いてあった銃を手に取る。それからテーブル上に並べて置いてある三つのET2oolを取ってジャケットのポケットの中に突っこむと、すぐに扉まで駆け寄った。まずは外の状況を確かめようと、扉越しに聞き耳を立てる。

 

 外から聞こえる、何発も響き渡る銃声。左手で銃を構えながら動かしづらい右手でドアを開けようとノブを掴む。しかし上手く回らない。指を動かす器用さ、力加減、どちらも難しい。こんな手で自分の身を守れるのかと不安になる。ゆっくりとドアノブを何とか回す。開いたドアの隙間から、外の様子を伺う。


 奥の部屋、半開きの扉越しに銃を構えたトマーチン。彼が盾にする扉に向かって銃が何発もぶち当たっている。しかし貫通はしない。ただの木製のドアに見えたが、中に鋼鉄でも仕込んでいるのか。

 

 彼は扉から顔半分と銃口を覗かせ、エレベーター側に向けて何発も銃を向けて撃つ。何発か彼が撃ったところで、彼に向かって放たれていた銃弾の雨が止んだ。

 

 僕は扉から少し頭を出してエレベーターの方に視線を向ける。廊下とエレベーターの中に黒い服を着た何人もの男たちが倒れている。苦痛にうめいたり、もがいたりする者は誰一人いない。僕が扉を開ける短時間の間にトマーチンが全員始末したのだろう。


 時間が経過しエレベーターの扉が閉じると上昇を始める。増援がやってくるのだろうか。


「状況は分かる?」


 トマーチンは左手首にはめた腕時計を操作し、その時計に目を近づける。


「外のカメラには黒塗りのバンが五台。まだまだいるでしょうな」

「ここから逃げるのは悪手みたいだね」

「エレベーターの中は、どちらにとっても棺桶となるでしょう」


 一番良いのは、戦力を分散して投入し、敵がエレベーターで降りてきてくれることだ。人を撃ちたくない僕が役に立たなくても、トマーチンが簡単に蜂の巣にしてくれるだろう。

 

 もし一番マズイ状況になるとしたら、なんだ?

 

相手が転移して中から襲撃されることか。その状況は現に起きている。他の部屋から銃声が響いてくることで、事態は悪い方に転がっていると察する。

 

 そこにレニエとクレアラがそれぞれ部屋のドアを開ける、お互いの安否を確認しあう。


「遅くなりました」

「まずいことにルーベス様の部屋に襲撃があった」

「誰も開けれないわけ?」

「あの扉はルーベス様にしか開けることができません」

 

 こんな時にも冷静にレニエは答えてくれる。仮にも自分の主人が危険な目ににあっているのに関わらずだ。

 

 そうなると、そっちの襲撃者はルーベスに任せるしかない。

 問題はこっちにもブレサイアが転移してこないかだ。

 

 停止していたエレベーターが作動を始め、再び下降してくる。

 転移せずにエレベーターを使ってくると言う事はブレサイアじゃなく、外で待ち構えてた連中が降りて来てくれたか。

 トマーチンが腕時計を見ながら呟く。


「これは……思っていたより不味い状況ですな──」

「どういうこと?」


 僕が口を開く前に、クレアラがトマーチンに問いただす。

 到着音を鳴らし、エレベーターの扉が開く。

 中には古めかしいドレスをまとった女達。

 異様なのは、そのどれもが白い陶器のような顔をしていること。

 そして全員が同じ顔をしていたこと──


「相手はアデライン様達です」

 

 トマーチンとレニエが扉から身を乗り出し、手に持ったマシンガンを撃ち続ける。しかし、その全ての弾丸が赤黒い炎に包まれて消失する。アデラインの名前を聞いたことで脳裏に僕の右手を奪ったあの小さな人形の姿を思い出す。トマーチンが一目見てあれをアデラインと呼んだのは、あっちが本来の姿を模した人形だったからだろう。

 

 僕も身を乗り出して、ハンドガンをぶっ放す。しかしトマーチンと同じ結果を迎えるだけで、何の効果もなかった。エレベーターの中から続々と五体の人形が降りて来る。


「元ではあっても、主人を迎えるには手荒すぎるのではなくて、トマーチン」

「しょせん、元ですからな」


 トマーチンが服の懐から手榴弾を取り出し、ピンを抜くとアデライン達の足元に放り投げる。僕はそれを確認すると爆風に備えて扉を閉める。

 

 廊下で爆発が起きる。扉越しに爆音と衝撃が伝わる。

 再び扉を開けて外を確認しようとするが、背後から気配を感じ取る。

 僕は振り返る。爆発を避ける為に、一体のアデラインが部屋の中に転移していた。

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