パーティーへ

 電話を受けてから25分経ったところで、僕はホテルの部屋をこっそりと抜け出した。


 幸いなことに、まだオリビアからの連絡はなかったし、バッドデイも目を覚まさなかった。


 ホテルを出て下まで行くのにおおよそ2分。そしてそれから3分程後、彼女が告げた時間通りに、高級そうな車体の長い車が走ってきて僕の目の前で停車する。

車の後部座席のドアがゆっくりと自動で開いた。


 車の中には仮面を付けた二人の人物。ルーベスとクレアラが向い合せに座っていた。


 運転席側の窓を開けレニエが「お待たせいたしました。どうぞ、お乗りください」と僕に声を掛ける。僕はルーベスの隣に座るのは心理的抵抗があった為、クレアラの隣に腰かける。


 クレアラもそれは予想していたのか嫌そうな顔をしなかった……と思う。

仮面越しだからその心情が本当に当たっているか分からないけど。


「逃げなくて良かったのかね?その時間とチャンスは与えたつもりだが」


「僕が逃げるなんて考えてなかっただろ? 逃げることを考えてたなら、外へ出る時も目隠しをさせてたはずだ」


「あぁ。ガーデニアを見捨てて逃げるとは微塵も考えていなかったよ」


「迷惑な話しね。本人を差し置いて勝手に物事を進められるのは──」


「それでどこへ行くの? ブレサイアの所へ襲撃するんだろ?」


「今回はパーティーへの参加だよ」


「パーティー? ブレサイア絡みじゃないの?」


「いや、ブレサイア絡みだ。どうにもただ祈るだけじゃ飽きたみたいだな」


「司祭だけじゃなく、金を集めるのに長けた下卑た豚みたいな連中もいるのね」


「金を集める才だけで豚と括るなよ。真っ当な資本家の犬もいる」


「どっちでも良いよ。誰かが犠牲にならなきゃさ」


「青臭くて羨ましいな。善意だけで行動できるのは、若くて心が汚れていない者の特権だ」


「私の心は汚れてるって言いたいのかしら?」


「いや、清らかだよ。復讐心を抱えてさえ、いなければな」


 僕は腰に装着したホルスターから銃を二丁取り出す。


「悪いんだけど、これだけしか持ってないんだ。何か貸してくれる?」


「後ろのトランクに積んであります。使い慣れた物とそちらの銃の弾薬はお持ちしました」


「テーザー式のショットガンもあるの?」


「そちらは私もすぐには用意できる代物ではなかったので、アパートへ取りに伺わせて頂きました。その結果、近くに止まっていた一台の車が更に爆発を起こしたことを遺憾に思います」


 いけしゃあしゃあと言ってるが、要はブレサイアの手の物がまだ監視を続けていたから、また同じように吹き飛ばしたってことだ。僕は獲物の心配はなくなったことを知り、手に取ったハンドガンを腰のホルスターにしまう。


「尾行は心配ない訳?」


「尾行は関係ない。やつらの奇跡の力で感知が成功するかどうかだ。お前らの居場所がばれたのもそれが原因だ」


「逃げても意味は無いんだね」


「やつらにその気があればな。奇跡を使うのもタダじゃない。それだけの価値を認められたということだ。光栄に思えよ」


「嬉しくないね。でも、そうだとするとアンタ達の隠れ家も危ないんじゃない?」

「可能性は捨てきれん。一応、呪いの力でジャミングはしているが、こればかりは神のみぞ知るところだ」


「案外、信心深いんだね。意外だったよ」


「誰かを呪うからこそだよ。呪いの力があるなら悪魔が存在するのだろう。そして悪魔がいるから神も存在する。考える道筋は聖職者共とは真逆だがな」


「襲撃はこの四人なの?ロドニーは?」


「アイツは病気がちでな。戦いには向かないから留守番だ」


「もう質問は良いかしら?もし無ければ静かにしてくれると助かるのだけど。私は心を憎しみで満たさないと戦えないのだから──」


 そのクレアラの言葉に僕は口をつぐむ。決して彼女の心に憎しみを満たさせたかった訳じゃない。クレアラの心を乱すことで戦いに影響を与えることを嫌ったからだ。


 街灯が等間隔に並ぶ道路を、軽快に音を立てながら車が走る。夜の闇をヘッドライトが切り裂いていく。


 もう少しすればブレサイアとの戦いが始まる。今度の戦いには始めて隣にバッドデイがいない。そのことが心細さを感じさせた。この車の中にいる三人の力量は知っている。


 僕よりずっと強いだろう。バッドデイに引けを取らないか、それよりも強いのかもしれない。それでも信頼の無い相手と共に戦うことに一抹の不安を感じる。


 共闘するとは言ったけど、孤軍奮闘するような気分だ。


 もしかしたらクレアラだって僕の事は守ってくれないかもしれない。


 例えそうだとしても僕はクレアラを守るように立ち回ろう。


 まずは生き残ること。そしてクレアラを守ること、その二つだ。多くは望まない。

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