決意

「私の憎しみを他人に代弁させられるなんて堪ったものではないわ。私は私、貴方は貴方。その内に抱えるモノによって生き方を決めるべきね」


「クレアラはそんな生き方を望んでいるのか?」


「えぇ、そうよ。私にはそんな生き方しか残っていないもの」


「さて十分に涙を流したところで本題に戻ろうじゃないか。アイリー。お前もブレサイアを一緒に狩らないか?」


 真相を語り終えたところで、再びルーベスが僕を仲間に加えようと声を掛けて来る。


「私はやっぱり反対よ。人を殺せない人間は足手まといになるもの」


「お前もまだ、人は殺していないだろ?人はな──」


「私は殺すわよ。私の邪魔をする気があるのなら」


「どちらにせよ──人を殺せていない時点で、俺から見たら同類だよ」


「断ったらどうなる?」


 念のために、僕が断った場合の今後について尋ねる。


 復讐の為に戦うのは断りたいとは思う。けど……クレアラの存在が邪魔をする。


「こうして会うことは二度とないだろう。ブレサイアを狩り続けていれば、どこかでまた巡り会うかもしれんがな」


「君の協力者は乗り気ではないみたいだから、この件からは一切の手を引くだろう。それは私達としてはどちらでも良い。しかし君の事となると話は変わる。一族の血を引く者だ。望む気があるなら迎え入れよう」


 ロドニーの言葉通り、バッドデイは逃げ腰になっている。彼らからの依頼だけでなく、今後はブレサイアに関する依頼も断るかもしれない。でも、僕の心としてはブレサイアを放っておきたくない。僕が見過ごすことで、どこかの誰かが犠牲になるのは気分が悪い。


「猶予はいつまで?」


「今だ。即断できる判断力がない者に背中を預けたいと思うか?」


 ルーベスのその言葉が、僕の気持ちを後に引けない所まで後押しする。


「──分かった、協力するよ」


 心のそこから決心は固まっていなかったけれど、僕はそう返答した。


「命を懸けてもらうことになるぞ」


 ルーベスが念を押すように僕に問いかける。


「良いよ。今までと違いはないから」


「それでは歓迎しよう。メリーデッド家へようこそ」


 相変わらずロドニーは笑顔を崩さずに、柔らかい口調でそう僕に告げた。


「この先はどうしたら良い?」


「余り勝手に出歩いてもらっては困る。ここに滞在してもらうことになるな」


 僕がここに来るまでにも慎重を期していた。ルーベスがそう考えるのも当然だろう。


「良いよ、それで。でも自分の荷物を取ってきたいのと、別れを告げたい場所がある」


「荷物に関しては却下だ。わざわざ、敵に見つかるような場所に飛び込んでもらっては困る。別れを告げる場所については許可をしよう。同行者をつけるが、構わないかな?」


 一度襲われた場所に戻るのは得策ではないのは確かだ。


「分かった。車で送ってくれるんだろ?その方が助かるよ」


 それに、まだ完全に信用して貰えないのも当然だろう。僕だって彼らを信用していないのだから。僕はルーベスの言葉に素直に応じることにした。


「ではレニエを呼ぼう」


「いや、私が車を出そう。こんな陰気な所ばかりでなく、たまには外へ出ないと心身共に腐ってしまうからね」


 ロドニーが椅子から立ち上がりながら、ルーベスに話しかける。


「体に障らないか?」


「戦うのはともかく、車の運転すらできないと本気で思っている訳ではないだろう?」


「──俺は構わんよ。ロドニーがそう望むのなら」


「あぁ、たまには外に出ないと気が滅入りそうになって仕方がないんだよ。君らは夜な夜な狩りに出かけているから、気を晴らすことができているかもしれないけどね」

「分かった。ではガーデニアも同行者として付けよう」


「どうして私が?」


「ルーベスは積もった話もあると思って気を利かせてるのさ、君らにね」


「嫌がらせの間違いじゃなくて」


「監視をしろと言うことだ。ブレサイア達が何か感づくかもしれん」


「分かったわ。でも無駄に動く気はないわよ」


「それで構わん」


ガーデニアが服のポケットからリモコンを取り出しボタンを押す。隠れていた場所から電動の車椅子が走ってきて彼女のそばで動きを止める。電動車椅子に自ら移動する。


「何かしら?」


「動けるのにどうして車椅子を使う必要があるのかと思って」


 僕は率直な疑問を口にした。


「この手足がどうやって動いているのか知らないでしょ。これは呪義手と言って、呪いで動く呪いの人形の手足なの。これは私の憎しみで動いているのよ。だから無駄なことに力を使う気はない。説明はこれで十分かしら?」


「それもカーシアって奴の呪いの力なの?」


「そうよ。簡単に言えばね。──では行きましょう」


 一人先に車椅子を走らせるクレアラ。扉の傍で待機していたトマーチンがドアを開き、「行ってらっしゃいませ」とクレアラを見送る。ロドニーも後を追って歩き始める。僕も遅れて彼らの後を着いていく。トマーチンの横を通り過ぎる際に、僕にも「行ってらっしゃいませ、アイリー様」と彼は見送った。そしてゆっくりと音を立てないように扉を閉めていく。


 レニエがエレベーターの脇に立ち、エレベーターを待機させている。クレアラはもう中に入り、僕らが来るのを待ちながらこちらを見ていた。器用に車椅子を反転させたのだろう。後ろ向きではなく前向きで止めている。


「二人を連れてドライブしてくるよ」


ロドニーがレニエの隣に歩み寄り、彼女に声を掛ける。


「かしこまりました。それでは鍵をどうぞ」


 彼女はエプロンドレスのポケットから鍵を取り出し、ロドニーに手渡した。


僕とロドニーも後から続いてエレベーターに乗り込む。真ん中を陣取ったクレアラが降りる際の動きを邪魔しないように、僕とロドニーは端に寄る。


 レニエも「行ってらっしゃいませ」と見送りの言葉を僕らに告げると、外から内側のパネルを操作し、エレベーターの扉を閉めた。

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