血縁

「呪いってなに?」


 人を呪うとはよく聞くが、実際に見たことはない。


 僕はもう少し詳しく聞きたいと思い、彼に問いかける。


「昨日、見せたはずだ」


 彼はジャケットのポケットから、昨日も見たミニチュアの樽に人の首を覗かせたおぞましい物体を二つ取り出し、手袋をした手の平の上で転がす。


「それが呪いの力なの?」


「ET2ool【エグゼキューショナー&トーチャー・ツール(イーティーツール)】と言うおもちゃだよ。ブレサイア共を拷問し処刑する為のな。名前はシュランケンだ。こいつらが奪った祝福を含んだ血を逆に利用している。このようにな──」


ブラインドマンが袖をまくる。腕には機械のようなものが装着されていた。機械には赤黒い血液が詰められたシリンダーが装填されている。


「樽に詰められた血の祝福を呪いに転化させた、ブラッド・カスクと呼ぶものだ」


 ブラインドマンが二つのミニチュアの樽をポケットに入れると、干し首状態になった首に剣のたくさん刺さったミニチュアの樽を僕に見せる。


「血が抜けきるとこうなる。これはもうゴミだな。もうすぐ塵になって消える。だから新しいものが二つも手に入って満足している」


「えげつないね」


「こいつらの所業に対して、ふさわしい扱いをしているだけだ」


「君の、髪飾りも?」


 向かいに座るガーデニアに声を掛ける。


「えぇ、そうよ。彼は赤の三日月って呼んでるわ」


「おもちゃには何かしら名前があってしかるべきだからな」


 トマーチンが現れ、再び右側に立つ。僕の前にグラスを置き、持ってきた瓶入りの水の栓を開けて、丁寧にグラスの中に注いでいく。注ぎ終わると瓶を持ち、トマーチンは離れた。


「おもちゃの話しはそこまでにして、本題に入ろうか。その前に名乗っておこう、私の名前はロドニーだ」


 本名かは知らないが、ロドニーと名乗った赤いジャケットの男が笑みを浮かべ、本題に切り替えるように促す。


「それで僕をここに連れてきた理由は?」


 まさか昨日のお礼を言いに、わざわざここへ呼び寄せた訳もないだろう。


 僕もロドニーの言葉に乗っかり真意を訪ねた。


「なに、簡単な理由だよ。私達と共にブレサイアを殺さないかい?」


 彼は笑みを崩さず、物騒な言葉を口にする。


「それは、僕じゃなくてバッドデイに言った方が良いね。僕よりバッドデイの方が役に立つ」


 僕を招待したか、さっきの言葉だけじゃ真意が掴めない。


「ソイツが役に立つのは知っている。が、戦う理由はそれぞれだ。彼と我々では意気投合できん。だがお前は違う。我々と同じ復讐者になれると見込んで声を掛けている」


 どうやらブラインドマンはバッドデイを仲間に加える気はないらしい。


 僕のことを同じ復讐者として見込んでいるようだが、相変わらず真意は見えない。僕の何を知って、そんなことを言っているんだ?


「アンタ達は復讐の為だけにブレサイアを狩ってるのか?」


「そう──我々が奴らを狩るのは至極簡単な理由。単なる復讐だよ」


 ブラインドマンがうなづき、そう答える。


「君もか?」


 ガーデニアにも声を掛ける。


「えぇ、そうよ。素敵な理由でしょ?」


「私は妻を奴らに殺されてね。まぁ、愛してはいなかったが──」


 過去を語り出そうとするブラインドマンの話には興味はないので、僕はそれを遮る。


「アンタ達が復讐を理由にブレサイア達と戦いたいなら、別にそれで構わない。でも僕が戦う理由は違う。子供達を救いたいからだ。養護施設から消えた子達や、今もどこかで奴らの犠牲になるかもしれない人達を救いたいから、僕は戦うことを決めた」

「交渉決裂ね、ルーベス。これで満足したかしら?」


 ガーデニアがブラインドマンのことをルーベスと呼ぶ。


 昨日の依頼した時の名は偽名じゃなかったのか。


「名前を呼んでくれるなよ、ガーデニア。それと交渉の席はまだ続いている。お前にも復讐する権利はあるのだよ。気がついてないだけで、いくつもな──」


「それをアンタは知ってる訳?」


 自分について知らないことを相手が知っている風に言われるのは嫌な気分だ。

しかし、その内容に興味が湧き尋ねてみる。一体、僕の何を知っているというのか。

「そうだ、お前が知らない理由も俺は知っている」


「じゃあ、教えてくれる?」


「あぁ、教えてやろう。昔、昔、あるところに一人の醜い顔の男と、酷く愚かで献身的な女がいてな──」


「退席しても良いかしら?陳腐で退屈な色恋の話には興味はないのだけど」


「そう言うなよ、ガーデニア。陳腐であることは事実だが──」


「ルーベスは君が養護施設を出てからずっと探していたんだよ」


 会話に割り込んできたロドニーの告げた内容が僕を驚かせる。


 昨日今日で僕のことについて調べた訳じゃなく、もっと昔から知っていることに。


「どうして養護施設の時の僕を知っている?」


 彼らとは一度もあった記憶がない。三年以上前はだいぶ昔の話だが、会っていれば覚えている。いくら小さかったからとは言え、そこまで記憶力は悪くない。


「あそこは俺達が資金を提供しているところだからな」


 それは初耳だった。でも、そこに居る子供の事なんて一人、一人覚えているものか?


「それだけじゃないだろ。ルーベスにしては迂遠な言いかたをしているが、緊張でもしているのかい?」


「あぁ、ロドニー。感動的な場面は苦手でな──」


「素敵ね。酷く虫唾が走るわ」


 冷たく言い放つクレアラの言葉を無視して、ルーベスは再び口を開く。


「さっき俺の言った復讐理由が、そのままお前の復讐する理由だよ。その妻の愛した息子、アイリー・メイスフィールド」


 言葉少なく語られたその中に、衝撃の事実がいくつもあり僕の頭を混乱させる。


 僕の本名、復讐理由……正直頭が一杯だ。


 それに……


 今アイツは、自分が父親だと名乗ったも同然の言葉を口にした。

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