第三十八話「突撃」

「これで十七人目っと……」


 僕は言いながら、倒れている盗賊の男を魔法鞄の中に放り込む。

 十七人目というのは、これで捕まえた盗賊の数が十七人に達したという意味である。

 つまり、僕のこの小さな魔法鞄の中には既に十七人の盗賊が捕まっている。

 とはいっても、僕とハンナの力だけで盗賊達を捕まえたわけではない。

 捕まえた盗賊達を気絶させたのはマリリンさんである。


 僕とハンナが砦の中を歩き始めると、道中で何度も盗賊が倒れているのを発見した。

 盗賊の服に白い毛が付着しているのを見るに、明らかにマリリンさんの仕業である。

 どうやらマリリンさんは、この砦の中を暗躍しながら見張りをしている盗賊を根こそぎ気絶させているようだ。

 道中で出会う盗賊は全員気絶しているため身構えているのも馬鹿らしくなってきて、僕は風魔剣も魔法鞄に納め、気絶した盗賊達を魔法鞄に放り込む作業にだけ集中していた。


「マリリンさんがみんな倒しちゃったんだよね?

 本当にすごいね……。

 でも肝心のマリリンさんはどこに行っちゃったんだろう?」


 ハンナは周りをキョロキョロ見回しながら言う。

 確かに、マリリンさんはどこに行ってしまったのだろうか。

 そろそろ砦の中の探索もほとんど終わり、あと残すは中央にある盗賊の本拠地と思われる大きな屋敷だけなのだが……。

 そう思いながら僕は歩を進め始めると、中央の屋敷が見えてきたところで白い影が見えた。



「にゃ~ん」



 巨大猫と化したマリリンさんだった。

 マリリンさんは僕たちが来るのを待っていたようで、屋敷の門の前に座っていた。


「マリリンさん、お疲れ様です。

 道中マリリンさんが倒してくれていた盗賊達は、僕の魔法鞄に全員捕まえておきましたよ」


 魔法鞄に盗賊達を捕まえておいたことを伝えると、マリリンさんは満足そうに頷いた。

 そして、マリリンさんは身体からバキバキと骨が軋むような音を鳴らし始める。

 音と共に身体を縮めるマリリンさん。

 白い体毛が薄くなっていき、そのマリリンさんの健康的な肌色の身体が見え始める。


「お疲れ様にゃん、コットく~~ん!

 相変わらず、その鞄は便利だね~~!」


 巨大猫から人の姿に戻ったマリリンさんは、開口一番に元気に言った。

 そんな元気なマリリンさんに、いち早く反応したのはハンナだった。


「マリリンさん!!

 服着て! 服!!」


 そう。

 マリリンさんは服を一切着ていなかったのである。

 つまりは、全裸だ。

 マリリンさんの豊満なボディが全て露わになってしまっている。


「あー、服~~?

 さっき変身したときに道端に置いてきちゃったから、服はもう無いんだよね~~。

 にゃっはっは~~!」


 後頭部をぽりぽり掻きながら、無邪気に笑うマリリンさん。


 相変わらずである。

 マリリンさんは巨大猫になるとき、身に着けている服が破けないように全裸になってから変身する。

 そのため、巨大猫から人間に戻るとき、いつも着る服が無いという問題に直面する。

 本人は全裸を見られることに躊躇いがないのか、普通にそのままでいようとするが、見てる僕としては居ても立っても居られない。


「マリリンさん!

 服です!

 マリリンさんが脱いだ服は、僕が拾っておきました!

 着てください!」


 僕は顔をマリリンさんから背けながら、服だけ魔法鞄から取り出してマリリンさんの方に手渡す。

 ブラックポイズン時代に一緒に仕事をしたこともあり、マリリンさんが巨大猫化するとこういった問題が生じることは知っていたので、あらかじめマリリンさんの服を回収しておいたのだ。


「流石、コットく~~ん!

 ありがとにゃ~~ん!」


 マリリンさんはニコニコしながら僕から服を受け取り、着衣し始めた。

 すると、ハンナが僕のことをじとーっとした目つきで見ていることに気づいた。


「コット。

 なんでマリリンさんの服を持ってたの?

 もしかして、そういう趣味……?」


 そのハンナの視線は、まるで汚物を見るかのように冷めたものだった。


「いやいやいや!

 マリリンさんの能力を知ってたから回収しておいただけだよ!

 流石に裸でいられたら困るしさ!」


 僕が焦りながら弁明している間に、どうやらマリリンさんは服を着終えたようだ。


「まあまあ、ハンナちゃ~~ん。

 コット君にそういう趣味があってもいいじゃにゃ~~い。

 今度ハンナちゃんの脱ぎたての服をコット君にプレゼントしてあげたらどうかにゃ~~?」


 マリリンさんは、にやにやしながらハンナに言う。

 面白がっているだけなのがばればれである。

 というか、人を女の子の脱ぎたての服を欲しがる変態のように言わないでほしい。


「コットに私の脱ぎたての服をプレゼント……。

 それはそれであり…なのかな……?」


 マリリンさんの提案を聞いて、真剣な面持ちでぶつぶつと呟くハンナ。

 ハンナがどこまで本気で言っているのか分からないが、もう僕はこの話題について話したくない。

 僕はぶつぶつ呟くハンナを無視して切り替えることにした。


「マリリンさん。

 砦の中の盗賊は全員倒し終えたようですし、あとはあの本拠地と思われる建物だけですね」


 僕が言うと、マリリンさんはすぐに仕事モードに顔つきが切り替わる。

 マリリンさんは普段ふわふわしているが、仕事のオンオフはきっちりとしているタイプなのだ。


「そうだね~~。

 さすがに建物の中は猫の姿だと大きすぎて入れないかもしれないから人型に戻ったにゃ~~。

 ここからは猫のときみたいに簡単にいかないと思うから、二人とも気をつけてね~~」


 マリリンさんの言う通り、マリリンさんが人の姿に戻ったことで先ほどまでのように簡単には盗賊を倒せなくなるのは確実だろう。

 先ほどまでは暗闇の中で相手に気づかれる前に先制する夜襲だったから良かったが、建物の中だと明かりが灯っている可能性が高いので夜襲の効果は薄い。

 ここからは完全に武力の衝突になることが予想される。


「分かりました。

 正面突破で行きますか?」


 僕は風魔剣を構えながらマリリンさんに尋ねる。

 僕の風魔剣であれば、あれくらいの木製の門であれば簡単に破壊することはできるだろう。


「そうだね~~。

 じゃあ、この門はコットくんに任せるにゃ~~」


 マリリンさんは猫人族特有の鋭い爪をむき出しにしながら言った。

 後方では、ハンナも神聖術で光を手から放ちながら構えている。

 二人を見て僕は頷く。


「じゃあ行きますよ!!」


 僕は叫びながら風魔剣を振り上げる。



 ズドオオオオオオン!!



 風魔剣から放たれた風の刃が門に勢いよくぶつかった。

 ガラガラガラと音を立てながら崩壊する門。

 すると崩壊した門の先に、十人くらいの盗賊達が横並びでこちらに光る両手を向けながら現れた。



「全員、魔法を放てえええええ!」



 盗賊達の両手から僕たちに向けて、一斉に魔法が放たれた。

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