第24話 魔剣士が神と対峙したら

 「……は?何やってんだよ、ジュシュア」


 吹き飛ばされ、壁に体を預けるようにグッタリとしたその姿は、初めて彼を見た時とは全く違う、想像もしたことの無い姿だった。


 そして彼の背にはぶつかった後に大量の血が壁にまるで爆発したかのようにべっちゃりとついている。その出血量は途方もないものだった。


 俺がそんなジュシュアの信じられない姿に唖然としていると、ジュシュアは目を細く開けて、ゆっくりと口を開いた。


 『……しくじった』


 そして彼はそう一言残し、その後動くことはなかった。


 「おい、ジュシュア……?」


 『……』


 問いかけても、何も返ってこない。ドラゴン特有の自信たっぷりのその声はなりを潜め、あるのは静寂だけ。


 「っ!?」


 そして俺は、彼の体が少しずつ灰となっていっていることに気づく。それでようやく俺は既に分かっていたが無意識に目を逸らしていた事──ジュシュアが死んだと言う事実に気付かされた。


 「……本当に、死んだのかよ……おい」


 《何を当たり前のことを言っている?》


 「……っ!」


 後ろから何かが風を切るような音がし、すぐにその場を離れる。


 直後。


 「っ!?」


 ジュシュアの死体が粉々に消え去ってしまった。


 「貴様……!」


 《ふん、神に対し貴様とは……ずいぶんな言い様だな。お前も消えろ》


 「っ!?真空斬!」


 俺は即座に自分に襲いかかってきた風の刃を真空の刃をぶつけて相殺させる。奴が俺のことを舐め腐っていてよかった。この攻撃はさっきジュシュアの死体を粉々にしたのと同じものだったが威力がさっきよりもだいぶ抑えられていた。


 《これくらいはできるか。まぁ、無意味に生き延びたことで、より苦しみを味わう羽目になるのだがな》


 「へっ、やって見ろよ。俺は今、意外にも情がある事に気づいてムカついてんだ……!ストレスの捌け口にさせてもらうぞクソ神がアアアアア!!!」


 《黙れ》


 「紫黒一閃!!」


 奴から放たれた、先ほどとは違う巨大な炎の塊を俺はまた一刀両断する。


 この攻撃もきっと威力を抑えたものなのだろうな。ムカつくが、今の俺の最大火力をぶつけてもこいつを殺すことはまず無理だろう。


 「何がなんでもお前を殺す!」


 《諦めろ》


 奴はさっきの風の刃を、今度は大量に生み出し俺に向けて発射させた。


 「身体強化……!」


 俺は脳に魔力を流す。そして視界の全てがゆっくりとなると次に足に魔力を込めて一気に駆け出す。


 風の刃は俺からしたら止まっているも同然だ。だから簡単に避けることができる。


 そして制限時間の10秒になろうとしたところで、俺は奴の首目掛けて、今出せる最大火力をやつに叩き込むため、腕と刀に残りの魔力をほとんど全て流す。


 「紫黒一閃っっっっっ!!!!!」


 《っ!?》


 そして視界に色が戻る。と同時に俺は刀を全体重を乗せて思いっきり振り、奴の首に刃が喰い込ませた。


 今まで余裕そうな表情を俺に見せていて、実際に余裕だと思っていたのだろう、奴の顔は面白いくらいに歪んでいた。


 《貴様……!》


 「油断が、お前を殺すんだ。このまま死ね!!」


 《させぬ……!させぬぅぅぁぁぁアアアアア!!!!!》


 「っっっ!?」


 《はあああああああ!!!!》


 「クソッ!?」


 俺は奴の純粋な魔力の波動によって吹き飛ばされる。が、空中でなんとか姿勢を整え、地面に降り立った。


 そして顔をあげた瞬間、


 「っ!?」


 反射で刀を振るい目の前まで来ていた土の弾丸を弾いた。


 《貴様ァ……タダで死ねると思うなよ》


 「神でもそんな顔するんだなぁ。そう言えば、神って空の上に住んでるんだよな。でもなんでお前はその逆の、ここにいるんだ?」


 《っ!貴様は絶対に殺す!!!》


 「神が聞いて呆れるなぁ!もっと脅威に感じると思ったがそうでもなさそうだなぁあ!!」


 そう叫ぶと同時に俺は壁に沿って駆け出す。そしてとある地点に着いたところで中心にいるやつに肉薄した。


 「オラッ!」


 《ふん!》


 神だなんだとジュシュアに聞いていたが、神なら。それに、そもそも神は合成獣キメラに成り下がれない。魔物という、最底辺に位置する生物になることなどできないのだ。その神性故に。


 神は神以外には成れない。


 だがこいつは合成獣キメラと成ってしまった。その時点でこいつは神を騙った魔物だ。


 だったら、俺がこいつに負けるなんて道理は存在しない。


 ジュシュアだって、本来ならこいつに負けるなんてことはないのだ。


 つまり、ジュシュアが死んでしまうほどの何かを、こいつは持っている。


 それさえ警戒すれば──


 




 「──は?」





 突然奴は、


 俺はそれに反応して、体を止めてしまった。





 《やはり、あのドラゴンも、お前も、こういうのには弱いのな》




 そして強い衝撃が俺の体に加えられ、俺はダンジョンの壁に勢いよく飛ばされてしまった。


 

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