第15話 魔剣士がとあることに気づいたら

 「ふぅ……行くか──っ!」


 その言葉と共に、俺は地面を思いっきり蹴った。


 「グルアアああああああ!!!」


 「……人の声混じってんじゃねえか」


 苦しそうに顔が歪んでるし。あれは多分だが、俺と同じようにあの赤い石板に触れ、ここの合成獣キメラに敗れ死んだ者の慣れの果てなのだろう。


 だからと言って同情はしない。自業自得だ。


 「まぁ、見ていて気持ち悪いからさっさと殺そう」


 と言ってもさっきから攻めあぐねているので、そう簡単にはいかないのが現状だ。だがさっきと違うのは──


 「抜刀、居合斬りっっ!!!」


 「っ!?グルアアああ!?!?!?」


 魔力を流したことで鋭くなったこの刀が強化された奴の肉体を易々と切り裂くことができている、と言うところだ。


 現に、さっき弾かれた足に今度はしっかりと傷をつけることができた。


 この妖刀武蔵だが、このダンジョンに落とされてがむしゃらに合成獣キメラらと戦っていく中で気づいたことなのだが、こいつは魔力を吸えば吸うほど切れ味が増すのだ。


 正に妖刀。


 おっさんはただの刀だと言っていたが、嘘じゃないか。


 「まさか、斬った相手の魔力も吸うとは驚いた!」


 但し弾かれなかったらという条件付きだが。そうだとしても強すぎる。しかしその事に気づいた瞬間、俺は一気に冷静になった。


 (いや待て……!こんなこと、!?)


 切れ味が増す、だなんてここに落ちる前にあっただろうか。いや、新緑のダンジョンの前でベリアと一緒にハイウルフと戦った時も、10層で合成獣キメラと戦った時も、そんなことは一度も起こらなかったはずだ。


 「……もしかしてこの──いや、考えるのは後だ。雑念を捨てろ」





 深呼吸。





 「ふっ!」


 「グルッ!」


 俺が刀を振うと、それに対抗するために奴は爪でそれを防ごうとした。が、それは俺の狙い通りだった。


 (見極めろっ……!)


 俺は視力を強化し、爪のとある一点を見つけ出す。そしてそこを狙うように刀を振るった。


 「おらっ!!」


 「グルァ!?」


 さっき刀で傷をつけた箇所にもう一度、切れ味の増したこれを当てる。すると面白いくらいスパッと、力入れずとも簡単に斬れてしまった。


 合成獣キメラの爪はダンジョンの壁を叩いても傷一つつかない強度を誇っている。故に普通だったら爪を斬ることは不可能に近い。だが、予め少しの傷が付いていたら。その上、十分な鋭さを持った得物でそこを突けば。このように斬れるということだ。


 「真空斬!」


 「グゥラアアア!!」


 爪がなくなり真空斬に対応できないと踏んだからか、奴は飛んで後ろへと向かった。そこへ俺は身体強化で強化された足でその着地地点へと向かい、奴の真下で鋒を上に向けつつ刀を持っている方を下げ、刀身に刀を持っていない方の手を添えた。それはまるで、弓を放つ瞬間のような構えだった。


 




 「──天穿あまうがち





 そして俺は妖刀武蔵を一気に突き上げた。その瞬間、一本の紫の光が奴に向けて放たれ、目に見えない速度で奴の心臓を正確に貫いた。


 「グルアアアアアアア!?!?!?」


 「っ」


 そしてすぐにその場を離れると、直後にさっきまで俺がいた場所に合成獣キメラが落ちてきた。


 瞬間、ドシンと強烈な音と共に地面が揺れた。そして静かにその姿を細かい魔力へと変わっていった。ダンジョンにいる魔物は魔力がその体の8割を占めているからな。死ねばこうして魔力に還るのだ。


 「ふぅ……出来た」


 このダンジョンに来る前に読んでいた刀教本・極。それに載っていた技の一つ、天穿あまうがち。実は10層のボス部屋までの道中で適当な魔物相手に練習を繰り返していたのだ。だからできる確信はあった。それがこいつに効くかどうかは別として。


 にしても……貫通力特化のこの技なら、防御の高い敵にも対応できることが分かった。これはかなりの収穫だろう。


 「……さて、ここから更に合成獣キメラが来るのは困るんだが……この様子だと来ない、か?」


 だが警戒を緩めるなんてことは絶対にしない。俺はさっき合成獣キメラが出てきたところをじっと見つめながら、構え続けた。


 「……大丈夫そうだな」


 そしてしばらくして出る様子が見られなかったので、俺は静かに構えを解いた。


 これ以上来ると流石にきつい部分があったので助かった。魔力的にも体力的にも底をつきかけているところだ。この状態で更に戦うとなると、それは本気の死を覚悟し始めないといけなくなる。


 「取り敢えず休憩するか」


 俺は地面に座り、鞄から水を取り出し飲む。幸い合成獣キメラを殺した時のドロップ品として魔力を流せば水が出る水筒が出ていた。なのでそれを有効活用させてもらう。本当に助かった。


 「ふぅ……落ち着くなぁ」


 落ち着けばその分思考が回る。そして一つ気付く。それはここに来て一度も合成獣キメラ以外の魔物を見ていないという事だ。


 「ここは、そういうダンジョンなのかもな」


 ダンジョンの中にはとあるテーマに沿って創られるものが存在する。例えば、ゴブリンだけ、というテーマのダンジョンがあるとすれば、ダンジョンに出る魔物はゴブリンだけになる。また、ポーションがテーマのダンジョンだったら、ドロップアイテムが全てポーションになる。


 と言った形で、何かしら偏ったダンジョンとなるのだ。そしてこのダンジョンは合成獣キメラに偏っている。


 「この先も、合成獣キメラが出てくるのかなぁ……」


 そんな荒唐無稽な話はないだろう。だが、少しでもその可能性があると思うと、俺の背筋に悪寒が走った。


 「……次はさっき以上に気を付けないと」


 俺は水を飲みながらそんな決意をするのだった。

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