第7話 魔剣士がダンジョンを進んでみたら

※今日は2話更新しております。第6話を読んでいない方はそちらを先にお読み下さい。 



 暗い洞窟の中を二人で進んでいく。このダンジョンにはトラップがないため襲ってくる魔物だけを警戒していればいい。


 「そう考えるとやっぱりこのダンジョンは楽だなぁ」


 勇者パーティにいた時に攻略したダンジョンをふと思い出した。魔術師のカレンがトラップを解除しようとして発動させてしまったり、魔物が幾度となく襲ってくるモンスターハウスの中に間違えて聖女のアイシャが入ってしまったり。


 「行ったことあるの?ダンジョンに」


 「ああ。昔な」


 「ふぅん……知りたいなぁ」


 「なんで?」


 「だってリオン、ここに来る前の話とかしたことないじゃん?」


 「そりゃあ、話す必要がないからな。別にいいだろそれくらい」


 「私は気になるけどね……どうしてA級以上の実力があるのにC級なのか、とか」


 「それは、まだ冒険者になってから一年しか経ってないからな」


 「でも一年でC級になるのって異常だけどね。それほどの実力があったってことでしょう?つまりそういう仕事についていたってわけだ」


 ここで国に追われてる身って言ったらこいつは果たして信じるだろうか……なんだか信じそうだな、こいつは。なんだかんだ言って頭いいし。

 

 「ま、想像にお任せするぞ。さてと──来るぞ」


 「っ!?」


 「ギャギャッ!」


 「ふっ!」



 ガキン!



 俺はすぐさま刀を抜いて正面から来た魔物の攻撃からベリアを守る。金属が擦れあうような音を立てながら俺は魔物と睨み合う。


 「ゴブリンソードか」


 「それって確か、Cランクの!?」


 「さっきのハイウルフと同じだな」


 このダンジョンでは平気でCランクの魔物がやってくる。と言うより、出てくる魔物の最低ランクがCなのだ。なんせ、ボスが個体によってはSランクになるやつなんだからな。それくらい当たり前だ。

 出てくる魔物一体一体の質が高いのがこの新緑のダンジョンだ。


 「よく鍔迫り合いができてるよね、ゴブリンソード相手に。確かそいつって平均男性の50倍の力とかあるって言ってなかったっけ?」


 「お、よく覚えてるな。そうだ。まぁ体感だけどな。ていうか、さっさと攻撃してくんない?」


 「あ、うん」


 そんな気の抜けたような返事をした直後にベリアは回り込んで、ゴブリンソードにメイスを叩きつけようとした。


 「ギャッ」


 しかし、ベリアの攻撃は既に気づかれていたためにあっさりと避けられてしまう。


 「ギャギャッ!」


 そしてゴブリンソードは離れたところからベリアに向かって中指を器用に立てた。笑いながら。きっとさっきの攻撃がお粗末だと言いたいのだろう。“バレバレだし、わかりやすいし、遅いし”とか思ってるのだろう。


 分かりやすい挑発だ。


 「…………ホーリーブラスト」


 そんな挑発に、ベリアは三段魔術で答えた。ゴブリンソードに向けたメイスから放たれる純粋な光の大砲。周りを巻き込みながら放たれたそれに、奴は自分が攻撃されたことを認知できずにこの世を去った。

 そして残ったのは魔術が通った後だけ。それもダンジョンが修復して綺麗さっぱり無くなった。


 「……」


 そんなベリアに俺はなんと声を掛ければいいのかわからなかった。だって、全身から炎みたいなオーラを放ってるように見えるんだもの。きっと見えないやつは鈍感か、人の感情がわからないやつだと思う。それほどまでに怒っていることがわかった。


 「リオン」


 「はい」


 「今度ゴブリンソードがいたら、私に殺らせて」


 「……はい」


 それからベリアはゴブリンソード絶対殺すマンとなってしまった。そんな彼女に俺は久々に命の危機を感じてしまった。





 それから俺たちはさらに奥へと進んで行き、遂に2層に繋がる階段を見つけた。

 俺たちは臆することなく階段を降りていく。そして歩くこと10分、俺たちは水溜りに滴が落ちる音が洞窟内に響き、暗闇が場を支配する静寂な場所へと辿り着いた。


 「ここが、2層か」


 「ライト」


 着いてすぐにベリアは光魔術の初歩であるライトを使い、俺たちの周りを照らした。俺たちはただ一つの光を頼りに、一本道を進んでいくと、少しずつ奥から光が見えてきた。


 ベリアはそっとライトを消して、俺たちは光の方へと進んでいく。

 そして徐々に暗闇が晴れていき、ついに一本道を抜けた。その時、一際大きな光を受け、その眩しさに目を瞑ってしまった。それでも俺たちは進み続け、眩しさが和らいでいったところで目をそっと開ける。その瞬間、俺たちの目に飛び込んできた光景に、一瞬言葉を失ってしまった。

 


 「……すげぇな」


 「……そうね」



 俺たちの目の前に広がる光景は、まさに新緑のダンジョンと呼ばれる所以がそこにあった。

 木々の間から差し込む柔らかな陽の光と一目でわかるほど生き生きとしている植物たち。ピクニックで訪れるにはうってつけな場所と言えるだろう。何より、風がとても気持ちいい。


 「はぁ……」


 「いいねぇ……」


 俺たちはしばしの間、この場で止まってこの自然を感じていた。さっきまでずっとジメジメした暗いところでストレスが溜まっていたのだ。


 「魔の森は木が多すぎて太陽の光なんて感じられなかったからなぁ……」


 「そうだねぇ……確かにここまで来る道中はウザかった」


 特にゴブリンソードとか、と続けた彼女はその時のことを思い出したのか、不機嫌になっていた。どうやら未だに引きずっているようだ。


 「よしっ。今日はここあたりでテント張るか」


 「もうここに入って大体3日くらいよね?3日で1層攻略って考えたら地図見ながらでも結構遅い気がするけど……」


 「初めて入るとこだからな。明日からはもっとペースを上げよう」


 「おー!」


 その後俺たちは1層毎の攻略するペースを早めた。ここまでで彼女の実力は大体知れたので、そのくらいはできると判断したからだ。


 彼女は魔術師としてはかなり上の実力を持っていて、尚且つメイスを使った近接戦闘にも長けている。まぁ、メイスでの戦闘はD級冒険者並だが、魔術ならB級レベルだろう。よくもまぁ、シスターなのにそんな実力を持っているものだ。俺は思わず感心してしまった。


 彼女と出会ってから一年位経つが、ほとんど街の中の、それもいつも飲んでいる酒場でしか会っていなく、街の外で会ったのはあの時が初めてだったのだ。その時はとても驚いたものだ。


 


 そして俺たちがこのダンジョンに入って17日が経った。



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 明日は17:00に第8話、18:00に第9話を投稿します。

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