第53話「ボスの新規実装」

「お兄ちゃん、ボスが新規実装されたので一緒に戦ってくれませんか?」


「無茶を言うなよ、今回の『デモンロード』はレベルカンストパーティでも負けるらしいぞ、お前のレベルで勝てる分けないだろう」


 新ボスが実装されたものの未だ討伐報告は数えるほどしかない。制作陣曰く『ヘビーユーザにも歯ごたえを感じてもらえるボスにした』とのことだった。要するに廃人使用に合わせましたって事だ。


「ギルマス! 新ボスを倒しに行かないかしら?」


 直通チャットからオープンチャットで音声が流れてくる。マクスウェルはボス討伐を目指しているようだ。


「あのボスはカンストしていないと無理……」


「だから行くのよ!」


「はい?」


 コイツは勝てないのを知っているのか? その上で勝負するだと?


「多分勝てないぞ?」


 マクスウェルは何を言ってるんだという顔で俺を見る。


「『勝てないはず』のメンツで勝つから楽しいんでしょう?」


「その不屈の精神は買うよ……フォーレが戦いたがっているみたいなんで連れて行ってやってくれ」


「へえ……フォーレちゃんもアイツに挑む気なのね、いいじゃない! 一緒に戦いましょう!」


「え……私はおに……ギルマスと挑もうかと思ってたんですが」


「ギルマスにその気はないみたいだし私と行きましょう! 新ボスを打ち倒すわよ!」


「へ? ちょっと!? マクスちゃん!?」


 マクスウェルに手を引かれてフォーレはギルドハウスを出て行った。早々都合のいい攻略法が見つかるとも思えないががんばってくれ。


「ギルマス、皆レベルが高いんですね」


 蚊帳の外だったメアリーがそう聞いてくる。


「そうだな、ただ、マクスウェルは割と戦闘狂だから基準にするのはやめた方が良いぞ」


「フォーレちゃんもですか?」


 メアリーの意見は一理あるが……


「マクスウェルは戦うのが好きなんだよ、フォーレのやつは勝つのが好きなんだ、微妙にあの二人は違うんだよ」


 妹は勝ち筋のないような勝負はしない、だからこそ俺に頼ろうとしてきたわけだ。


「私はストーリーボスにまず勝たないといけないんだよね……この前は範囲ヒールをやってヘイトを集めて殴られたせいで皆に迷惑かけちゃった」


「ヒーラーやってたのか?」


「うん……回復魔法しかすることがないから楽かなって思ったんだけど……難しいね」


 範囲ヒールは敵のヘイトを集める。安易に使うと敵のタゲがタンクから外れてしまう確率が大きい。


「負けたのか?」


「ううん……タンクの人がすごく上手でね、すぐに挑発を打ってヘイトを稼いでくれたの」


「よかったじゃないか、高ランクになってくると責任問題になってくるんだぜ?」


 戦犯捜しはギスギスするのでやめて欲しいと心の底から思います。勝てたのには理由があるが何の理由も無く運だけで負けることは普通にある。そういうときに『誰のせいだ』と議論を始めるのは不毛な行為なのでやめて欲しいものだ。


「責任探しが始まることがあるんですか?」


 メアリーがビクビクしている、少し怖がらせすぎたかな?


「基本皆優しいから気にするな、戦犯捜しをするのは一部の心の狭いユーザだよ」


「そうなんですか?」


 そこへギルドハウスのポータルからフォーレとマクスウェルが出てきた。


「やっぱり勝てませんでしたねえ……」


「まあこの装備じゃ勝てないってのが分かっただけでも収穫よ」


 前向きに次のことを考えている二人を見て俺はメアリーに言った。


「な? 戦犯捜しなんてしないだろ?」


 俺がそう言うとメアリーはホッと一息ついた。そして笑顔でフォーレとマクスウェルに言う。


「二人とも今度一緒に戦ってくださいね?」


「いいわよ」


「たまには今までのボスの復習もいいですね」


 その言葉を聞いてメアリーはこちらを向いてニコッと笑った。

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