第44話「経験値上昇キャンペーン」

「お兄ちゃん、ちょっとお願いが……」


「やだよ、どうせまた面倒なことなんだろ?」


 妹からの回線にそう断りの言葉を流す。だってコイツの頼む事って面倒なことしかないんだからな。


「私のことではないですよ、メアリーちゃんの話です」


「話くらいは聞こうか」


「私との反応の差に納得がいかないのですが……今、経験値増量キャンペーンをやってますよね?」


「ああ、やってるな。新人歓迎の一環だろ? でもアレって低レベルの人専用のキャンペーンじゃん」


「それが、メアリーちゃんは対象らしいんですよ。それでパワーレベリングを少し手伝ってくれないかなと思いまして」


 メアリー、まさかまだ初心者扱いだったとは……このギルド、レベル不問にしていたから聞かなかったけれどさ……


「分かったよ、場所は? 鉱山? 砂漠? ビーチ?」


「今回はワイルドビーチにしようと思います。あそこならアクティブモンスターに絡まれる心配も無いですしね。私がタンクをやるのでお兄ちゃんはヒーラーお願いしますね」


「分かった、装備を変えておくよ。メアリーを呼んできてくれ」


「了解!」


 良い笑顔で回線を開いていた。メアリーへの直通チャットだろう。少しして部屋からメアリーが出てきた。


「あの……ギルマスのお世話になってもいいのでしょうか? 私はフォーレちゃんに相談しただけなんですけど……」


「気にするな、ギルマスとしてメンバーの育成も役目だからな」


「ありがとうございます!」


 ぺこりと頭を下げるメアリー。そこまで気にするようなことでもないだろう、リスクのあるような話でもないしな。


「じゃあポータル開くぞ」


「はーい!」


「はい」


『ワイルドビーチへのポータルを開きますか?』


 俺は表示されたウインドウに『はい』と答えて目的地へのポータルを開いた。


 そこに三人で飛び込むと平和そうな浜辺に出た。


「じゃあフォーレが釣ってきてヘイト稼ぎは頼むぞ。俺は適当に回復するから」


「了解です!」


「あの……私は何をすれば?」


 メアリーがおずおずと訊くので、俺はシンプルな返答をした。


「ダメージが少なくてもいいから攻撃しておいてくれ。ヘイト稼ぎはフォーレがやるからそっちに攻撃が行く心配は無い」


「は、はぁ?」


 パワーレベリング、それはあまり歓迎されないことではあるのだが、今回の初心者応援キャンペーンではそれが推奨されている。感心されない行為だが、運営が認めているのならやらない手はない。


「サメ一匹お待ち!」


 妹が人食いザメを釣ってきたので俺はフォーレにヒールをかけながらメアリーに攻撃するように促す。ペシと一発入ったところでフォーレの強攻撃でサメはあっという間に沈んだ。


「わ……すごい……レベルが上がった!」


 一発でも殴っていれば先頭の参加者として経験値が入る。このシステムは新人育成に楽で助かる。


 そして一日レベリングをした結果、メアリーのレベルは二も一気に上がった。後日、この行為を問題視した古参ユーザからのクレームによって詫び石が配布されたのだが、それはまた別の話。

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