第18話「グリッチの発見」

「お兄ちゃん! 大変なことを発見しました!」


 妹がさも大発見をしたかのように俺にビッグマウスを叩く。この手のことをいったときに実際大したものだったことがないのは、コイツと長いこと兄妹をやっているのでよく分かる。


 ギルドハウスで直通チャットをしているが、別にこの場に誰かがいるわけではないのでオープンチャットをしても問題無い。皆出払っているからな、なんでも最近のイベントクエストは報酬が美味しいらしいが、個人報酬に興味は無く、ギルドの報酬しか気にしていない俺としてはどうでもいいことだ。


 ギルドハウスはいつもと変わらない平和な風景を写している。そこを乱そうとログインしてきた妹に不穏なものを感じずにはいられない。


「で、何を発見したんだ? どうせくだらないことなんだろう?」


 妹は心外だというふうに咳払いをしてから俺にこれが『直通回線であること』を確認してきた。


「誰にも聞かれてないですよね?」


「ああ、誰も聞いてないだろ」


「実はですね……この間のクエストでゴーレム必勝法を発見したんですよ!」


 妹がドヤ顔で語ることは割とどうでもいいことだった。


「ゴーレムの攻略法なら山ほどネットにチャートがころがってるだろ」


「違いますよ! レベル1でも必勝の完璧な方法を発見したんですよ!」


「ほぅ……」


 少し興味がわいた。


「一応訊いておくがシステムの改ざんとかじゃないんだよな?」


 そんな方法なら論外だ。あくまでルールに則った勝負で勝たなければBANの危険すらあることを推奨するわけにはいかない。


「ではお兄ちゃんに秘密の技を教えましょう!」


 そう言って妹の回想が入った。主観視点でのスクショもこちらに送ってきながらの解説が始まる。


「私はゴーレムから必死に逃げていたわけですよ、そこで! 私はジャンプをして段差を越えたわけですね! そこでゴーレムは……なんとその段差を飛び越えられなかったわけですね!」


「ふむ……じゃあゴーレムが逃げて終わりじゃないか?」


「ところが! ゴーレムは私へのタゲを解除しなかったのです! 僅かな距離なのに攻撃もしてこずひたすらこちらに向けて歩いて来たわけです! もちろん段差を越えられないゴーレムはその場で止まっているわけです! そこで私はロッドを装備して下級魔法を使用したわけですね」


「それは……」


 端的に言って放置しておいちゃダメなやつではないだろうか?


「足を止めないゴーレムに私はぺちぺちと弱い魔法を打ち込んだわけですね。ゴーレムは動き続けているのでHPの自動回復はありません。私は段差の上で時折座って少ないMPを回復したわけですよ! それをゴーレムは哀れにも私に向けて歩いて来たわけです。無様と言わずしてなんというのでしょう!」


「で、そのまま削り勝ったと?」


「そうです! この方法なら確実に勝つことが出来ます! 下級魔法ならレベル1から使えますからね! 魔道士系のジョブではない戦士の類いでも習得していれば時間はかかりますが倒せるのです!」


「ただのグリッチじゃねえか! 絶対塞がれるやつだろそれは!」


「私の発見した裏技ですよ! 運営が問題にしていないんだから合法のはずですよ!」


 古典的な方法に未だに対処がされていないことに呆れを隠せない。そんなバグは遙か前時代に塞ぎつくされたバグだと思っていたのだが、未だにこのゲームで存在していたらしい。あまりにもくだらない方法だ。


「まあその方法ならBANされるリスクは少ないがな……気をつけておけよ、それとそのバグはいずれ塞がれるから頼りすぎるなよ?」


「なるほど、稼げるときに稼いでおけと……」


「そうは言ってない」


「では私はゴーレム狩りに行ってきますのでお兄ちゃんはギルドの仕事がんばってくださいね!」


 そう言ってポータルから出て行った妹に対していずれ塞がれるものに頼るリスクを説いておくべきだったかなと少し思った。


 後日、正式にバグと認められゴーレムが段差を越えるようになったのだが、幸いゴーレムの経験値が少ないことからロールバックも垢BANも無かったので妹の愚痴を聞くだけで済んだのは幸いだった。

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