第9話「ガチャ! ガチャ! ガチャ!」

 経理の作業をしていたところフォーレの奴から話しかけられた。


「お兄ちゃん! ガチャを回すので付き合ってください!」


 俺も作業は一段落ついていたのでガチャに付き合うことにした。


「分かった、パーティ勧誘を送ってくれ」


「はーい!」


『フォーレさんからパーティのお誘いが来ています』


『承認』


「で、どこのガチャを引くんだ? プリミアのアバターガチャか?」


 ちなみに現在のフォーレは黒髪にしている。気分次第で服も髪も目の色も変えるので頭の上に名前表示がないと気づかないと思う。


「今日はギルド内で回せるアイテムガチャです! 今日は少し懐が暖かいので課金ガチャを回そうと思いまして」


「課金かよ……金持ちな話だな」


「ふっ……私ともなればフリマアプリで売れる物の一つや二つ持っているんですよ!」


「リアルの生活をガチャに割くのはやめた方がいいと思うぞ?」


「大丈夫です! 買値より高く売ってますから!」


「炎上しそうなことはあんまりするなよ……」


 我が妹が好き放題やっているんじゃないかと言う心配を他所に、妹はポータルの方に向かった。どのポータルからでも繋がっているガチャ室へ行くのだろう。俺は気が進まなかったが手招きされたのでついていった。


「さて、家具ガチャとテクスチャガチャ、ジュークボックスガチャとかがありますけどどれにしましょう?」


「全部ギルド向けのガチャだけどいいのか? 自分の装備やアバターガチャを引くのかと思ったんだが」


 フォーレは憤慨して答える。


「私だってたまにはギルドに貢献しますよ!」


「そうか……お前がギルドガチャを引いてくれるなんてな……」


「お兄ちゃん、もっと他の人にもギルド設備のガチャを引くように頼んでもいいと思いますよ? 今の設備を揃えたのはほとんどお兄ちゃんでしょ?」


「強制は苦手なんだよ……」


「お兄ちゃん、ちゃんとギルマスの仕事をしているのは感心しますけどね、一人でなんでもしようとするのは間違ってますよ」


 今日は正論をぶつけてくる妹。しかしギルドガチャを引いてくれるならそのくらいのわがままは聞いておくべきだろう。


「それじゃ、家具ガチャを引きますね!」


「頼む、個人的にはベッドが欲しいな」


「……お兄ちゃん、私と寝たいんですか?」


「誤解を受けそうなことを言うんじゃない! ベッドの効果は知ってるだろ! 寝れば即座にHPとMPが回復して全スキルのリキャストがリセットされるんだぞ! その効果目当てに決まってんだろ」


「ジョークの通じないお兄ちゃんですねえ……」


 やれやれと肩をすくめるフォーレ。自分がガチャを引くからってものすごい上から目線になっている。


「ガチャはメダルで回すのか?」


「いえ、わざわざガチャメダルにするのも面倒なので魔法のカードを買ってきました」


「あんまりそのカードに頼るのはやめろよ?」


 MP現金を消費してなんでも出来るようになる魔法のカードを多用して人生に影響が出た人間は多い。程々にしておけというのにあのカードには本当に魔法が使われているのではないかと疑いたくなるほど人を惹きつけるものだ。


「もうNFCは読み込ませて課金済みですからね。財布の中には……ほら、こんなに!」


 そう言って開く財布には札が何枚も入っていた。このゲームではガチャを回すのに札を使うのが基本だがそれにしても結構な課金量だった。


「では、フォーレ! 行きまーす!」


 古くさいネタと共にガチャに札を入れて回すフォーレ。一枚のデータカードが排出された。


「何が出た?」


「ティーポットですね……せめてアルコールだったらまだ使い道があったんですが……」


「ギルドガチャにアルコールは無いぞ」


 当然全年齢向けのガチャにアルコールは出ない。仮想アルコールの接種は可能だがガチャでポンポン出るのは問題だと言うことで全年齢向けでは一切出ることが無い。そもそもギルドガチャで消費アイテムはほとんど出ないのだがな。


 それから何回も回したが、テーブル、椅子、食器などギルド内設備としては一般的なものばかりだった。


「ラスト一回……ベッドをお願いしますよ……」


 妹が手を合わせながらガチャを回す。すると虹色に光ながらカプセルが一個出てきた。フォーレはそれからカプセルを開け、中のデータカードをチェックする。


「お兄ちゃん! ベッドです! どうですかこの私の豪運は!」


「すげーな……ラストでそれを引くのか……天井も無いっていうのによく引けたな」


「普段の行いですかね! さあさあ! ギルドにベッドを置きますよ!」


 そう言って退出ポータルへ向かっていき触れてガチャ部屋から出た。


「お兄ちゃん! 遅いですよ! もうベッドを置いちゃいました!」


 そう言う妹はギルドの共有スペースの隅の方にベッドを設置していた。幸いハウジングの時に広い家を選択していたのでベッドを置いてもまったく狭くない。


「お兄ちゃん! 今度一緒に寝ましょうね!」


「お……おまっ……」


「ふふふ……冗談……ということにしておきますよ、今はね」


 妹は意味深なことを言ってログアウトしていった。俺はその日、なんだか釈然としない感情を抱きながらギルドの運営雑務をこなすことになった。

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