4章3話 今からダブルデート、なのですから!


ʚ斗真ɞ



「……とは言ったものの! 方法が思いつかねえよ!!!」

「はいはいお疲れー」



――土曜日の朝。


俺は朝から縋るようにして、隼の部屋を訪れていた。


整理整頓された一人部屋。家具は意図的なのか、白で統一され、さらに植物が置かれている……なんじゃこりゃ。いい香りもするし、これがイケメンの威力か……!?


そして部屋に奇跡的に姫はおらず、俺はここぞとばかりに精いっぱい隼に近づく!



隼の部屋に訪れた理由は一つ……!


天詩にあんな事言っといて、そのすべがないのだ!! 普通に恥ずかしすぎるだろ! てことで、救いを求めに来たのだ。



「ふむー。それで、経験豊富な僕に頼りに来たのか。ふむふむ」

「隼、頼むぞ。また罵られることになる」


それだけは勘弁だ! ただでさえ立場が下だとか罵られてるんだからな!

俺は勢いで、隼の両手を握りしめた。


「うっわあ、ちょっと手を掴まないでよー……姫がいたら殺されるよ? こんなとこ見られたら」

「いいじゃないか、どうせいないんだし! 共に奈落の底に落ちようじゃないか、並楽だけに」

「まあ、姫がいないなら……いいよ?」


俺がふざけて寸劇を始めると、隼もノってきて、ぎゅっと手を握り返してくる。周りから見たら、手を取り合う異常者もしくはカップルか。


「じゃあ、斗真くん、これからよろしくね」

「ああ、慣れないが、よろしく……ん?」


――と、がさっ、と音が鳴り、同時に強い殺気を後ろから感じた。


うん、やばい予感する。俺たちは寸劇から離脱し、ぴたりと静止するが……もう遅い。

にゅっとベッドの下から手が出てきて、俺たちはびくっと身を震わせる。



「なああんですってええ!?!?!?」

「「ひっ!!」」


と、長い黒髪を貞子のように揺らしながらも、隼のベッドの下から幽霊――いや、姫が姿を現した。


「許しませんよおおううう……逢引きなんて、絶対に、許さないのですうぅぅう……」


ぞぞっと鳥肌が立つとともに、俺は隼の手を掴んだまま硬直する。



……いや、ベッドの下から登場って……まさか!?


確認のために隼の顔をゆっくりと見ると、隼はぷるぷると首を振る。


「知らなかった……姫、いつからそこに」

「えっと……引きませんか?」


あ、聞きたくないんだけど。


もじもじとしながらも、姫が隼に抱き着き(そしてさりげなく隼から俺を離し)甘い声をつくる。


「実はですね、昨日のよ」

「よし姫ありがとう、出ていこうか」


俺が姫を押すと、むっと頬を膨らませ、姫が隼に飛びつく。


「いいじゃないですか! 隼様ロスなんです! 別に変なことしてませんし!!」

「いやしてるだろ!! 変人通り越して変態だよお前は!!」

「うるさいです! そういう斗真さんだって、隼様と逢引きなんて……許さない、のですっ!」

「うげっ!?!?」


語尾で腹パンを受け、俺は吹っ飛びかけたが、隼に受け止められ一命をとりとめる。


「ふうぅうぅう……隼様に抱きしめられるなんて……もう、これは、最悪です……」

「よしよし姫、落ち着きなって」

「隼様っ!! 最高なのです!! 大好きですっ♡」


単純か。と突っ込みを入れそうになりながらも、俺は慌てて隼から距離を取る。


「とにかく、これは13回目だよ? いつでも会ってあげるから、夜這いだけはやめようね?」

「うぅ、はあい……できる限りは心がける、のです」

「うんうん、偉い」


いや姫、次が楽しみみたいな顔してるけどね? 

てか13回目とかあり得ないし、隼の包容力もえげつないのだが……やはり異次元だ……。


「でっ、斗真さん。のこのこと私の隼様の部屋に何しに来たんですか?」

「痛い、痛いから」


俺を物理的に指で刺しながらも、姫が訪ねてくる。


「斗真はね、日岡さんに告白して、デートコースに悩んでるらしい」

「ば、バカ!!! なぜそうなるんだ!!」

「顔赤いですよ、分かりやすい変態なのです」


隼の済ました冗談に赤面する……告白なんぞするかっ!! ドアホゥ!!

隼の横腹をつつこうとし、姫に完璧防御され、ますます悔しくなる。


と、苦笑しながらも隼が姫を抱き寄せた。


「うそうそごめんねー。実は、日岡さんと斗真が二人三脚のペアになったらしくて。それで、仲を深める方法を探してるんだって」

「ふうん……仲を深める、ですか」


姫はふわりと俯き、一瞬ちらりと隼の表情を伺い、隼がすました顔をしているのを確認する。すぐに顔を上げたと思うと、にこっとほほ笑んだ。


「なら、手があるのですよ!」

「な、なんだ!?」


身を乗り出すと、姫は足を大胆に隼に絡ませる。反射的に目をつむると、嘲笑うようにして姫が笑い声をあげた。


「あら、経験が少ないのですね、かわいそうに」

「なにか言ったか?」

「わーっ、そ、それは、どんな方法なの?」


バトルが始まろうとした中、慌てて隼が間に入ると、姫は甘い声に戻る。


「えーとですね」


小さく息を吸い、姫は俺を指した。



「私と隼様、天詩さんと斗真さん。四人で、デートに行くのはどうでしょう?」




ʚ天詩ɞ




「はあ……今から? 出かける? 四人で?」

「ああ、今すぐ準備しろ、天詩!!」


がちゃん!! と押入れが閉じられ、私は硬直する。

いきなり押入れ開けるなり、『今から隼と姫とお前と俺で出かける。校門で集合だ』って言われても! 知らんがなって感じなんだけどーっ!?


てか、「俺たちの仲を深めないか?」とか言ってきて、何もしてこないじゃない……期待したのに!



……まあ、準備はするけど!


ちなみに、今、ひなたはリレーのアンカーとして校庭に集合させられている。ひなたが、そんなに足が速かったことにびっくりした……ってそんなことより!


私は自分の服装を鏡で確認する。


抹茶色の地に、白のストライプが入ったジャージ。それに、ヘアクリップでハーフアップに留めた髪。

土曜日だからってこんな格好だけど……変えた方がいいよね?


私は押入れを再度開け、ハンガーにかけられている服の中から、少し悩んで、ブラウンのパーカーワンピースを選ぶ。


急がないと、色々文句言われそうだし、早くしないとっ!


と、押入れを開けたまま着替え始めたのがいけなかった……!



ちょうどジャージを脱ぎ、下着姿で押入れに向き直った時。

ばごっ! という音と共に、斗真側の押入れが開いた。



「おい、後10分だからな……って、うわあああああっ!?!?」

「ひああああぁっっ!!?!」



押入れが勢いよく開き、こちらを見る斗真と目が合う。

肌を隠すようにして慌ててしゃがみ込むけど、もう遅い。


「い、う……」

「~~~~~~っ!!!」


耳まで赤く染め、硬直する斗真。


……初日と同じこと、もう嫌だああああぁあ!!



「地獄に落ちろ、悪魔がーっ!!!!!!」


私は我に返ると勢いよく扉を叩きしめ、その場によろよろと身を伏せた……ああっ、何回裸を見たら気が済むのよ、変態悪魔っ!!




ʚɞ





「よし、四人集まったね! ……って、どうしたの二人共……」


学校の校門で待ち合わせ場所についた後。

むすっとそっぽを向いた私と、おろおろとせわしない斗真を見て、隼くんがあきれたようにして声を出した。


「もう、計画台無しですよお……仲良くしてくださいよ! 何しろ、今からダブルデート、なのですから!」


と、同じく呆れたようにする風環さんの口から、聞き捨てならない単語が飛び出し、私は目を剥く。


「はあ……? だぶるでーと、って!?」

「はいっ! そーなのですよ!!」

「……一応、ペアを確認してもいいかしら」


すると、当たり前だと言わんばかりに風環さんが胸をそらせた。


「そりゃー、私と隼様ペア、天詩さんと斗真さん、に決まって……」

「いやだああぁあ!!」


風環さんが最後まで言い切る前に、私は声を張り上げる。


「俺だって嫌だ! でも、姫が決めたことで……」

「嫌よ! なんで私が変態悪魔とデートしなきゃならないのよ!!」


すると、甘い微笑を浮かべながらも、隼くんがゆらりと私に近づいてくる。

そして私を追い詰めると軽くしゃがみ、私の耳に口を寄せた。


「じゃあ、僕とデートする? 日岡さん」

「……っ!!」


そっ、それは、無理で!!


と言う前に、ものすごい力で、風環さんが隼くんを引き剥がした。


「ダメです!!! ぜーったいに、死んでも嫌です!! もし二人がデートするなら、私は切腹するのです!!」

「冗談だよ、冗談」


隼くんはひらひらと手を振り、風環さんの頭をなでながらも、私と斗真を交互に見る。


「てことで、ペアは決まったよね? ……じゃあ早速、始めようか。ダブルデート」

「では、お互いに仲を深め合いましょう、なのです!!」



こうして私は、変態悪魔と半強制的にデートをすることになった……ううっ、最悪だぁ!!!

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