3章4話 これは、ただのラブレター、だよ?


ʚ天詩ɞ


「おっはよ、天詩っ! 朝だよー」

「んはよーぉ……」


朝、パジャマ姿でひなたに起こされ、私はうっすら目を開く。

熊の耳が付いたオールインワンのパジャマを着こなし、ひなたはばたばたと準備をしている。


んー、私も準備しないとなぁ……。



重い体をベッドからおろし、顔を洗い歯を磨き、制服に着替え、長い金髪を二つに結ぶ。よし、今日も頑張るぞっ!



準備が終わったひなたと、ドアの前で待っていた黒花さんで朝ごはんを食べに行く。実は、こういう他愛無い時間が一番好き!

私たちはいつものクレープ屋さんへいき、奮発して豪華な抹茶クレープを頼む。


「おデブまっしぐらだね!」


と、レタスサラダを食べるひなたに言われた気がしたけど、空耳だよね?


ちなみに今日は、斗真は隼くんと食べるらしい。その様子は、私たちと同じ店で食べてるから、丸見えなんだけどね!

プラス、前隼くんと一緒にいた、隼くんに『姫』って呼ばれてた女子も一緒だ。


なーんだかなー、悔しい気持ちがないわけじゃないけど……うあっ、私、何考えてるのよ!


まあ、万に一、斗真が私を手招きしてきても、私は絶対に行かない。


だって……隼くんがいるから。


「おーい天詩ーっ、ぼーっとしすぎだよ! ちゃんと食べることに集中しないと、クレープが逃げちゃうよ?」

「そうですよ! どうしたんですか、斗真さんばかり見つめちゃってー」


二人に頬をぷにぷにされて、はっと我に返る。


「ごめん! てか黒花さんのバカ! なわけないでしょ!」

「ふぅーん? 私は、意見的には黒花さん派だよ?」



「……あのぅ……私、二人にお願いがあるんですけど……」


と、おずおずと黒花さんが手を挙げた。


「「なにー?」」


すう、と息を吸い込むと、黒花さんは赤い顔をして叫んだ。


「わっ、私の事、美雨って呼んでくださいっ!!」


「「「「「美雨様!!!」」」」」


と、なぜか、周りで私たちの会話を聞いていた男子たちが返事をする。


「はわっ、あのっ、えっとっ」


がちんがちんに固まる黒花さん――いや、美雨。


「……もう、緊張しすぎだよー、美雨!」

「そうそう、もっと自信を持った方がいいわよ、美雨」


「っ……!! あ、ありがとうございます!」


きらきらと顔を輝かせる美雨。羨ましくなるくらいかわいい……っ!

思わず美雨の頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。


「そういえば、私のこともさん付けだったよね? 天詩ってよんでよ」

「私はひなたで!」


思案顔になる美雨。ん?? 私、まずいこと言った?

と、もじもじとしながらも美雨が私たちを見つめた。


「あのっ、つくづく失礼だと思うんですが……呼び捨てをするのが苦手なものでして……。そう呼ぶのに、時間がかかってしまうかもしれないんですけど、あの、それでもいいですか?」

「「もちろん!」」


ホッとしたようにして美雨はほほ笑んだ。


「じゃあ、よろしくねっ!」




「……」


私たちがきゃあきゃあと盛り上がる中、冷たい視線が私に向いていたことに、私は気付かなかったんだ。




ʚɞ




幸せをお腹に詰めた後、クラスの違う黒花さんとは別れ、ひなたと教室に向かった。


教室に入った瞬間、(廊下でも感じてたけど)ばっと集まる視線!


「天詩さん! 今日もかわいいっスね!!」

「俺と付き合ってください!!!」

「天詩ちゃん、友達になるついでに、私と付き合って!!」

「天詩ちゃん、マジ天使!!!」


「すんごい天詩人気だねー、罪な女、うらやましー」


ジト目、やめてくれるかな? 私、悪い事何もしてないんだけど?


ひなたの静かな視線を流しながらも、私は席に着く。

……あっ、そういや昨日、理科のノートを入れっぱなしにしてたんだっけ。今日は理科の勉強をしたいし、出しとこっと。



机の中に手を入れ、ノートを出そうとすると、かさ、と何かに手が触れた。


……ん?


特に何も考えずに引っ張り出す。



「……手紙?」



それは、宛先も名前も書いていない、小さな封筒だった。


んーなんだろう、私に告白かな?? 手紙なんて、百以上貰ったけど……あ、これ、後で斗真に言って自慢してやろうっと。


「どうしたのん、天詩?」


悔しそうにする斗真の顔を重い浮かべならも、手紙片手ににやにやしていると、ひなたが私の顔を覗き込んできた。

まずいっ、私に手紙を渡したことを、バレたくない人だっているもんね?


私は慌てて手紙を隠し、「なんでもないよー?」と返す。

よし、後で読ーもうっと。


私は手紙を机の中に押し戻した。




ʚɞ




――放課後。


「つっかれたぁぁ!!」

「うぅ……脳みそえぐれた!」


ふはぁ、疲れたぁ!

放課後、私はひなたと共に机に突っ伏す。今日はみっちり授業だったからなぁ……ああ、テスト勉強が億劫だよー……!


とりあえず机の中の教科書を出そうとし、そこでようやく手紙の存在を思い出した。

んー、トイレで読んでこようかな?


「ごめーん、ちょっとお手洗い」

「いってらー」


ひなたに手を振り、私は軽い足取りでトイレに向かう。


と、前から来る人にぶつかりそうになり、私は顔をあげた。



「……なんだ、そんなにトイレが楽しみか? トイレでパーティでもするのか」

「……出たわね」


こんな嫌味を言う奴、一人しかいないでしょ! 

するとやはり、変態こと安久麻斗真が、呆れたようにして私を見ていた。


あっ、ちょーどいいや、手紙の事自慢しとこうかな?


「あー今日も手紙を貰っちゃったぁ! あら、そこに非モテ(笑)の悪魔さんがいるじゃない」

「なんだよ! ……な、何の手紙なんだ?」


興味がないふりをしながらも、ちらちらと私の手元を見てくる。ふふふん! 聞いて驚け!


「あぁこれー? これは、ラブレター、だよ?」

「らぶれたーっ!?!?」


斗真がぽかんとして私を見る。むふー、この顔が見たかったのよ! 

……こんなこと言ったら、『お前の方が悪魔だよ!!』なんて言われそうだけどね?


「じゃ、この気持ちに答えないとだし、そろそろ失礼するわね」

「う、うぅ……別に羨ましくないがな、ごにょごにょ……」


私はごにょごにょとつぶやく斗真を置き、女子手洗いへと入る。

中には誰もいない。よしっ、見てやりますか!!


私はるんるんとしながらも封筒の封を解く。



「…………ぇっ!?!?」



瞬間、私は青ざめることになる。




中には、小さなメモが入っていて。



―――『チカヅクナ』。



そう、たどたどしい文字が書かれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る