第4話 美味しい夕飯と怪しいおばば

「イオのスキルが知りたいが……だいぶ時間が経ってしまったな」


 空を見上げるとすっかり夕方だ。


「ご主人。たくさん動いたからお腹減ったにゃ」


 イオのネコミミがペタンと寝ている。シッポもダランと下がっていて元気がない。

 守護獣ビーストは人間ほど食べない。だが、全然食べない訳ではない。

 俺もお腹減ったな。


「そうだな。って、お金持ってないんだった……」


 無一文だったことを思い出して落ち込む。


「あの、私たちの村へ来ませんか?お礼と言ってはなんですが、夕飯に招待させてください」

「行くにゃ!」


 はーいとイオが手をあげる。しょげていたネコミミとシッポが元気になっていた。


「フェイジュン、悪いがお邪魔させてくれ」


 ここにいても何にも変わらないので、お言葉に甘えることにした。

 タイタンが馬に戻る。

 フェイジュン、俺、イオの順に乗った。

 やっぱりタイタンは大きい。

 貴族として乗馬も学んでいたが、こんな大きな馬は見たことがない。


「振り落とされないように、私にしっかり掴まって。

 待って、やっぱり掴まらないで……」

「大丈夫か?耳が真っ赤だぞ?」

「だだだだ大丈夫です!」


 フェイジュンの腰に掴まる。

 布越しのやわらかな腰の感触。ほのかな温かさ。

 フェイジュンが言ったことが分かった。


「ご主人も真っ赤だにゃ」


 にゃはははとイオが笑う。ものすごく悔しい。


「飛ばすぞ」


 そう言ってタイタンが走り始めた。


「うわぁぁぁぁあああ!」


 速い。速すぎる。

 ドンドン速くなるスピードについて行けない。

 あまりの速度に、俺は気絶した。




「レオさん、着きました」

「にゃははは!ご主人、気絶してたにゃ」


 気がつくと草原の、大きなテントがいくつもある場所にたどり着いた。

 フェイジュンが俺を見てニッコリと笑った。


「ようこそ。ラカータ族の村へ」


 タイタンは見回りに行くと言って、馬のまま走っていった。

 フェイジュンが言うには、タイタンはあまり人にならないらしい。

 さっきまで人になっていたのは緊急事態だったから、だそうだ。

 いつも人のすがたでいるイオと逆だ。


「フェイジュンおかえりなさい」

「フェイジュン、その人だれ?」


 みんながフェイジュンへ親しげに話しかける。

 俺のことも説明してくれたようで、みんながにこやかな挨拶をしてくれる。

 今まで白い目で見られていたので、村人たちの温かさにうっかり泣きそうになってしまい、慌てて表情を引き締めた。


「いい匂いがするにゃ」


 イオがクンクンと鼻を動かす。

 いい匂いがする鍋を運ぶ、ふくよかなおばさんがイオに話しかけた。


「あら、可愛い守護獣ビーストちゃん!盛り付けが終わったら、すぐにご飯よ」

「やったにゃ!」

「お世話になります」

「あらあら〜、困ったときはお互い様よ」


 慌てて頭を下げた俺に、ふくよかなおばさんはウィンクした。



 食事は村のみんなが集まる盛大なものだった。

 村の真ん中に火を焚き、その周りでガヤガヤと、にぎやかにご飯を食べる。

 羊の丸焼きや、独特の風味のスープなど、見たことがない食べものばかりだ。


「王国には無いものばかりだ」


 さっきのおばさんが、食べ物を皿に分けてくれた。

 不思議なスパイスの風味が鼻に抜ける。美味しい。

 慣れない香りに、おそるおそる食べ始めたイオのネコミミがピンッと立った。

 と思うと、目を真ん丸にしてご飯を勢いよく食べだす。


「おいしいにゃ!」

「お口にあいましたか?」

「すごく美味しいよ。ありがとうフェイジュン」

「い、いえ、わ、私はすべきことを行ったまでです」

「あら、珍しい。フェイジュンが取り乱すなんて」


 近くにいた、ふくよかなおばさんがニヤニヤとしている。


「ねぇ、レオくん。フェイジュンは村一番の美人なの。

 街に住むあなたから見ても美人かしら?」


 おばさんは楽しそうだ。

 フェイジュンを改めて見た。

 見つめられているフェイジュンは、頬を赤くして俺から目をそらしている。

 自分のことで頭がいっぱいだったから、気づかなかったが、フェイジュンはキリッとした顔立ちはクールな印象だ。

 王国では珍しい黒髪がキレイにまとめられていて、エキゾチックな感じもする。

 ……うん、美人だ。


「フェイジュンは美人だと思います」

「ぶふぁっ」


 おばさんに素直に答えると、フェイジュンが真っ赤になってお茶を吹き出した。

 そういうギャップも可愛いんだが、言ってはいけない気がしたので黙った。


「あらあら〜」


 おばさんは分かっています。といった顔で、フェイジュンにハンカチを差し出していた。


「ゴホン。おババさまがイオちゃんにお会いしたいとのことです。

 お食事が終わったら一緒に行きましょう」

「あら、おババさまにも会うのね〜。ラカータ族の守護獣ビーストはおババさまが与えてくれるのよ。

 イオちゃんが街の守護獣ビーストだから気になるのかしら」


 のほほんと喋りながら、おばさんは俺の皿に食べ物を山盛りにのせてくれた。


「お腹破裂する……」


 結局、あの後は代わる代わる人がやってきて、話したり食べたりしたから、いつもの数倍食べてしまった。

 あのおばさんも山ほど食べさせてきたし……。

 腹をさする俺にフェイジュンが苦笑する。


「お客さまが来ると、みんなテンションあがるから……」

「全部食べたのエラいにゃ」

「泊まるところまで用意してくれて、申し訳ない。フェイジュンのおかげだよ」

「い、いえ、わ、私は提案しただけですので!」


 フェイジュンの案内でおババさまのテントへ向かう。


「ここがおババさまのテントです」

「わ、守護獣ビーストだらけだ」


 この村の守護獣ビーストが集まっているのでは?と思うほどの、たくさんの守護獣ビーストがテントをかこんでいる。


「夜なので、みんなおババさまの近くにいたがるんです。

 もちろんお仕事がある守護獣ビーストはいませんけど」

「俺たちは守護獣ビーストといつも一緒にいるから、守護獣ビーストが自分から離れているって変な感じだ」

「ふふふ、さあ中へ」


 ドキドキしながらテントへ入る。

 中はランプが灯されていて、小さなおばあさんが座っていた。

 怪しげな魔術師を想像していたのに、あっけないほど普通だった。


「おババさま。連れてきました」

「フェイジュン、ありがとうね。悪いが二人で話したい。席を外してくれるかい?」

「ええ。他にやることがありますので……。終わったら教えて下さい」


 フェイジュンはおババさまにおじぎをして、去っていった。


「さて、イオ。あなたの中を覗かせておくれ」


 水晶玉をイオの前にかざして、おババさまが中を覗く。

 しばらくそうしていたかと思うと、おババさまが水晶玉を取り落とした。


「なんてこと!」


 あんぐりと口を大きく開け、目を見開いたおババさまとポカンとする俺とイオ。


「し、神獣様……」


 気を取り直したおババさまはそう呟いた。



 ◆◆◆


 読んでいただきありがとうございました。 


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