Day3-9 魔術科の四女神


「次は魔術科の校舎の方へ行きましょう!」



何だかベルデが元気だ。


シフの髪を触って、ついでにノアちゃんの匂いも嗅いでいたからであろう。



「基本的には魔術科の生徒はクセが強いですよ。 魔術科に限らず、自分からヒロト君にアプローチしてくる女の子ってクセが強いですけどね。 でも、魔術科の生徒って『自分は魔法しかない』『魔法に命を捧げるんだ』とか言いつつ、えっちなこと大好きなムッツリスケベが多い気がしますね」


「それはかなり偏見が入っていないか?」



魔術科の生徒はラルム先輩しか知らない。


話してみた感じはクセが強い印象はなかった。


魔法で本を浮かせながら図書館で寝ているとかは、ファンタジー世界では普通にありえそうなことだし。



……でも、空を飛びながらしたいと思うのは、やっぱり個性的だよな。



「おや、ヒロト君。どうかしましたか?」


「……やっぱり、セックスはノーマルが一番だと思う」


「何を言ってるんですか、アブノーマルの化身が」




―――――




「そうだ、ベルデ」


「何ですか?」


「騎士科では生徒会長のルリノさんが最強だって話を聞いたんだけど。魔術科では一番強い人って誰なの?」


「それは魔術科2年の『雷の女神』ことライラさんですね」


「3年生じゃないんだ」


「魔術科は豊作の年と不作の年が極端なんです。今の3年生は不作で、才能ある人が多くないです。そして、2年生は奇跡の世代と呼ばれるくらい、才能のある人が多いです」


「そうなんだ」


「『雷の女神』ライラさんを筆頭に、他には『炎の女』『水の女神』『土の女神』がいて、パワーバランスが保たれています」


「この学園『女神』多いな。二つ名には『女神』って入れないといけないルールでもあるのか」


「まあ女神様はこの世界で象徴的な存在ですからね。でも、信仰心が強い人は女神の名を冠することには抵抗があるみたいですけど」



そういえば聖女様もそんなことを言っていたな。



「でも、魔術科の四女神とは関わらないことをおすすめしますね。全員、美少女ですが……命にかかわる方向でヤバいと思うので」


「命にかかわる……?」


「そうですね……多分ですが、『雷の女神』は雷撃でヒロト君のことを痺れさせながらセックスしたいとか言うでしょう」


「マジか」


「『炎の女神』はヒロト君を炎で炙りながら、『水の女神』はヒロト君を水に沈めながら、『土の女神』はヒロト君を土に埋めながらしたいとか言うでしょう。どうしても四女神としたいと言うなら聖女レベルの回復職(ヒーラー)を連れてきてから挑むべきです。魔法攻撃力ダウンのデバフ持ちもいた方がベターですね」



かわいい女の子を探しに来ていたのに、RPGの攻略みたいな話になっている。



「よし帰るぞ!かわいさの女神」


「お兄ちゃん、それって私のこと? 私なんかが恐れ多いよ……」


「いいんですか四女神以外にも、かわいい女の子はいるんですよ」


「もう少しレベル上げをしてから挑もうと思う」


「確かにその方がいいかもしれませんね。レベルなんてものがあればですが。……でも、もう遅かったみたいですね」


「……っ!?」




ここは魔術科の校舎と普通科の校舎との間。


中庭と呼ぶには広い公園のような場所である。


境界線が引いてあるわけではないのだが、僕たちは魔術科の敷地の方に足を踏み入れていた。



それだけで、彼女たちは気付いていたのだ。



空気が張り詰める。


さっきまで晴れていたのに、急に黒い雲が覆う。


引き返そうとしたが、足がすくんで動かない。


4人の影がゆっくりと僕たちに近づいていた。



「やぁ、ヒロト。ようこそ、魔術科へ。来てくれてうれしいよ」



体の周囲にバチバチと火花が散っている女の子が最初に声をかけてきた。


彼女が雷の……



「私は雷のライラ」


「ワタシは炎のイーフ」


「わたくしは水のミズハ」


「ボクは土のトキ」



イーフの周囲には火の玉が浮かんでいる。


ミズハの周りには水が、トキの周りに石が浮いている。



彼女たちはそれぞれ、黄・赤・青・茶色の制服を着ていた。


勝手に制服をアレンジしているようだ。



「せっかく来てくれたんだ。今から一緒に遊びましょう」


「そうだな、それがいい」


「まあ、楽しそう。何して遊びますか?」


「普通科のやつって大体弱いぞ。かなり手加減してやらねぇとな」



彼女たちのテリトリーに入ってしまったことで、こちらには主導権はないようだ。



「何で固まってるんだ3人とも」


「動かなくなるのはまだ早いぞ」


「そうですよ。これからです。ふふふ」


「まあ、どうやったってボクたちからは逃げられないと思うけどね」



魔法が使えない僕でも、彼女たちはものすごい魔力量を持っていることが伝わってくる。


僕らの存在にすぐに気付く程の感知能力を持っているのであれば、確かに逃げるのも難しいだろう。


何とかノアちゃんに被害が及ばないようにしないと。


ベルデは……まあ、何とかなるだろう。


とにかく、彼女たちの機嫌を損なわないように『遊び』に付き合うしかない。






僕とベルデとノアちゃん




そして




魔術科の四女神は




この後





『だるまさんがころんだ』をして




楽しく遊んだ。











ーーーーー











本当に遊んだだけ。


えっちなことはしていない。


たまに、ビリビリしたり、火傷しそうになったり、水で濡れたり、土で汚れたりしたが。



それに、この4人。


時々、僕に話しかけてくるんだけど、目を合わせない。



それぞれ4人から



「ヒロトはさぁ……いや、何でもない」


「なぁ、ヒロト。私と……あ、何でもないです」


「ヒロト。ワタクシと……その……いえ、何でもございませんわ」


「ねぇねぇ、ヒロト。ボクと……いや、何でもないよ!」



みたいなことを言われたけど、何だったんだ?



「4人がこんなにもヘタレだったとは、私も知りませんでした」


「どういうことだ、ベルデ?」


「4人ともヒロト君と親密な間柄になりたいと思っていたようですが、それを言い出せなかったようですよ」


「はぁ」


「あんなに強力な魔力を持っているんですよ。本気を出せば、他の生徒を押しのけてヒロト君をさらうことだってできるんですよ。でも、それをしないっていうのは、この学園の生徒としての規範を守るためでも、四女神のパワーバランスによるものでもなく……みんな、シャイだったからなようですね。私も人見知りなので気持ちは分からなくもないです」


「もう……いいよ。遊んで腹が減った。もうお昼だし食堂行こう」


「行きましょう!食堂楽しみです」



ノアちゃんは本当に癒しだ。



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