Day1-4 魔術科の先輩と

1日目・夕方


「私は図書館に行きたいんですが、いいですか?」


ベルデが僕に聞いてきた。


「私は本を読みたいです。うちの学校の図書館は大きくて有名で膨大な量の本があるらしいです。勉強嫌いのヒロト君は興味がないでしょうけど」

「別に勉強嫌いだとか言ってないんだけど……」


憎たらしいことばかり言うベルデだが、だんだん慣れてきた。

確かに図書館は確かに立派でお城のようだった。


「ヒロト君は多分、次は魔術科の生徒とヤりたいとか思っているはずです。お姫様は置いといて、普通科、騎士科の女の子とヤっちゃったんですから」


そんなことはない!……とは、だんだん言えなくなってきてしまった。

事実、ベルデの言う通りやらかしてしまっているのだから。


「心配しなくても大丈夫ですよ。魔術科の生徒は私みたいな学者肌が多いですから。きっと入学式の日でも図書館に来ているはずです。新入生だけではなくで上級生もいるかもしれませんよ」


フラグを立てまくられる。


「それじゃあ私はあっちの方に行きます。ヒロト君も好きな本を探すなり、好みの美少女を探すなりしたらいいと思います」


ベルデとは別れてそれぞれ興味がある分野の場所へ向かった。


図書館の中は自然光を採り入れて、荘厳な雰囲気である。


さて、どちらの方へ向かおうか。


そう思っていると……


―――バサッ!


痛い。

頭の上に本が落ちてきた。

上を見る。

そこは吹き抜けになっており、誰もいない。


『ごめんなさい』


声がしたのでもう一度上を見るが、やはり人の姿はない。


『悪いんだけど、上まで持って行ってくれない?』

「本がしゃべった!」


声がしたのは本からだった。

さすがファンタジー世界。

やっべぇ、ワクワクしてきたぞ。


『しゃべってるのは本ではないよ。魔法を使って本を通して声を行き来させているだけ』


そんなことができるのか。


『そこにエスカレーターがあるでしょ?それに乗って一番上まで来て』


エスカレーターも何か不思議だ。

現代日本の仕様とは違う。

電気ではなくて魔法で動いているんだろう。


最上階に着く。


そこは空中庭園だった。


三角帽子を被った女の子が草むらで寝っ転がっている。

本を枕にしながら。

彼女の周囲には何冊もの本が宙に浮かんでいる。



「ありがとう。私はラルム、魔術科の2年だよ」


「ヒロトです。普通科の1年です」


「新入生か。入学したばかりで図書館に来るなんて勉強熱心だね」


「いや、何となく来ただけで、勉強するつもりでは……」


「それよりも、さっきは悪かったね。ちょっと仮眠をしてたら、誤って本を落としてしちゃったんだ」


「こんな高い所から落としたんですか?」


「落としたというか、魔法の制御から外れてしまったというべきかな。ここから下の方まで行ってしまったんだ」



僕が渡した本を受けとると、ラルムは本を紙飛行機のように飛ばした。

本は吹き抜けから落下したかのように見えたが、くるっと回ってこちらへ戻ってきた。



「先輩が落ちなくてよかったですね」


「心配してくれてありがとう。もし魔法のことが知りたかったら、色々教えて上げるよ」


「先輩は何か得意な魔法はあるんですか?」


「コーヒーを美味しく入れる魔法かな?」


「それって魔法なんですか」



空中からコーヒーカップとポットが現れる。

僕の目の前にやってきてコーヒーを注いでくれる。



「さあ、飲んでみて」


「ありがとうございます」


「どう、おいしい?」


「あの……砂糖とミルクを頂けたらうれしいです」


「……魔法よりも、まずヒロトの好みを聞いてなかったね、ごめん。角砂糖は何個入れる?」


「3個お願いします」


「結構、甘党だね」



今度は角砂糖の入った瓶とミルクの入った容器が現れる。

僕が持っているコーヒーの中に3つの角砂糖とミルクが溶け込んでいった。



「コーヒーを入って普通にやると何でもないことかもしれない。こだわり派の人もいるけどね。だけど、魔法でやることはすごく大変なんだ。どこまで魔法でやるかとかは、やる人の裁量だけどね。私ができるのは、『モノを浮かべる』『熱を加える』『風を送る』『均等に混ざるように攪拌する』とかかな。他の人は派手な魔法を追及しがちだけど、私は、細かい作業をする魔法を鍛えているんだ」


「コーヒーありがとうございました。とても美味しかったです」


「それは良かった。ところでヒロトのコーヒーの好みは聞いたけど、女性の好みはどんな人なの?」



ここで来た!

普通の会話をしているだけだと思っていたのに、そうは問屋が卸さなかった。



「え~と、好きになった人がタイプ……でしょうか」


「私のことは好きになれそうなタイプかな」



気が付くと二人とも体が浮いていた。



「ヒロトはあまり魔法のこと知らないようだから、特別に教えてあげるよ。空を飛ぶとがどんなに気持ちいいかを」



二人は宙に浮かびメリーゴーランドみたいにくるくる回る。

いつの間にか後ろに回っていたラルムが僕に抱き着いてきた。



「あと、空を飛びながらのキスをね」



僕に口づけしてきた。



「と言っても、私はキスをするなんて初めての経験なんだ。君もそうだったらいいな」


「あの……僕は……ん」



僕が言おうとしたことを、無理やり唇で塞いできた。



「無粋なことは言わなくていいよ。君は私と初めてするんだ。それでいい」


「……はい」




魔術科の先輩と図書館で





しかも、空を飛びながら







した。




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